80歳以上では収縮期血圧が低いと死亡率が高い

医師は高齢者に対しても、血圧を下げろ、と薬をいっぱい出してきます。高齢者が血圧を下げるメリットってあるのでしょうか?

今回の研究では、80歳以上の144,403人のデータを分析しました。追跡期間中に51,808人が死亡しました。下の表は、収縮期血圧とフレイル(虚弱度)カテゴリー別の100人年あたりの死亡率です。(図は原文より、表は原文より改変)

虚弱度カテゴリー収縮期血圧カテゴリー(mmHg)
<110110-119120-139140-159≥160
降圧薬治療を受けていない
フレイルなし20.313.48.05.15.3
軽度の虚弱28.619.611.88.19.0
中程度の虚弱40.325.515.312.614.7
重度の虚弱47.932.320.718.022.5
降圧薬による治療あり
フレイルなし22.715.27.75.16.3
軽度の虚弱31.916.79.76.88.7
中程度の虚弱33.821.912.79.311.6
重度の虚弱39.625.216.813.116.1

上の表のように、死亡率は虚弱度が増すにつれて増加し、血圧は140~159が最も死亡率が低く、最も死亡率の高いのは収縮期血圧110未満の人でした。そして、フレイルの程度が低い人グループでは、高血圧の薬を使用している人の方が死亡率がやや高くなっている群もありました。

下の表は虚弱度カテゴリー、性別、降圧薬治療による収縮期血圧カテゴリーと全死亡率との関連性を示しています。

収縮期血圧カテゴリー(mmHg)フレイルなし「軽度の虚弱」「中程度の虚弱」「重度の虚弱」
HR (95% CI)HR (95% CI)HR (95% CI)HR (95% CI)
降圧薬治療を受けていない
男性<1101.71 (1.42から2.05)1.96 (1.66から2.30)2.05 (1.69から2.47)1.78 (1.21から2.64)
110-1191.29 (1.13から1.47)1.47 (1.31から1.65)1.58 (1.36から1.84)1.39 (1.06から1.82)
120-1391111
140-1590.83 (0.76から0.90)0.85 (0.78から0.92)0.88 (0.77から1.00)1.28 (1.01から1.61)
≥1600.87 (0.76から0.99)1.01 (0.87から1.17)1.15 (0.91から1.46)2.32 (1. 57 から 3. 45)
女性<1101.63 (1.35から1.95)1.61 (1.38から1.88)2.11 (1.77から2.53)2.00 (1.55から2.58)
110-1191.26 (1.10から1.44)1.24 (1.12から1.39)1.43 (1.25から1.64)1.47 (1.20から1.82)
120-1391111
140-1590.73 (0.67から0.80)0.80 (0.74から0.87)0.90 (0.82から0.99)0.85 (0.72から1.01)
≥1600.82 (0.72から0.92)0.81 (0.72から0.92)0.93 (0.79から1.11)0.79 (0.56から1.11)
降圧薬による治療あり
男性<1102.02 (1.54から2.66)2.51 (2.16 から 2.91)2.00 (1.71から2.33)1.62 (1.25から2.09)
110-1191.54 (1.30から1.83)1.45 (1.32から1.60)1.44 (1.29から1.61)1.31 (1.11から1.53)
120-1391111
140-1590.78 (0.71から0.85)0.83 (0.78から0.88)0.89 (0.82から0.96)0.89 (0.77から1.03)
≥1600.98 (0.85から1.13)1.04 (0.94から1.16)1.18 (1.01から1.37)1.21 (0.90から1.63)
女性<1101.86 (1.39から2.47)1.98 (1.67から2.35)2.34 (1.98から2.77)1.98 (1.53から2.56)
110-1191.48 (1.23から1.79)1.46 (1.30から1.63)1.55 (1.38から1.75)1.44 (1.24から1.70)
120-1391111
140-1590.76 (0.70から0.84)0.79 (0.74から0.84)0.81 (0.75から0.87)0.80 (0.72から0.89)
≥1600.85 (0.75から0.96)0.91 (0.83から1.00)0.95 (0.86から1.06)0.97 (0.82から1.15)

