LDLコレステロールを強力に低下させるPCSK9阻害薬の重篤な有害事象と死亡

高LDLコレステロールの治療薬としてPCSK9阻害薬という薬があります。現在市販されている2つのPCSK9阻害薬であるエボロクマブとアリロクマブは、LDLコレステロールを53~59%低下させます。凄いですね。さぞかしスタチン医者やLDLコレステロール値絶対主義の医師が喜びそうです。

しかし、このPCSK9阻害薬は家族性高コレステロール血症(FH)ですら大した効果を上げていません、(「家族性高コレステロール血症から考える 高LDLコレステロールは心血管疾患の原因ではない その3 PCSK9阻害薬のウソ」参照)

また、医療(医師やスポンサー企業)にとって有利な結果は論文として世の中に発表されますが、都合の悪いデータは未発表になることも珍しくないでしょう。

今回の研究では、心筋梗塞、脳卒中/TIA、心不全、糖尿病、神経認知イベント、全原因重篤有害事象 (SAE)、全原因死亡のリスクに対するPCSK9阻害薬の効果を評価しています。これには未発表のデータも含まれています。高コレステロール血症の参加者を対象にPCSK9 阻害薬とプラセボを比較したランダム化試験が対象でした。脂質低下試験33件(16,958人)と臨床アウトカム試験4件(73,836人)が特定されました。

結果は次のようです。(図は原文より)

脂質低下試験および臨床アウトカム試験において、PCSK9阻害薬群とプラセボ群の間で心筋梗塞のリスクは低下していませんでした。脂質低下試験では脳卒中/TIA可能性が1.32倍ですが統計的には有意ではありませんでした。しかし、本当にLDLコレステロールが心血管疾患の原因であるのであれば、心筋梗塞や脳卒中が減少しても良いはずですね。心不全についてもPCSK9阻害薬は変わりありません。糖尿病を起こす可能性は脂質低下研究で1.17倍、臨床アウトカム研究では1.05倍でしたが、統計的には有意ではありません。スタチンは糖尿病を発症させるリスクがありますが、今回のデータではPCSK9阻害薬は有意なリスク増加にはなっていませんでした。同様に、神経認知イベントの可能性も脂質低下研究で1.19倍、臨床アウトカム研究で1.22倍と非統計的に有意な増加ではありませんでした。唯一統計的に有意だったのは、脂質低下研究でPCSK9阻害薬群が全ての重篤な有害事象を0.89倍にしたことです。ただこの低下は、19%の重み付けに寄与した1件の大規模なボコシズマブ試験によるものでした。この試験がなければ、PCSK9阻害薬とプラセボの間に差はありませんでした。

上の図はPCSK9阻害薬のエボロクマブとアリロクマブの臨床転帰のリスクです。全ての重篤な有害事象は1件のアリロクマブの臨床アウトカム試験で0.92倍と有意に低下した以外は、どれも低下を認めていません。

前の図で全原因死亡について、脂質低下試験で0.80倍、臨床アウトカム試験で0.99倍で有意差はありませんでした。しかし、エボロクマブの場合、脂質低下試験での死亡の可能性は1.18倍、臨床アウトカム試験では1.12倍(ギリ有意ではありませんが)でした。臨床アウトカム試験はFOURIER試験というもので、プラセボ群で死亡した参加者の割合は4.3%、エボロクマブ群では4.8%でした。そしてこのFOURIER試験は、追跡期間中央値は当初約4年と計画されていましたが、ズルをして約半分の2.2年に追跡期間が短くなっています。都合が悪かったのかもしれませんね。

スタチン同様、PCSK9阻害薬はLDLコレステロール値を低下させるだけで、治療薬ではありません。予防薬です。予防薬は安全であるだけでなく、健康上の利点も明確に示さなければなりません。本来であれば、LDLコレステロール値を低下させることが心血管疾患の低下になるのであれば、その発症、全原因死亡率が明らかに低下するはずです。

ほとんどすべての薬の臨床試験は製薬会社のお金で行われています。そして、データの収集やその解析も企業が行っています。それでもこのような結果しか導き出せない薬、しかもコストはアメリカでは、年間の供給では患者1人当たり約14,350ドル、または月に約1,200ドルかかると推定されているようです。誰が得をする薬なのかは明確です。

心血管疾患は糖質過剰症候群です。

「Serious adverse events and deaths in PCSK9 inhibitor trials reported on ClinicalTrials.gov: a systematic review」

「ClinicalTrials.gov で報告された PCSK9 阻害剤試験における重篤な有害事象と死亡: 系統的レビュー」(原文はここ

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