糖質制限にチートデイを設けている人もいるでしょう。でもご用心。
今回の研究はサンプル数は非常に少ないですが、非常に興味深い内容です。
今回の研究では、BMIが18〜35の18〜65歳の健康(BMIが30以上で健康とは言えないかもしれませんが)な人、10人(平均年齢48.4歳、BMI26.9)が対象です。1日あたり50g未満の糖質を含むケトン食を14日間続けました。8日目には、ジャムを塗った白パン2個(糖質72g)からなる炭水化物を含む朝食を摂取しました。14日間はフリースタイルリブレで血糖値(グルコース値)を持続的に測定しました。ケトーシスレベルは呼気のアセトン濃度で測定しました。
パラメータ | 1日目 | 14日目 | 14日後の違い |
---|---|---|---|
性別(女性/男性)[ n ] | 7/3 | ||
年齢 [歳] | 48.4 ± 14.3 | ||
重量[kg] | 79.1 ± 18.8 | 76.2 ± 17.3 | −3.0 ± 1.9 |
ボディマス指数 [kg/m 2 ] | 26.9 ± 3.9 | 25.9 ± 3.4 | −1.0 ± 0.6 |
ウエスト周囲径[cm] | 90.4 ± 12.7 | 86.0 ± 12.0 | −4.4 ± 3.3 |
ヒップ周囲[cm] | 100.4 ± 9.0 | 98.1 ± 8.4 | −2.3 ± 1.0 |
脂肪量[kg] | 28.7 ± 9.4 | 27.1 ± 9.2 | −1.6 ± 1.0 |
脂肪量[%] | 36.1 ± 1.0 | 35.3 ± 6.8 | −0.8 ± 1.1 |
内臓脂肪 [L] | 2.2±1.4 | 1.8±1.4 | −0.4 ± 0.5 |
除脂肪体重[kg] | 50.4 ± 12.6 | 49.0 ± 11.5 | −1.4 ± 1.6 |
除脂肪体重[%] | 63.9 ± 6.5 | 64.7 ± 6.8 | 0.8±1.1 |
骨格筋量 [kg] | 23.8 ± 7.2 | 23.0 ± 6.8 | −0.8 ± 0.7 |
総水分量 [L] | 37.4 ± 9.0 | 36.4 ± 8.3 | −1.1 ± 1.3 |
安静時エネルギー消費量 [kcal/日] | 1562±298 | 1531±279 | −31 ± 26 |
総エネルギー消費量 [kcal/日] | 2689 ± 532 | 2586±460 | −103 ± 111 |
空腹時インスリン[µU/mL] | 9.4 ± 3.8 | 6.9 ± 3.7 | −2.5 ± 1.9 |
上の表のように、ケトン食の14日間で体重は3kg減少し、BMIも1減少し、腹囲も4.4cm減少、空腹時インスリンも2.5減少しました。
上の図は、( a ) はケトン食開始前のOGTTの血糖値とインスリン値の推移です。全員の空腹時血糖値は正常範囲(89 ± 8 mg/dL)で、75 gのブドウ糖負荷から1時間後には111 ± 32 mg/dLに上昇し、2時間後には正常範囲(86 ± 16 mg/dL)に戻りました。インスリン値は空腹時の9.4 ± 3.8 µU/mLから1時間後には59.5 ± 23.4 µU/mLに上昇し、2時間後には33.5 ± 22.6 µU/mLに低下しました。2時間後に血糖値がベースラインに戻ったのに、インスリン値がまだ高いので、この後機能性低血糖を起こしそうな感じですね。
( b ) 14 日間の脂肪分解率として呼気中のアセトン濃度を測定しました。呼気アセトンの最高濃度は、朝の空腹時に観察されました。アセトン値は緩いU字型になっていました。
上の図は(a)はフリースタイルリブレの持続グルコースモニタリングです。青い線がケトン食を摂取した13日間のもの、赤い線が14日の中日の8日目の朝食にジャムを塗った白いロールパン2個を食べたときのものです。
見事に、ケトン食では血糖値の変動が抑制され、変動は最小限でした(平均 96 mg/dL、範囲 89~102 mg/dL)。一方見事に、糖質たっぷり朝食を摂ったときに血糖値スパイク(平均 170 mg/dL) を起こしています。
