マウスウォッシュは止めよう その5 クロルヘキシジンが口腔内環境に与える影響

人間は細菌たちに守られて生きています。腸には腸内細菌叢があり、それのバランスが崩れると様々な症状、疾患を起こしますし、皮膚にも細菌がいて皮膚を守ってくれています。一時期アホなほど流行った手指消毒は皮膚の細菌を殺し、自分の皮膚を傷めつけているだけで、健康に寄与しません。

口の中の細菌叢も同じで、口臭予防だとか、虫歯予防の名のもと、殺菌成分を含んだ歯磨きやマウスウォッシュがテレビなどで頻繁に宣伝されています。まるで口腔内の細菌が悪者であるかのような印象を植え付けます。

その1」「その2」「その3」「その4」では、高血圧や糖尿病、がん、院内死亡率との関連を書いてきました。

クロルヘキシジンを含有したマウスウォッシュは数が少ないですが、いくつか市販されています。クロルヘキシジンは広範囲の抗菌作用を持ち、抗菌力が長いと言われています。その1でも書いたように、口腔内細菌叢が全身の一酸化窒素(NO)の重要な調節因子であることが示唆されています。硝酸塩は経口の硝酸還元酵素を含む細菌によって亜硝酸塩に還元され、NOシグナル伝達を刺激するようです。

では、クロルヘキシジンのマウスウォッシュはどの程度影響するのでしょうか?ある研究(ここ参照)では、0.12%クロルヘキシジンマウスウォッシュのたった1回の使用で、口腔内の硝酸塩還元細菌の94%が死滅し、結果として還元硝酸塩の割合が85%減少する可能性を示しました。

今回の研究では、健康な36人の人に1日2回、7日間クロルヘキシジンマウスウォッシュを行ってもらい、その影響を調べました。

その結果、7日間クロルヘキシジンマウスウォッシュは口腔内細菌叢を大きく変化させ、多様性が低下しました。詳細は私もよくわからないので、割愛しますが、その変化に伴い次のようなことが起こりました。

上の図は、プラセボとクロルヘキシジンによる7日後の唾液pH(A)、唾液緩衝能(B)、唾液中の乳酸(C)、グルコース(D)、細菌の口腔硝酸塩還元能(ONRC)( E )、亜硝酸塩(F)、硝酸塩(G )の濃度、血中の亜硝酸塩( H)と硝酸塩(I )の濃度です。

唾液のpHは通常6.8~7.0の中性ですので、クロルヘキシジンによりやや酸性に傾いてしまっています。酸性になると虫歯になりやすいとも言われています。そして、唾液緩衝能は大きく低下しています。これだと食事をした後にさらに酸性に傾く可能性がありますね。唾液中の乳酸濃度の大きな上昇は緩衝能の大きな低下の要因でしょう。

Dの唾液のグルコース値の上昇も非常に大きいです。健康な人と比較すると、糖尿病の人の唾液のグルコース値が2~3倍に増加していることを考えると、クロルヘキシジンにより、糖尿病のような口腔内環境が形成されているようにも考えられます。

クロルヘキシジンは口腔内の硝酸塩還元能も低下させ、その結果、唾液と血漿中の亜硝酸塩の利用可能性が低下し、唾液中の硝酸塩濃度が上昇しました。

プラセボでは、プロテオバクテリアの量が多いほど、口腔内の硝酸塩還元能力の高さとは負の相関関係がありました。つまり、プロテオバクテリアの量が多いと硝酸塩還元能力は低下します。クロルヘキシジンはこのプロテオバクテリア量を有意に増加させます。口腔内細菌叢の変化は様々な口腔内環境の変化と関連していますが、一部の細菌の増減だけではなく、バランス関係も大きな影響を与えているのでしょう。

いずれにしても、クロルヘキシジンマウスウォッシュを7日間使用しただけで、口腔内細菌叢に重大な影響があり、唾液のグルコース値が増加したり酸性環境に移行して虫歯の増加に有利になり、口腔内の硝酸塩還元細菌の量が減り、心臓血管に悪影響を与える可能性さえあります。

クロルヘキシジンではなくても、殺菌作用のある成分を含んだ、歯磨きやマウスウォッシュは同様に変化が起きている可能性があります。このような成分を含んだ製品を使い、知らないうちに口腔内環境が悪化し、さらに殺菌成分を含んだ製品を一生懸命使うようになる、悪循環が待っているかもしれません。狙い通りかもしれませんね。

自分の大事なパートナーである細菌たちを殺すのは止めましょう。

「Effects of Chlorhexidine mouthwash on the oral microbiome」

「クロルヘキシジンマウスウォッシュが口腔内微生物叢に与える影響」(原文はここ

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