ApoCⅢ産生速度の増加が中性脂肪値を高くしているかもしれない

ApoCⅢは50年以上も前に発見されているのですが、一般の人にはあまりなじみがないかもしれません。私のブログでは何度も登場しているので知っている方もいるかもしれません。

ApoCⅢはリポタンパク質を構成しているアポリポタンパク質の一つです。

血液中では、カイロミクロンおよびVLDLに存在し、LDLおよびHDLにも存在します。ApoCⅢはリポタンパク質リパーゼ(LPL)という酵素の活性を阻害します。LPLはリポタンパク質の中性脂肪を脂肪組織に取込む作用を示します。ApoCⅢはその作用を低下させるのです。一方ApoCⅡの方はLPLを活性化します。つまりApoCⅢとApoCⅡは逆の作用を示すのです。

さらにApoCⅢは肝臓からのVLDL分泌を増加させると言われています。

非常に少人数の研究ですが、中性脂肪が高い人と、正常な人のApoCⅢについて比較したものがあります。(図は原文より)

上の表はVLDLのアポリポタンパク質であるB100の比較ですが、一番上が正常の人、2番目が高中性脂肪の人、一番下がⅢ型の脂質異常症の人です。数字は左から、ApoB100の血中の濃度、真ん中が残存期間、右が産生速度を表しています。そうすると、産生速度で見るとどの状態でも違いはないので、分泌するVLDLの数の増加はなさそうです。しかし、左の数字の濃度を見ると明らかな違いがあります。正常の人と比べると高中性脂肪で約4倍、3型で約10倍です。そして、残存期間を見ると正常の人と比べると高中性脂肪で約5倍、3型で約13倍です。ということは実際にはVLDLの分泌量はほとんど変化はしないのですが、残存する期間が長くなり、結果的にVLDLが増加しているとも考えられます。

上の図はApoCⅢについてです。それぞれの項目は血中の濃度、残存期間、分泌速度です。VLDLのApoCⅢの濃度は、正常の人と比べると高中性脂肪で約6倍、3型で約12倍です。血漿でのApoCⅢの濃度は、正常の人と比べると高中性脂肪で約3倍、3型で約6倍です。VLDLのApoCⅢの産生速度では、正常の人と比べると高中性脂肪で約4倍、3型で約5.5倍、血漿でのApoCⅢの産生速度は、正常の人と比べると高中性脂肪で約2倍、3型で約4倍でした。

しかし、VLDLや血漿のApoCⅢの残留期間は伸びたものの有意差はありませんでした。

一方で、HDLのApoCⅢはどの項目も有意差はないのですが、残留期間を除いて正常の人と比較して逆に高中性脂肪の人の方が低下していました。これがなぜかは今の私にはわかりません。どうやら、ApoCⅢは正常の場合には意外にもHDLにくっついているようです。わざとHDLの機能を少し低下させることに意味があるのかもしれません。

もう一つ気になったことは、血漿のApoCⅢと、VLDLおよびHDLのApoCⅢの濃度の差です。正常では0.54、高中性脂肪の人で2.66と約5倍です。この差になっているApoCⅢはLDL(IDL)のApoCⅢまたはカイロミクロンのApoCⅢでしょうか?

いずれにしても、中性脂肪が高いとApoCⅢは劇的に増加していることは間違いが無いようです。残留期間が伸びたというよりも産生が増加したことによるものが大きいと考えられます。ApoCⅢ産生速度の増加が、VLDLのApoCⅢのレベルの上昇、中性脂肪が豊富なVLDLの脂肪分解、クリアランスの減少、およびVLDLのApoB100の異化の減少を引き起こすことによって中性脂肪の濃度を増加させている主要な因子であると考えられます。

だから、中性脂肪値の増加はApoCⅢの増加と非常に関連していると考えられます。

では何がApoCⅢを増加させるのでしょうか?

肝臓での新規の脂質生成を制御しているものに炭水化物応答配列結合タンパク質(ChREBP)というものがあります。名前の通り、炭水化物、つまり糖質に反応するもので、肝臓や腸に豊富にあります。全てがわかっているわけではありませんが、ChREBPは、肝臓の解糖系や脂質生成系の遺伝子発現の調節において重要な役割を果たすと考えられています。

ブドウ糖(グルコース)や果糖(フルクトース)が体内に入ってくると、ChREBPが活性化して、さまざまな遺伝子の発現を調節します。解糖系、フルクトース代謝、脂質生成、糖新生などに関わっています。動物のデータではグルコースよりもフルクトースの方がより強くChREBPを活性化するということを示唆しています。

一方、ChREBPはAMPKやケトン体、グルカゴンなどによって活性が低下します。糖質制限ではAMPKが増加しますし、ケトン体ももちろん増加しますので、ChREBP活性が低下し、肝臓での脂質生成が抑制されることになると考えられます。

そして、ApoCⅢの遺伝子APOC3にChREBPが結合して、糖質の代謝や脂質生成が調節されています。これで糖質摂取とApoCⅢの流れができました。糖質摂取→ChREBP活性化→ApoCⅢ増加となります。

つまり、現代の食事において「悪玉」と考えられるApoCⅢを増加させるのはブドウ糖と果糖だと考えられるのですつまり糖質です。しかし、ApoCⅢの特徴にはもう一つ変わったことがあります。

それは次回記事にします。

 

「Plasma kinetics of apoC-III and apoE in normolipidemic and hypertriglyceridemic subjects」

「正常脂質血症および高中性脂肪血症におけるapoC-IIIおよびapoEの血漿動態」(原文はここ

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