(b)は脂肪燃焼率としての呼気アセトン濃度を示しています。●は空腹時、○は1日平均です。7日後、参加者全員が安定したケトーシス(空腹時呼気アセトン濃度7.0 ppm以上と定義)を達成しました。8日目には平均値が8.2 ppmとなりました。しかし、8日目に糖質入り朝食を食べた途端に、空腹時呼気アセトン濃度は5.7 ppmに激減し、再び安定したケトーシスを達成するまで5日を要し、13日目に7.9 ppmに戻りました。この効果は、呼気アセトン濃度の1日平均値でも観察できました。たった1回の糖質摂取で、その前の状態に戻るまでに5日間もかかるとは驚きです。
上の図は、空腹時インスリン値に応じた脂肪分解率で、空腹時インスリン値に基づいて3つのグループに分けたものです。空腹時インスリン値が最低の群では6.1、中程度が8.4、最高の群が13.9でした。 14 日間の平均呼気アセトン濃度は空腹時インスリン値の最低グループで最も高くなり、インスリン値が最も高いグループではアセトン濃度が最低になりました。BMIも比較すると、インスリン値が最低グループでBMIも最低であり、インスリン値最高グループでBMIも最高でした。
そして(b)は、その空腹時インスリン値の3つのグループに分けたときの、14日間のアセトン濃度の推移を示しています。最も空腹時インスリン値が低いグループでは、8日目に糖質入り朝食を食べた後、2日後には再び安定したケトーシスを達成し、中程度のインスリン値の人は5日かかったのに対し、インスリン値が最も高いグループでは、研究終了時までに安定したケトーシスの範囲に達しませんでした。つまり、インスリン値が高い人が1回でも糖質を摂取してしまうとしばらくはケトーシスにならないということです。
糖質制限を始めて、糖質依存から抜け出ていない人は、ときどきチートデイを設けようとするかもしれません。しかし、せっかくケトン体が上手く出始めた矢先に、糖質摂取をしてしまうと、人によっては大きく後退してしまう可能性があります。特に肥満で空腹時もインスリンが高い人は、しっかりとケトン体質になり、大きく体重減少が得られるまでは、チートデイは導入しない方が良いでしょう。逆に痩せたインスリン分泌が少ない人の場合は、もしかしたらたまにちょっと糖質を摂取しても大きな影響は少ないかもしれません。
同様に、糖質制限をするにしても、緩い糖質制限ではなかなか効果が出ないのは、ちゃんとケトン体質になりきれないからかもしれません。インスリンが高いうちは、なかなか脂肪がエネルギー源になってくれません。せめて空腹時インスリン値が10未満になるまでは糖質制限を緩めない方が良いでしょう。
逆に言えば、チートデイを欲する場合は、糖質依存性が高く、抜け出ていない証拠なのかもしれません。ちゃんと糖質制限をしていれば、そのうち糖質への欲求は無くなりますし、糖質を摂取してしまうと気分が悪くなってしまうでしょう。
「Effects of a Carbohydrate Meal on Lipolysis」
「炭水化物食が脂肪分解に与える影響」(原文はここ)
糖質制限歴が長くなると、
以前は見つけると購入していた
「低糖質」「ロカボ」などと
称する食品も、次第に買わなく
なってます。
糖質ほぼ含まない食品で特に
ストレス無く過ごせるように
なっています。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
糖質依存はかなり強烈なので、なかなか依存から抜け出れない人もいるかもしれませんが、
抜け出れば欲求はなくなりますね。
いつもためになる論文ありがとうございます。
さて、質問です。
少し話はそれますが、ランニング中の糖質摂取については、どうなのでしょうか?
(普段は糖質制限していてもしていなくても、)補給で糖質を摂る場合が多いと思います。その時、脂質代謝は阻害されるのでしょうか?
また、最近、「パラチノース」は吸収が遅く血糖上昇が遅いため、脂質代謝を阻害しないのでは?ということで、特に自転車業界では、人気が高いようですが、いかがでしょうか?
三世敏彦さん、コメントありがとうございます。
運動中は糖質は取り込まれますが、インスリン追加分泌があまりないと思いますので、
脂質代謝が大きく阻害されることはないと思います。それでも量によるかもしれません。
パラチノースはランナーとしては興味ありますね。
ただ、パラチノースの多くの研究は利益相反がありそうなので、鵜呑みにはできません。
色々調べてみて、いつか記事にしたいと思います。