LDLコレステロールを下げる薬スタチンだけでは飽き足らず、製薬会社はLp(a)を下げる薬を開発し、今度は中性脂肪を下げる薬を出してきました。
確かに高中性脂肪は良いものではありませんので、低下させることは必要かもしれません。
今回の研究は、第3相国際二重盲検ランダム化プラセボ対照試験の結果です。この臨床試験では、中等度の高中性脂肪血症(中性脂肪値150~499 mg/dL)で心血管リスクが高い患者、または重度の高中性脂肪血症(中性脂肪値500 mg/dL以上)の患者を登録し、月1回のオレザルセン皮下投与を行いました。
月1回の投与で済むということは利便性は良いかもしれませんが、副作用が起きれば、1か月副作用から逃れられない可能性もありますね。
合計1349人の患者(オレザルセン50mg群254人、オレザルセン80mg群766人、プラセボ群329人)が対象で、年齢の中央値は64歳、患者の40%が女性でした。
ベースライン時の中性脂肪値の中央値は238.5mg/dLでした。(図は原文より)
上の図のAは12か月間の中性脂肪値の推移です。オレザルセン群はどちらも28日後には大きく中性脂肪値が低下しています。その後は少し低下しますが、横ばいです。
Bに示すように、6か月時点のプラセボ調整後中性脂肪値の変化平均値は、オレザルセン50mg群で-58.4パーセントポイント、オレザルセン80mg群で-60.6パーセントポイントでした。
それ以外の非HDLコレステロール、VLDLコレステロール、レムナントコレステロールなども大きく低下しました。HDLコレステロールは大きく増加しました。正直言って理想的な変化ですね。中性脂肪が低下し、レムナントも減少、HDLコレステロールは増加という変化ですから。
この薬、中性脂肪の除去を阻害するアポリポタンパク質C-III(ApoCⅢ)をターゲットにしています。上の図でもApoCⅢは大きく低下しています。
この研究論文の要旨の最初の文章は次のようになっています。
「Highly effective therapies to reduce triglyceride levels are lacking. 」
「中性脂肪値を下げるための非常に効果的な治療法は未だ存在しない」
まさに、これが今の医療の問題を示しています。中性脂肪値を下げるための非常に効果的な「治療法」はありませんが、中性脂肪値を下げるための非常に効果的な「食事法」はずっと存在しています。その食事法は糖質制限です。効果的な食事法は無視して、薬を患者に飲ませたいのでしょうね。
ApoCⅢはAPOC3の遺伝子にコードされていて、APOC3は糖質によって増加します。「ApoCⅢ産生速度の増加が中性脂肪値を高くしているかもしれない」で書いたように、糖質摂取→ChREBP活性化→ApoCⅢ増加と考えられています。
ApoCⅢはカイロミクロン、VLDLやLDLにくっつくことにより、LPL活性が下がるので、レムナントを作る原因となってしまいます。またHDLにくっつくと引き抜き能が低下し、機能不全のHDLになってしまいます。
以前の記事「ApoCⅢの調節と役割」で書いたように、現代の食事、つまり糖質過剰摂取食ではApoCⅢは「悪玉」です。糖質過剰摂取がApoCⅢの異常な増加を生んでいると思われます。特にインスリン分泌をあまり刺激しない果糖の摂取がApoCⅢを大きく増加させます。(「果糖はブドウ糖よりもApoCIIIを大幅に増加させる」参照)
動物実験では、ApoCⅢが欠損していると脂肪の異常な蓄積、体重増加が認められます。ApoCⅢを阻害する、オレザルセンを投与で人間がどうなるのかはまだわかりません。一応、製薬会社の臨床試験では、重篤な有害事象の発現率は、両試験群で同程度であった、と書かれていますが、中身は私は確認できていません。
コレステロールと同じで、ApoCⅢそのものが「悪玉」ではなく、恐らく体にとっては必須のものです。ApoCⅢにはミトコンドリアのシグナル伝達に関連しているなど、その他の重要な役割も示唆されています。現代の食生活とミスマッチを起こしているからと言って、抑え込めばすべてがうまく行くわけがないと考えていますが、数値合わせが今の医療です。
食事で改善するものをわざわざ薬でコントロールしなければならないのは、おかしいと思いませんか?それが今の医療の歪んだやり方です。糖質過剰摂取を推奨し、中性脂肪値を上げさせ、中性脂肪値を下げる薬を投与して、治療した気になるのが専門家と呼ばれます。
オレザルセンは今後どんな薬になるのか?第2のスタチンになるのか?それとも本当に有益な薬になるのか?
「Targeting APOC3 with Olezarsen in Moderate Hypertriglyceridemia」
「中等度の高トリグリセリド血症におけるオレザルセンによる APOC3 標的化」(原文はここ)