高齢者で既往もないのに、LDLコレステロール値が高いという理由だけでスタチンを投与されている人が非常に多いでしょう。本人もコレステロールは悪玉だと洗脳されているので、何の疑いもなく、ずっと飲み続けています。
今回の研究では、高齢者の心血管疾患予防にスタチンを使用すると有益なのかどうかを調べています。動脈硬化性心血管疾患のエビデンスのない高血圧の65歳以上の参加者2,867人が対象です。高血圧の治療のみの通常治療群とスタチン投与群に分けました。ベースラインのLDLコレステロール値の平均は、プラバスタチン群で147.7mg/dL、通常治療群で147.6mg/dLで、6年目におけるLDLコレステロール値の平均は、プラバスタチン群で109.1mg/dL、通常治療群で128.8mg/dLでした。（図は原文より）
上の図は、A、C、Eは、治療群および年齢群別の全原因死亡率を示しています。B、D、Fは、治療群および年齢群別の冠動脈疾患（CHD）による死亡と非致死性心筋梗塞を示しています。ぱっと見、全原因死亡率はスタチン群の方が少し死亡率が高く、図のEの75歳以上では、かなりスタチン群の方が死亡率が高くなっているように見えます。一方、冠動脈疾患（CHD）では、スタチン群の方が少なく見えますが、なぜか最初の3年間はほとんど違いがないのに、3年以降は急激にスタチン群の発生率が低下し、通常群が増加しています。なぜかはわかりません。
いずれにおいてもプラバスタチンの有益性は認められません。全原因死亡率については、両年齢群においてスタチン群の方が通常群よりも死亡者数が多く、65～74歳の参加者では、スタチン群で141人、通常群で130人が死亡し、リスクは1.08倍で有意差なしです。75歳以上の参加者では、スタチン群で92人が死亡し、通常群では65人が死亡し、リスクは1.34倍で、これもわずかに有意差なしでした。でも、75歳以上ではスタチンで死亡率の有意ではない上昇が認められてるのは事実で、もちろん推測ですが、ギリギリでも有意差がなくなるように、データを操作したかもしれません。
65～74歳の人では、スタチン群で76件のCHDイベントが発生したのに対し、通常群では89件のCHDイベントが発生し、リスクは有意差なしの0.85倍、75歳以上では、スタチン群で31件のCHDイベントが発生したのに対し、通常群では39件が発生し、リスクは有意差なしの0.70倍でした。脳卒中、心不全、およびがんの発生率は、両年齢層において2つの治療群で同程度でした。
そして、この研究を2次分析した別の論文では、次の図のような結果でした。対象は65歳以上です。（図は原文より）
上の図は、6 年間の全生存期間 (A) と冠動脈疾患のない生存期間 (B) を示しています。Aに示すように、プラバスタチン群の患者は、通常群の患者と比較して、6年間で平均33.7日短命でした。Bに示すようにスタチン群の患者は、通常群の患者と比較して、6年間で平均18.7日長く冠動脈疾患（CHD）を発症せずに生存しましたが、この差は統計的に有意ではありませんでした。
これを10年間で予測すると、10年間でスタチン治療を受けた患者は通常治療を受けた患者よりも108.1日命が短くなり、CHDのない生存期間が77.9日長くなります。スタチン投与の方が、6年間でほぼ1か月、10年間で3か月以上命が縮むのです。
いずれにしても、65歳以上の人に対して、心血管疾患の一次予防としてのスタチンに何の意味もないばかりか、75歳以上（65歳以上でも）ではもしかしたら死を早めている可能性すらあるのです。ほとんどの医師はこのようなエビデンスを、シレっとスルーして、いつも通りスタチンを処方しまくるでしょう。LDLコレステロール値が高いと血管が詰まって、死んでしまうよ、と脅しながら。
人間の重要なメカニズムを狂わせる薬に手を出すべきではありません。自分自身でしっかりと判断しましょう。
「Effect of Statin Treatment vs Usual Care on Primary Cardiovascular Prevention Among Older Adults: The ALLHAT-LLT Randomized Clinical Trial」
「高齢者におけるスタチン治療と通常治療の一次心血管疾患予防効果：ALLHAT-LLTランダム化臨床試験」（原文はここ）
「Pravastatin for Primary Prevention in Older Adults: Restricted Mean Survival Time Analysis」
「高齢者における一次予防のためのプラバスタチン：制限平均生存時間解析」（原文はここ）