LDLコレステロールが高い人は、医師に血管が詰まるぞ、死ぬぞ、と脅されるかもしれません。たとえ、もしLDLコレステロールの上昇で血管が詰まるリスクが高くなったとして(本当は違いますが)、それを回避するためにコレステロールを低下させる薬を飲むと決めた場合、そのかわりに脳の出血が増加するリスクを受け入れられますか?血管が詰まっても、脳内出血が起きてもどちらも嫌ですよね。
でも、LDLコレステロールを下げると脳出血を起こしやすくなることは、様々な研究で指摘されています。
今回の研究では、ベースラインで脳卒中、心筋梗塞、がんを患っていない96,043人(平均年齢 51.3 歳)が対象です。累積平均LDLコレステロール値と脳内出血の関連を分析しました。9年間の追跡調査で753件の脳内出血症例が確認されました。(図は原文より)
上の図はLDLコレステロール値による脳内出血のリスクを示しています。LDLコレステロールが70~99 mg/dLの人とLDが100mg/dL以上の人の脳内出血リスクは同程度でした。対照的に、LDLが70mg/dL未満の人は、LDL-C濃度が70~99 mg/dLの参加者よりも脳内出血を発症するリスクが有意に高く、50~69 mg/dLの場合は1.65倍、50mg/dL未満の場合は2.69倍にもなりました。
追跡期間中にコレステロール低下薬や抗凝固薬を使用した参加者、追跡期間中にがん、心筋梗塞、虚血性脳卒中、または高度の炎症を発症した参加者、追跡期間中に高血圧またはコントロール不良の高血圧であった参加者、追跡期間の最初の2年間に脳内出血を発症した参加者を除外しても、結果に大きな変化はありませんでした。つまり、スタチンを飲んでいても、飲んでいなくてもLDLコレステロール値によってリスク増加があるのです。逆に言えば、スタチンでコレステロールを大きく下げると、脳内出血のリスクが上がってしまうということです。実際にはスタチンの研究では、脳内出血を増加させるという研究もあれば、低下させるという研究もあります。
上の図は横軸が累積平均LDLコレステロール値、縦軸が脳内出血のリスクです。LDLコレステロールのカットオフポイントが75.7 mg/dLで、この値でLDLコレステロールの低下と脳内出血の高リスクとの関連が有意になりました。
上の図は深部と、非深部の脳内出血を分けたときのリスクです。傾向は同様で、深部でも非深部でもコレステロールの低下は脳内出血のリスクを上げましたが、非深部の脳内出血は50~69 mg/dLの場合は有意ではなくなりました。
コレステロールは細胞膜の重要な構成成分です。これが低下すれば、脳内出血の危険因子になり得ることは十分に想像できます。
日本人の脳卒中や冠動脈疾患の既往のない40歳から79歳の男性30,802 人と女性60,417人を対象にした研究でも、同様の結果でした。(ここ参照、表はこの研究より改変)
LDLコレステロールのカテゴリーmg/dL | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
<60 | 60~69 | 70~79 | 80~99 | 100~119 | 120–139 | ≥140 | |
多変量HR | 1.0 | 0.52 (0.24–1.12) | 0.49 (0.25–0.94) | 0.40 (0.23–0.69) | 0.29 (0.17–0.51) | 0.30 (0.17–0.53) | 0.28 (0.16–0.49) |
上の表のように、LDLコレステロールが60未満の人と比較して、60以上になると脳内出血は減少しはじめ、70以上で有意に半減し、100以上では0.3倍以下でした。
さらに、脳内出血が起きたときでも、LDLコレステロール値が高いと、脳内出血患者の死亡率が低下するという研究もあります。(ここ参照)
LDLコレステロール値は低ければ低いほど健康的などというウソに騙されないようにしてください。
「Low-density lipoprotein cholesterol and risk of intracerebral hemorrhage: A prospective study」
「LDLコレステロールと脳内出血のリスク:前向き研究」(原文はここ)
3月11日に職場健診受けました。
血圧や視力なども保てていましたが、
コレステロール値などの血液検査の結果が
楽しみです。
先生既にお読みかもしれませんが
「80歳、まだ走れる」
(リチャード・アスクウィズ)
とても面白いです。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
「80歳、まだ走れる」、機会があれば読みたいと思います