タイトルで人を騙すのはやめようよ!もういい加減、このレベルの論文を査読で通すのは止めようよ。
糖質制限もケトン食も血圧を低下させます。いくつもの研究で示されています。(「高血圧、耐糖能障害、肥満の3つを抱える人に対する糖質制限とDASH食の比較」「糖質制限食対地中海食 どっちがいい?」など参照)当然です。高血圧の原因は糖質過剰摂取ですから。
糖質制限の中でも糖質摂取量が非常に少ないケトン食で高血圧のリスク上昇というのを見て驚きました。
まずはタイトルから。「Ketogenic diets are associated with an elevated risk of hypertension: Insights from a cross-sectional analysis of the NHANES 2007–2018」「ケトン食は高血圧のリスク上昇と関連している:NHANES 2007~2018の横断的分析からの知見」
多くの人は見出しで内容を把握したつもりになるでしょう。このタイトルを見れば、ケトン食を食べると血圧が上がりやすくなるんだな、と思ってしまいます。
そして、専門家を含めて、一部の人はその要旨を読むかもしれません。要旨には「食事性ケトン体比率(DKR)は高血圧と有意に関連していました(オッズ比1.24)。さらに、DKRの最高四分位の人は、最低四分位の人と比較して、高血圧のリスクが有意に高くなりました(オッズ比1.15)。さらに、DKRと高血圧のリスクの間に線形関係がありました。DKRと高血圧のこの関連は、特に40歳以上の個人、特に 40~60 歳の年齢層で顕著であることが示されました。DKRと拡張期血圧の間に有意な正の相関関係が明らかになりました」などと書かれています。ケトン食では、よくわからないけど、食事性ケトン体比率(DKR)というものがあって、それが増加すると、高血圧のリスクも増加するんだな…と漠然と把握して、詳しい内容は読まないでしょう。
では、詳しい内容を見てみましょう。
まずは、この研究の方法です。2007~2018年のアメリカの国民健康栄養調査(NHANES)の30,340人のデータを用いて、食事性ケトン体比率(DKR)と高血圧の有病率との関連性を調査したものです。食事摂取情報は当然、食事アンケートです。データの質は低いです。
そして、ここに出てくる食事性ケトン体比率(DKR)ってなんでしょう?論文に書かれていることは、
(0.9×脂質g +0.46×タンパク質g)÷(0.1×脂質g+0.58×タンパク質g+正味炭水化物g)
という式で計算され、結果は0から9の範囲になります。DKR値が高いほど、栄養性ケトーシスを誘発する可能性が高い食事を示しているということです。ケトン食では糖質(正味炭水化物)は20gくらいでしょう。タンパク質を100gとして、エネルギー量2000kcalの食事でDKRを計算してみましょう。
脂質はおよそ169gという計算になるので、
(0.9×169g +0.46×100g)÷(0.1×169g+0.58×100g+20g)=(152.1+46)÷(16.9+58+20)=2.09
ですね。もう少し糖質を50gまで多くして計算すると、脂質156gなので
(0.9×156g +0.46×100g)÷(0.1×156g+0.58×100g+50g)=(140.4+46)÷(15.6+58+50)=1.51
ですね。では、DKRと高血圧の可能性のグラフを見てみましょう。(図は原文より)
先ほど計算した糖質20gのときのDKR=2.09、糖質50gのときのDKR=1.51を上の図で探してみましょう。グラフの横軸は1.2までしかありません。えー!
じゃあ、糖質制限のギリギリ、糖質130gのときのDKRを計算すると、脂質120gなので、
(0.9×120g +0.46×100g)÷(0.1×120 g+0.58×100g+130g)=(108+46)÷(12.0+58+130)=0.77
です。図の棒グラフのようなヒストグラムはそのDKRの人のパーセンテージを表していますが、0.77というDKRの人は恐らく1%程度しかいません。最も多いのはDKR0.3ぐらいの人です。
じゃあ、DKR0.3の人はどれくらいの糖質量でしょうか?およそ265gです。いい加減な食事アンケートのデータで、しかもそれでいて糖質量が265gぐらいの人が最も多いデータです。ケトン食を行っている人はほぼゼロです。130gの糖質という糖質制限の限界の人もほとんどいないくらいのデータです。
実際の栄養の摂取量のデータでも中央値で、高血圧有りで糖質202g、高血圧なしで糖質227gです。ケトン食とはほど遠いなんてものではありません。
そして分析の結果は、DKR=0.34以上だと高血圧の可能性が高まると言っています。糖質250gくらいでしょう。
ケトン食でも何でもない食事を分析しているにもかかわらず、ケトン食と高血圧の関連を分析しているなんて、アホな研究です。
国民健康栄養調査(NHANES)にケトン食を選択している人のデータなんてほとんど皆無に近いでしょう。何でも良いから国民健康栄養調査で論文を書き、それを出版することだけが目的で、中身なんてどうでも良いのでしょう。もちろん、インパクトファクターが低い雑誌に掲載されていますが、インパクトファクターも当てにならない部分もあります。お金が絡んでいますから。
そして、Lancetなど非常に有名一流雑誌とされている医学雑誌でも、糖質制限は死亡率を上げるなどという、トンデモナイレベルの論文を平気で出してきますし、それをあたかも真実であるかのように、専門家は一般の人に向かって広報します。
今回の研究も、騙しの材料にされないことを祈ります。
「Ketogenic diets are associated with an elevated risk of hypertension: Insights from a cross-sectional analysis of the NHANES 2007–2018」
「ケトン食は高血圧のリスク上昇と関連している:NHANES 2007~2018の横断的分析からの知見」(原文はここ)
時間は何より大切な資源ですが、
世の中には、訳の分からない
「論文」に時間を費やす、
暇な人もあるものですね。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
論文の内容ではなく、論文の数に意味があるのでしょう。