「その1」では、高齢者のフレイルと血圧と死亡率の関連について書きました。
年齢が上がるにつれ、腎機能が低下する人も多いでしょう。慢性腎臓病(CKD)となった高齢者の最適な血圧はどうなっているのでしょうか?
今回の研究では、60歳以上の高齢者(60歳を高齢者と呼ぶ時代ではないですね?)で、CKDのステージ3の人158,713人とCKDステージ4の人6,611人を対象に、平均追跡期間は5.7年で収縮期血圧と心血管疾患および死亡率の関連を分析しました。(図は原文より、表は原文より改変)
上の図は左がCKDステージ3、右がステージ4で年齢別、収縮期血圧別の死亡リスクを示しています。CKD3では、60~70歳の死亡はU字型で、収縮期血圧が130~139mmHgの場合と比較して、150mmHgを超えると死亡率が上昇し始め、180以上では有意に増加し、1.90倍でした。逆に130mmHg未満でも死亡リスクは増加し、120未満では1.59倍でした。
70歳以上のグループでは、収縮期血圧が180mmHg以上になるまで死亡リスクは上昇しませんでした。逆に60~70歳と同様に、130未満では死亡リスクは増加し、120未満では180以上よりも死亡リスクが高く、1.49倍でした。
CKD4では、60~70歳の死亡はきれいなU字型は崩れました。しかし、やはり130未満では死亡リスクは高く、120未満では2.16倍にもなりました。70歳以上ではどの血圧でも有意な死亡リスク増加はありませんでした。
下の表はCKD3および4の高齢者における収縮期血圧と心血管疾患の関連性を示しています。
収縮期血圧(mmHg) | 60~70歳 | 年齢 > 70歳 | ||||
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心筋梗塞(95%CI) | 心不全 (95% CI) | 脳卒中 (95% CI) | 心筋梗塞または心臓血行再建術(95%CI) | 心不全 (95% CI) | 脳卒中 (95% CI) | |
ベースラインでのCKD3 | ||||||
<120 | 0.86 (0.64–1.16) | 1.90 (1.50–2.40) | 0.98 (0.76–1.27) | 1.38 (1.13–1.68) | 1.66 (1.40–1.96) | 0.96 (0.80–1.15) |
120–129 | 0.96 (0.78–1.17) | 1.21 (0.99–1.48) | 0.99 (0.82–1.19) | 1.04 (0.89–1.21) | 1.21 (1.07–1.38) | 0.93 (0.82–1.05) |
130~139(参照カテゴリ) | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
140–149 | 0.84 (0.72–0.98) | 0.91 (0.78–1.07) | 0.97 (0.85–1.11) | 0.99 (0.89–1.10) | 0.90 (0.82–0.99) | 0.99 (0.91–1.07) |
150–159 | 1.04 (0.88–1.22) | 0.80 (0.66–0.95) | 1.11 (0.96–1.28) | 0.97 (0.87–1.09) | 0.83 (0.75–0.92) | 0.95 (0.87–1.03) |
160–169 | 1.03 (0.85–1.24) | 0.98 (0.81–1.20) | 1.19 (1.00–1.40) | 1.12 (0.99–1.26) | 0.86 (0.77–0.97) | 0.97 (0.88–1.06) |
170–179 | 0.91 (0.68–1.22) | 1.04 (0.79–1.38) | 1.23 (0.97–1.56) | 1.06 (0.90–1.23) | 0.96 (0.83–1.11) | 1.00 (0.88–1.13) |
≥180 | 1.13 (0.77–1.67) | 1.26 (0.87–1.82) | 1.74 (1.30–2.32) | 1.40 (1.16–1.69) | 1.18 (0.99–1.40) | 1.28 (1.10–1.49) |
ベースラインでのCKD4 | ||||||
<120 | データが不十分 | 2.08 (0.76–5.71) | 2.76 (0.82–9.27) | 1.27 (0.41–3.89) | 1.78 (0.77–4.12) | 1.09 (0.45–2.66) |
