本当にLDLコレステロールが低いほど良いのであれば、PCSK9阻害剤はなぜここまで効果が少ないのであろう?

LDLコレステロール値が低ければ低い方が本当に健康的なのであれば、非常に強い薬でLDLコレステロールを劇的に下げれば、心血管疾患が激減し、死亡率も非常に低下するはずです。

LDLコレステロールを下げる薬でよく使われるスタチンよりも、もっとLDLコレステロールを低下させるPCSK9阻害薬というものがあります。これを使ってLDLコレステロールを極端に低下させれば、さぞかし大きな効果があり、死亡率はゼロに近づいてもおかしくありません。

今回の研究では、動脈硬化症または糖尿病を有し、心筋梗塞または脳卒中の既往がなく、LDLコレステロール値が90mg/dL以上の患者12,257人を対象としています。PCSK9阻害薬のエボロクマブ群6,129人、プラセボ群6,128人に分けました。年齢中央値は66歳で、43%が女性、追跡期間の中央値は4.6年でした。スタチンは87%で使用され、68%は高強度のスタチンでした。エゼチミブ(ゼチーア)は19~20%で使用されていました。13%の患者はスタチンを服用できませんでした。

主要評価項目は、3ポイントMACEとして冠動脈疾患、心筋梗塞、または虚血性脳卒中による死亡の複合、4ポイントMACEとして3ポイントMACEまたは虚血性動脈血行再建術による死亡の複合としました。

ベースラインのLDLコレステロール値の中央値は122mg/dLで、範囲は104~149 mg/dLでした。(図は原文より)


上の図のように、3ポイントMACEイベントは、エボロクマブ群で336人(6.2%)に発生したのに対し、プラセボ群では443人(8.0%)に発生しました。つまり5年間で3ポイントMACEイベントを発生は0.75倍、25%低下したことになります。4ポイントMACEイベントは、エボロクマブ群で747人(13.4%)に発生したのに対し、プラセボ群では907人(16.2%)に発生したので、発生リスクは0.81倍、19%減少したことになります。

では、実際に参加者のエボロクマブ群のLDLコレステロールはどれくらい低下したでしょうか?


上の図のように、エボロクマブ群の48週時点のLDLコレステロール値の中央値は45mg/dL(範囲26~73mg/dL)でした。その後は横ばいです。ものすごい低値です。それなのに、MACEイベントの発生リスク低下はあまりにもショボいですね。NNT(治療必要数)で見ると、5年間で3ポイントMACEイベントは55.6、4ポイントMACEイベントは35.7です。5年間こんな高額な薬を使って、異常なほどのLDLコレステロール低下をしたのに、その効果が得られる人は35~55人に1人しかいません。

また、上の図のように、3ポイントMACEでは最初の1年間では有意差が出なく、分析に苦労しているのが垣間見えます。

上の図のAは心血管疾患死、下のBが全原因死亡です。最初の1.5年は全く差がありません。5年間でエボロクマブ群は心血管疾患死0.79倍ですが、NNTは125です。125人に高価なPCSK9阻害薬を5年間使ってやっと1人の心血管疾患死を防げるのです。

全原因死亡はエボロクマブ群で0.8倍で、NNTは55.6です。やはり5年間で55.6人に1人の死亡を防げるだけです。

上の図のように、ベースラインでLDLコレステロール値で分けると、なぜか122-149mg/dLの範囲の人だけが、有意にエボロクマブの効果がありました。不思議ですよね。

上の図で副次的有効性エンドポイントを見てみましょう。冠動脈疾患による死亡に関してはプラセボと有意な違いがありません。おかしいですね?LDLコレステロールが冠動脈疾患の原因であれば、大幅に死亡リスクが減少するはずですけどね。

当然ながら、この研究は利益相反バリバリでしょう。そのような研究でさえ、この程度の結果しか出ない薬を使う意味があるでしょうか?

以前の記事「LDLコレステロールを強力に低下させるPCSK9阻害薬の重篤な有害事象と死亡」で書いたように、PCSK9阻害薬のエボロクマブ、脂質低下試験での死亡の可能性は1.18倍、臨床アウトカム試験では1.12倍(ギリ有意ではありませんが)でした。臨床アウトカム試験はFOURIER試験というもので、プラセボ群で死亡した参加者の割合は4.3%、エボロクマブ群では4.8%でした。そしてこのFOURIER試験は、追跡期間中央値は当初約4年と計画されていましたが、ズルをして約半分の2.2年に追跡期間が短くなっています。都合が悪かったのかもしれません。臨床転帰も全然改善していません。

LDLコレステロールが心血管疾患の原因であると言い続けることは、医療業界の最大の詐欺の1つです。

「Evolocumab in Patients without a Previous Myocardial Infarction or Stroke」

「心筋梗塞または脳卒中の既往歴のない患者におけるエボロクマブ」(原文はここ

4 thoughts on “本当にLDLコレステロールが低いほど良いのであれば、PCSK9阻害剤はなぜここまで効果が少ないのであろう?

  1. 今年の春から糖尿病の主治医(内科部長)が多忙になり、20代の若い医師に交代されました。ところが若い医師は「糖尿病患者さんはLDLコレステロールは100以下が理想です、論文にも~」とおっしゃってスタチンをめちゃくちゃ勧めてこられたので断っていたら「なんでそんなにスタチンが嫌なんですか!?」と。幸いそこまで高いわけではないので「ま、まあ薬を飲むかどうかは個人の判断ですから」と言われましたが、本当にうんざりですね。毎日走っている夫は私より高い数値で、やはり健康診断のたびにあれこれ言われます。中性脂肪は低いしFHではないからスルーしています。

    1. よっしーさん、コメントありがとうございます。

      LDLコレステロールハラスメント、健診ハラスメント、本当に鬱陶しいですよね。
      糖尿病の人にスタチンを処方したら、糖尿病が悪化してしまいます。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      都合が悪いと、パラドックスと言いますが、
      仮説が間違っていることには全く気付かないふりをするのが医療です。

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