収縮期血圧が120~139の人と比較して、それよりも血圧が低い場合、男女ともに高血圧の薬の有無にかかわらず、フレイルの程度にかかわらず、死亡率が高くなっています。そして、逆に140以上の血圧の方が死亡率が低くなっている場合がほとんどです。

 

図の左側のAとCは月ごとの平均収縮期血圧を示しています。Aは高血圧の治療なし、Cは降圧薬による治療ありで、赤が死亡した人、青が期間中に死亡しなかった人です。右側のBとDは、年齢、性別、暦年、虚弱度カテゴリーで調整されたモデルからの予測値 (95% 信頼区間) を示し、Bは高血圧治療なし、Dが降圧薬による治療ありです。

平均収縮期血圧値が時間の経過とともに低下しています。この低下は、研究期間中に死亡した人の方が、死亡しなかった人よりも急速でした。人生の最後の12~24か月間では、血圧の低下は加速し、期間終了時の収縮期血圧は開始時よりも約15mmHg 低くなりました。

何も薬が変わらなくても、生活が変わらなくても、血圧が大幅な低下することは、人生の最終段階の特徴である可能性があり、収縮期血圧の低下は死が近いことの指標となることが多いことを示唆しています。それでも多くの高齢者は高血圧の薬を飲み続けています。血圧が140mmHg未満の方が死亡率が高いにも関わらず、何も考えず処方が継続されることも多いでしょう。高齢者で血圧が100を切るような人で高血圧の薬を飲んでいる人もいます。

80歳を超えても飲まなければならない薬はそれほど多くないと思います。惰性で飲むものでもありません。

高血圧の薬、スタチン、PPI、眠剤、その他効果も感じていない様々な薬、必要ですか?

「Systolic Blood Pressure Trajectory, Frailty, and All-Cause Mortality >80 Years of Age: Cohort Study Using Electronic Health Records」

「80歳以上の収縮期血圧の推移、虚弱性、全死亡率。電子健康記録を用いたコホート研究」(原文はここ

One thought on “80歳以上では収縮期血圧が低いと死亡率が高い

  1. 糖尿病専門医の先生の
    面白いネット記事です。
    結論は、ベジファーストとの事、、、
    (どうしても米を始めとした炭水化物を
    摂らせたい模様ですね)

    大坂貴史『血糖値は食べながら下げるのが正解』(KADOKAWA)
    「糖質をカットすれば糖尿病にならない」は誤解でも、ここには大きな落とし穴がありました。
    実は、ブドウ糖負荷試験を受ける際には注意点があります。検査の10〜14時間前までは絶食が必要ですが、検査前の3日以上は糖質を150g以上含む食事をとることが条件になっています。そうでないと、急激に血糖値が上がってもインスリンが反応せず、血糖値が下がらない可能性があって危険だからです。
    しかし、坂田さんはその決まりを守っていない状態、かつ医療機関で確認されないまま検査を受けたことで、今回の問題は起きました。
    結果的に坂田さんは「境界型」で糖尿病の一歩手前。糖尿病ではなく、現段階で薬の服用は必要ないと診断しました。案の定、適切に糖質を摂取する食事に変えたところ、血糖値は正常に戻っていきました。昨今、このような事態は頻発していて、決してめずらしいケースではありません。
    坂田さんは極端な糖質制限を始めて日が浅かったため大事には至りませんでしたが、長期にわたって極端な糖質制限を継続していると本当にインスリンを出せない体質になりかねません。
    糖質制限ブームから10年ほどが経過し、極端な糖質制限を続けたことで血糖値を下げられない人がいらっしゃいます。糖尿病に至り、インスリン注射が欠かせなくなる方もいます。
    インスリンの働きを保ち、血糖値を上げないためには?
    では、インスリンを出す力を守りつつ、血糖値を上げすぎないことを両立するには、どのような食事をしたらいいのでしょう。
    ポイントは、“甘い飲み物はやめて、主食は食べること”です。

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