1560万人のデータで示された高中性脂肪の心血管死亡率増加

中性脂肪値は非常に重要であるにも関わらず、医師でさえそれほど気にしていません。

今回の研究では、韓国のデータベースを使用して、一般集団における中性脂肪(空腹時)と心血管疾患による死亡率との関連性を分析しています。対象人数は膨大で、定期健康診断を受けた18~99歳の15,672,028人(平均年齢47.3歳)について、平均8.8年間の追跡調査を行っています。追跡調査期間中、105,174人が心血管疾患で死亡しました。(図は原文より)

上の図は、年齢と中性脂肪値です。左側の方が日本の単位で書かれていますね。

男性(緑の線)では、中性脂肪値は30代後半から40代半ばまで加齢とともに急速に増加し、40代半ば以降は徐々に減少しました。一方、女性(赤い線)では、70代半ばから80代前半まで加齢とともに徐々に増加し、その後減少しました。男女間の交点は60代後半で、それ以降は女性の方が男性よりも中性脂肪値が高くなりました。高中性脂肪血症の有病率は、中性脂肪カットオフ値に応じて28.8%(≥150 mg/dL)または15.3%(≥200 mg/dL)でした。

上の図は、中性脂肪カテゴリーで分けたときの、心血管疾患による死亡リスクで、左側は男女合わせたもの、右側は男女別です。中性脂肪の基準のカテゴリーは50~74mg/dLです。単純にどちらのグラフも右肩上がりで、中性脂肪が高くなるほど心血管疾患による死亡率は高くなります。

上の図は、心血管疾患の種類別の死亡リスクです。心血管疾患(CVD)全体の死亡率は先ほどと同様なので、右肩上がりです。次のグラフ虚血性心疾患(IHD)、心筋梗塞(AMI)と虚血性脳卒中(IStr)では中性脂肪値との相関があり、中性脂肪値が上がるほど死亡リスクが上がります。

一方、心不全(HF)や出血性脳卒中(HStr)は中性脂肪値と相関が見られませんでした。

注目すべきは、中性脂肪値が50mg/dL未満の場合、心血管疾患、虚血性心疾患、心筋梗塞、虚血性脳卒中による死亡率が最も低かったことです。低い中性脂肪値が重要ですね。

 

上の図は、中性脂肪値の2倍増加と心血管疾患死亡リスクを、LDLコレステロール値別で示しています。全体では心血管疾患死亡リスクが1.10倍でしたが、虚血性心疾患1.22倍、急性心筋梗塞1.24倍、虚血性脳卒中1.10倍でした。LDLコレステロールが上がるほど、これらの死亡リスクも上がりました。

中性脂肪値の増加は、糖質過剰摂取、インスリン抵抗性を示し、通常糖質を摂取した方がLDLコレステロールは低下することを考えれば、中性脂肪が上昇し、LDLコレステロールまでも上昇するくらいインスリン抵抗性が高くなることが死亡リスクを高めていると考えられます。

年齢層別で見ると、中性脂肪値の2倍増加は、心血管疾患全体では、若年(18~44歳)で1.13倍、 中年(45~64歳)で1.08倍、高齢(65歳以上)で1.06倍でした。虚血性心疾患は若年で1.26倍、中年で1.20倍、高齢で1.16倍でした。

LDLコレステロール値が100mg/d未満の人の間でも、ややリスクは減少したものの、有意にリスク増加がある場合が多く、急性心筋梗塞では全体の年齢層で1.13倍、若年で1.17倍(有意差なし)、中年で1.11倍、高齢で1.08倍でした。つまり、中性脂肪値が高いと、LDLコレステロールが低くても心血管疾患リスクは高くなるのです。

では、スタチンがあなたを心血管疾患から守ってくれるでしょうか?下の図はスタチン使用者の心血管疾患死亡リスクです。左が全体、右側はLDLコレステロール値が100mg/d未満の人です。

上の図のように、スタチンを飲んでも、スタチンを飲んでLDLコレステロールが100未満になっても、やはり中性脂肪が増加するほど死亡リスクは高くなりました。

これまで、医師は意識的に中性脂肪をスルーし、LDLコレステロールにばかり固執してきました。それは、スタチンの存在があるからで、LDLコレステロールはコントロールできるけど、中性脂肪をコントロールする薬を持っていなかったからでしょう。医師は自分で薬でコントロールしなければ治療したことになりません。食事でコントロールしても、治療した気分にはなれません。ただ、今後中性脂肪値を劇的に下げる薬が出てくる予定です。(「中性脂肪を下げる薬オレザルセンの効果」参照)そうなったら、いきなり中性脂肪値にも注目し始め、薬をどんどん処方するかもしれません。

重要なのは、やはり中性脂肪値を低く保つことです。でも薬は必要なく、食事で十分です。糖質制限で十分です。

「Impact of hypertriglyceridaemia on cardiovascular mortality according to low-density lipoprotein cholesterol in a 15.6-million population 」

「1560万人の人口における低密度リポタンパク質コレステロールに基づく高トリグリセリド血症の心血管死亡率への影響」(原文はここ

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