現代の生活では我々の体は様々なところから知らないうちに攻撃を受けています。自分自身では良かれと思ってやっていることが、人間のメカニズムを考えた場合に有害になっています。例えば、コロナの流行で当たり前のように多くの人がやっていた、頻繁な手洗いやアルコール消毒。皮膚の細菌叢を無視した行為です。
我々は常に細菌やウイルスと共に生活しています。腸内細菌だけでなく様々な体の部位にそれぞれの細菌叢が存在し、我々を守ってもくれています。
もちろん、口腔内も細菌叢があります。しかし、テレビなどのCMでは頻繁に歯磨きやマウスウォッシュの宣伝が流れ、歯周病菌や虫歯菌、口臭などを防ぐことが重要で、そのためにはこの商品が良いと思わされます。それらの商品の多くには抗菌成分が入ってしまっています。悪い菌だけが死んでくれれば良いとは思いますが、そうとはならず、様々な菌が死んだりしますし、本来の人間と共存している口腔内細菌叢のバランスが大きく崩れてしまいます。
その弊害には気付きません。
今回の研究では、マウスウォッシュと高血圧との関連を分析してまいます。40~65歳の太りすぎ/肥満の人でベースラインで高血圧の無い540人を対象として、3年間追跡での高血圧発症の関連を調べています。
追跡期間中に高血圧症を発症したのは12%でした。(図は原文より、表は原文より改変)
上の図はマウスウォッシュの使用頻度と高血圧の発症率比です。1日2 回以上マウスウォッシュを使用した人は、使用頻度の低い人の1.85倍、 非使用者2.17倍、高血圧症の発症率が高かったです。
サブグループ | 医師による高血圧 診断の発生率 | |
---|---|---|
発生率比 | ||
年齢 | <55 | 2.00 |
≥ 55 | 1.48 | |
性別 | 男性 | 3.96 |
女性 | 1.63 | |
喫煙 | なし | 2.21 |
あり | 1.27 | |
身体活動 | いいえ | 1.53 |
はい | 2.15 | |
BMI | 太りすぎ | 1.72 |
肥満 | 1.79 | |
収縮期血圧 | <120 | 0.93 |
≥ 120 | 2.08 | |
拡張期血圧 | <80 | 1.60 |
≥ 80 | 2.05 | |
メタボリックシンドローム | いいえ | 1.34 |
はい | 2.71 | |
HOMA-IR | <2.5 | 1.40 |
≥ 2.5 | 2.43 | |
血糖値 | 正常 | 1.91 |
糖尿病前症/糖尿病 | 1.57 | |
歯周炎 | なし/軽度 | 1.54 |
中等度/重度 | 2.32 | |
アルコール | 非飲酒/以前飲酒 | 2.23 |
現在飲酒 | 1.36 | |
食卓で塩を加える | 一度もない | 2.30 |
時々/いつも | 0.98 |
上の表は1日2回以上のうがい薬の使用と医師が診断した高血圧との関連です。、男性の発生率比は3.96倍で、女性の1.63倍の2倍高くなりました。有意な発生率比の増加は55歳未満、男性、非喫煙者、肥満、身体活動あり、血圧が高血圧前症、メタボリックシンドローム、高HOMA-IR、中等度/重度の歯周病、、現在アルコールを摂取していない、食卓で食べ物に塩を加えたことがない、という人でした。
ヨーロッパの臨床診療ガイドラインでは、マウスウォッシュによく使われるクロルヘキシジン(抗菌薬)の使用は「特定の症例において、機械的デブリードマンの補助として、歯周炎治療においてクロルヘキシジンマウスウォッシュ液を限られた期間使用すべきである」というものです。さらに、歯肉炎に対する他のタイプのマウスウォッシュの推奨はありません。オーストラリアの歯周炎の治療ガイドラインでは、歯周病における消毒用マウスウォッシュの使用は議論の余地があるものの、消毒用マウスウォッシュは歯肉縁上のプラークに対してのみ有効であり、歯肉溝または歯周ポケットを超えては有効ではないことが明確にされているようです。(この論文参照)
本当にマウスウォッシュが歯周病予防になるかどうかは微妙でしょう。恐らく有効だという研究の多くはスポンサー企業がお金を出しているでしょうから。
口腔内細菌叢が全身の一酸化窒素(NO)の重要な調節因子であることが示唆されているようです。硝酸塩は経口の硝酸還元酵素を含む細菌によって亜硝酸塩に還元され、これが飲み込まれるとNOシグナル伝達を刺激するそうです。抗菌性マウスウォッシュがNO合成を低下させる可能性があり、それによって血圧が上昇する可能性があるかもしれません。
いずれにしても、人間の体に存在する細菌をなくすことはできませんし、それらの細菌によって我々は守られています。人間の本来の細菌叢のバランスを崩壊させるような薬物の使用、抗菌成分や消毒の使用、有害な食事はできる限り回避すべきでしょう。
「Over-the-counter mouthwash use, nitric oxide and hypertension risk」
「市販のマウスウォッシュの使用、一酸化窒素、高血圧のリスク」(原文はここ)
リステリン愛用者ですが、
今回の御説、ごもっともですね。
清水先生、いつもありがとうございます。
私が糖質を取らない理由の一つに口腔内環境があります。日本人の多くは40代のうちに歯を1本失います。
多くの人は1本くらい失うことはあまり深刻に捉えておらず、放置したりブリッジいれたりして対応してます。
しかし、歯というのは28本揃ってないと口腔内の環境が一気に悪化し、そこから歯の喪失ドミノがはじまる人がとても多いのです。
私は28本の歯は絶対に守りたいと考えていて、そういう観点でも糖質を危険だと思ってるのです。
多くの日本人は歯周病の恐ろしさを理解していないと感じます。