120–129 | 1.37 (0.45–4.14) | 0.38 (0.09–1.68) | 1.40 (0.47–4.2) | 1.11 (0.47–2.67) | 1.83 (0.95–3.51) | 1.08 (0.57–2.05) |
130~139(参照カテゴリ) | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
140–149 | 1.34 (0.59–3.04) | 0.68 (0.32–1.45) | 1.48 (0.68–3.22) | 0.98 (0.51–1.86) | 1.10 (0.64–1.90) | 0.73 (0.43–1.24) |
150–159 | 1.96 (0.86–4.48) | 1.18 (0.57–2.45) | 2.16 (1.00–4.68) | 0.83 (0.42–1.63) | 1.27 (0.73–2.19) | 0.86 (0.51–1.45) |
160–169 | 1.64 (0.57–4.69) | 1.22 (0.52–2.86) | 2.01 (0.82–4.93) | 1.21 (0.61–2.39) | 1.13 (0.62–2.05) | 1.03 (0.59–1.79) |
170–179 | 0.39 (0.05–3.23) | 1.48 (0.58–3.80) | 0.72 (0.15–3.49) | 1.63 (0.80–3.33) | 1.69 (0.93–3.08) | 0.84 (0.44–1.60) |
≥180 | 3.68 (1.45–9.35) | 0.70 (0.16–3.08) | 2.46 (0.82–7.34) | 1.61 (0.67–3.84) | 1.05 (0.45–2.45) | 1.05 (0.48–2.27) |
上の表のように、心筋梗塞はCKD3の60~70歳では収縮期血圧140-149mmHgが最もリスクが低くなりました。150を超えても有意なリスク増加はありません。70歳以上になると、収縮期血圧が120未満と180以上で有意に心筋梗塞リスクが増加しました。CKD4では有意に増加したのは60~70歳の180以上だけでした。
心不全はCKD3の60~70歳で120未満が最もリスクが高く、1.9倍でした。最もリスクの低いのは150-159でした。70歳以上になると、140-169まではリスクが低く、130未満ではリスクが上昇し、120未満で1.66倍と最も心不全リスクが高くなりました。CKD4ではどれも有意ではありませんでした。
脳卒中はCKD3または4の70歳以上の人では、収縮期血圧が140~180mmHgであっても脳卒中リスクは増加しませんでした。CKD3の60~70歳では収縮期血圧が150以上になると脳卒中のリスクが増加する傾向がありました。180以上では1.74倍でした。
一方、拡張期血圧が70mmHg未満の場合、60~70 歳および 70 歳以上のCKD3の人、ならびに60~70歳でCKD4の人では死亡リスクの上昇と関連していました。60~70歳および70歳以上の CKD3または4の人では、80~89mmHgと90~99mmHgの間で死亡リスクに有意差はありませんでした。
選べるとしたら、あなたならどの血圧を選びますか?まあ130~150くらいに収まっていればいいのではないかと思いますね。そして、70歳を超えたらそれほど血圧を気にしなくてもいいと思いませんか?
逆に120/70mmHg未満に血圧を下げてしまうと、死亡リスクを上げるだけでなく、心臓に負担がかかてしまうようです。
高齢者が血圧の治療を受ける際には、下げ過ぎないように注意が必要でしょう。高齢者では、動脈硬化も進んできているので、血圧がある程度高くなるのは当たり前でしょう。様々な臓器の血圧を保つには低すぎる血圧では難しくなります。
高齢者における積極的な血圧低下の意義は非常に低いでしょう。逆に高齢者の高血圧の治療は死を早めるかもしれません。
「Association of blood pressure with clinical outcomes in older adults with chronic kidney disease」
「慢性腎臓病の高齢者における血圧と臨床転帰の関連性」(原文はここ)
「降圧剤産業」というものも
ありそうですね。