血圧なんて大体の指標 その1

家庭で血圧を測っている人もいるでしょう。医療機関にかかれば、科にもよりますが、測定する場面も多いでしょう。入院すれば毎日測定されます。

血圧の測定は、昔のように聴診器を当てて水銀計で測る(いわゆる聴診法)ことは少なくなったと思います。現在は血圧計のカフを巻き、ボタンを押せば自動で測定する、「オシロメトリック法」による血圧測定が主流でしょう。

手術時や集中治療などでは、手首の橈骨動脈にカテーテルを入れて、直接血圧を測ることもあります。

いろいろな測定法がありますが、家庭で測定する血圧と病院で測定する血圧がかなり違う場合もありますね。どれが正確な血圧なのでしょうか?

今回の研究では、クリニックの自動血圧計と手動の診察室血圧および家庭血圧との関係を調査しました。高血圧治療を受けている安定した外来患者353人が対象です。平均年齢は61.4歳、9人 (2.5%)は血圧の薬は飲んでいませんが、一方で133人 (37.7%)は4剤以上の降圧薬を飲んでいました。患者の大多数(82%)は少なくとも2種類の降圧薬を服用しており、55%は脂質低下療法を受けており、27%は糖尿病を患っていました。

自動血圧計は1分間隔で6回血圧を測定するように設定され、最初の測定値を破棄し、2回目から6回目の測定値の平均値を計算します。

自動血圧計、診察室血圧、家庭血圧の平均値はそれぞれ収縮期/拡張期血圧で131.2/77.8mmHg、146.9/85.8mmHg、137.7/79.4mmHgでした。手動の診察室血圧が最も高くなりました。(図は原文より)

上の図は (a) 自動測定と手動測定による診察室での収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)の、(b) 自動測定と自宅でのSBPおよびDBPで、縦軸が測定法の差、横軸は測定法の平均を示しています。自動測定と診察室血圧の差の平均は収縮期血圧で15mmHg、拡張期血圧で8mmHgもあります。

自動血圧と家庭血圧の差は10/4.2mmHgです。平均すると自動血圧計が最も低い値を出しました。

しかし、このばらつき方を見てみると、血圧測定の精度に疑問を持ちます。自動測定と診察室の手動測定の差は収縮期血圧で+42.6~-12.6mmHgで、家庭血圧と自動血圧では+45.8~-25.8mmHgであった。40mmHgもの差は、薬が1剤増減してもおかしくない差です。

上の図は診察室での手動測定による収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)と家庭での手動測定による収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)の差です。家庭測定と診察室血圧の差の平均は収縮期血圧で-5.8mmHg、拡張期血圧で-2.7mmHgでした。ばらつきの範囲も収縮期血圧で+29.4~-41.0mmHgです。

上の図は2回の診察を受けた62人の患者における診察室血圧(BP)と自動血圧の個人差です。白衣高血圧を調査するためです。初回診察時に収縮期診察室血圧と自動血圧の差が中央値(16mmHg)を上回った32人の患者のうち、23人(72%)は2回目の診察時も中央値を上回りました。でも、これも個人差が大きいですね。初回でほとんど差がなかった人でも、2回目の診察では20mmHgくらいの差が出てしまう場合もあります。

診察室血圧値が高いのは、主に白衣効果、いわゆる白衣高血圧でしょう。また、安定している患者でも、測定法、機器の違い、体調、タイミングなどその時々で血圧は変動します。

血圧なんて大体の指標でしかありません。どれが正確な値か、というのもないでしょう。一喜一憂するものでもありません。だいたい、通常血圧計で測定するのは血管をつぶすのに必要な圧です。血管の内側から血管にかかる圧力ではありませんし。

また、そもそも高血圧は代謝障害の結果であり、心血管疾患の原因ではありません。代謝障害、特に糖質過剰摂取で、血管内皮およびグリコカリックスが障害され、動脈硬化や血管拡張物質の一酸化窒素(NO)の低下などが起こって高血圧となります。血管が硬くなれば、様々な末梢の臓器や組織に血液を送るには、高い血圧が必要になるので、人間の自然な反応です。もちろん、あまりにも高い血圧は問題でしょうが、140とか150mmHgという血圧は治療が必要ではありません。

特に動脈硬化が進んだ高齢者では、血圧を下げ過ぎることは非常に危険でしょう。(「高齢者の高血圧の治療は死を早めるかもしれない その1」「その2」「85歳以上の日本人、高血圧は死亡リスクに影響する?しない?」「80歳以上では収縮期血圧が低いと死亡率が高い」など参照)

では、手首の橈骨動脈にカテーテルを入れて、直接測る血圧と通常自動血圧計との差異はどれくらいなのでしょうか?それについては次回以降で。

「Automated compared to manual office blood pressure and to home blood pressure in hypertensive patients」

「高血圧患者における手動の診察室血圧および家庭血圧との比較における自動化」(原文はここ

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