一部の高血圧の薬は腎臓を病的な状態に変化させる その2

その1」の続きです。

高血圧では、レニン値は約60%で正常、約25%で低下しているようです。(ここ参照)つまり、高血圧患者の大多数は、高レニン値ではありません。それなのにレニンを阻害するRAS阻害薬がここまで頻繁に使用されているのは興味深いです。そして、高血圧と言えば慢性疾患の代表ですから、ずっと薬を飲み続けます。

RAS阻害薬に限った研究ではありませんが、血圧を大きく下げる強化治療(収縮期血圧目標を120 mmHg未満)グループと標準治療(140 mmHg未満)グループを比較した研究(ここ参照)で、主要複合アウトカム(心筋梗塞、その他の急性冠症候群、脳卒中、心不全、または心血管疾患による死亡)の発生率は確かに、強化治療グループの方が低く、1.65%/年対2.19%/年と絶対的な違いは0.5%ほどの違いでした。ところがその一方で、ベースラインで慢性腎臓病ではなかった人のうち、糸球体ろ過量(eGFR)が60ml/分未満の値まで30%以上低下したケースは、標準治療群(0.35%/年)よりも強化治療群(1.21%/年)で多く認められ、強化治療群の腎機能低下のリスクは3.49倍でした。さらに全体では、標準治療群よりも強化治療群で急性腎障害または急性腎不全が1.66倍多く見られました。

心血管イベントを減らすのであれば、腎臓くらい犠牲にしても良いとでも思っているのでしょうか?

高血圧の治療を受けているアメリカ人における5種類の降圧薬の使用と慢性腎臓病のステージとの関係を分析した研究(ここ参照)では、2009~2012年にアンジオテンシン受容体拮抗薬 (ARB) で治療した患者では、ARBで治療しなかった患者と比較して、進行期 (ステージ3、4、5 の合計) の慢性腎臓病の可能性が2.52倍と有意に高くなっていました。

進行した慢性腎臓病の患者のRAS阻害薬を中止してみた研究を2つ見てみましょう。1つ目の研究(ここ参照)は、eGFRが30未満の411人をRAS阻害薬を中止した群と継続した群に分けて3年後どうなるか見てみました。結果は、RAS阻害剤の投与中止は、eGFRの長期低下率においてグループ間の有意差とは関連がありませんでした。末期腎不全または腎代替療法の発生も違いはなく、中止群と継続群では、あらゆる理由による入院件数が同程度であり、心血管イベント件数も同様でした。さらに死亡件数も同様でした。

また、最初の15か月間は、中止群の収縮期血圧と拡張期血圧はいずれも継続群よりも高かったのですが、その後、血圧値は2つのグループで同程度となり、試験中に処方された降圧薬の数も同様でした。最初の1年間、中止群では尿中タンパク質:クレアチニン比が一時的に上昇しましたが、その後は群間差は無くなりました。心血管、血管、および心不全の重篤な有害事象の数も、2つのグループで同程度でした。

このような結果を見ると、本当に腎保護作用があるのか疑問ですし、この薬の必要性も疑問ですね。

もう一つ研究です。(ここ参照)進行性慢性腎臓病(ステージ4および5)の患者52人が対象で、平均年齢73.3歳、eGFRは16.38。ベースラインの尿タンパク質:クレアチニン比(PCR)は77mg/mmol。46%が糖尿病でした。そしてRAS阻害薬を中止し、12か月間追跡しました。腎機能はどうなったでしょう。(図はこの論文より)

上の図はRAS阻害薬中止前12か月と中止後12~24か月のeGFRの推移です。4人は中止後徐々に低下しました。8人は変化なし。注目すべきは32人の推移です。32人は中止前12か月の間に徐々にeGFRが低下していたにもかかわらず、中止した途端にどんどんeGFRは増加していきました。全体の61.5%はeGFRが25%以上増加し、36.5%は50%を超える増加を示しました。そして、平均動脈圧(MAP)は90mmHgから94 mmHgに増加しましたが、患者の50%以上は目標値内にとどまりました。全体的なタンパク尿も有意には増加しませんでした。

患者の多くはRAS阻害薬によって慢性腎臓病を悪化させられている可能性が大きいでしょう。普通は薬で透析まっしぐら、とは思わないでしょうね。

RAS阻害薬に腎保護作用があるのであれば、糖尿病性腎症を予防できそうですが、糖尿病患者6102人を対象にした研究(ここ参照)では、サイアザイド系利尿薬と比較して、RAS阻害薬のACE阻害薬では末期腎不全が最初の90日で2.5倍であり、3年目以降では4.2倍でした。まるでRAS阻害薬が腎不全を誘発しているようにも見えてしまいます。

別の研究(ここ参照)では、腎動脈狭窄が証明され、RAS遮断薬(ACE阻害薬、ARB、またはその両方)を服用している慢性腎臓病患者で、過去3か月以内に血清クレアチニンがベースライン値より25%以上増加し、腎不全の急速な悪化を呈した患者26人を評価しました。26人の平均年齢は75.3歳です。1か月以内の追跡調査できなくなった3人の患者と死亡した5人の患者を除いて、残りの18人の患者の平均追跡期間は35.9か月です。有意な腎動脈狭窄病変は、両腎患者19人では片側性、6人では両側性、片腎患者1人では片側性でした。24人の患者では、受診前の平均ベースラインeGFRは41.5で、研究登録時の平均eGFRは24.3と低下していました。RAS遮断薬は26人の患者全員で中止されました。

RAS遮断薬の中止にもかかわらず、5 人の患者 (19%) が末期腎不全に進行し、そのうち 4 人 (80%) は透析開始後5.5か月で死亡しました。残りの19人の患者では、平均eGFRはRAA遮断薬の中止後34.8か月で27.8から36.7に増加しました。この19人の患者では、診察時の平均血圧は100mmHgであったのに対し、RAS遮断薬の中止後34.8ヵ月後の最終診察時では90mmHgと低くなっていました。不可逆的になる前にRAS遮断薬を止めることが必要かもしれません。

RAS遮断薬であるACE阻害薬やARBは腎保護作用を謳い文句に非常に多くの高血圧患者に処方されています。もちろん、腎保護作用を認めるというエビデンスも多く存在します。エビデンスは作られるので、どちらを信用するかは自分で決めなければなりません。

One thought on “一部の高血圧の薬は腎臓を病的な状態に変化させる その2

  1. そもそも高血圧に投薬治療が必要
    (有効)なのでしょうか?
    「ヒポクラテスの誓い」にも
    害を与えない文言あったような。

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