肺がんは2019年の統計で罹患者数で男女合わせて全体の2位です。(1位は大腸がん)2022年のがん死亡数の順位では、肺がんは全体で第1位です。(下の図、および順位のデータはここより)
上の図のように、死亡率は緩やかに減少しているものの、罹患率は数年前までのデータでは上昇傾向を続けています。喫煙率がどんどん低下しているのに、逆に罹患率は上昇中。何か変ですね。タバコはもちろん危険因子だと思いますが、原因そのものかどうかはわかりません。もちろん喫煙と肺がん発症のタイムラグがあるのはわかりますが、他の要因はないのでしょうか?
一番の要因はもちろん、いつも言っている糖質過剰摂取でしょう。それについてはいつか記事にしたいと思いますが、今回は違う観点から。
多くの人が高血圧のために薬を飲んでいるでしょう。本当に必要かどうかは別として。今回はその高血圧の薬の一つである、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)と肺がんとの関連を見ていきましょう。
今回の研究では、15件のランダム化比較試験からの合計138,769人の患者のデータを使用し、ARBと新たながんの発症との関連に関して、メタアナリシスを行いました。そうしたところ、ARBへの累積曝露とがんのリスクの間には統計的に有意な関係がありました。累積曝露の程度が大きい(つまり使用期間が長い)ほど、ARB群のがんのリスク比が高くなりました。(図は原文より)
上の図は平均累積曝露が3年を超える場合と、3年以下の場合の新規のがんのリスクを示しています。平均累積曝露が3年を超えるとがんの発症リスクは1.11倍でした。3年以下ではリスクの増加は認められません。
次に肺がんとの関連を見てみましょう。
上の図は、Aはすべての試験におけるARBと肺がんの関連を示しています。Bはプラセボ対照試験の関係、Cは非プラセボ対照試験の関係です。。どれもARB への累積曝露と肺がんリスクの間には統計的に有意な関係があり、累積曝露の程度が大きいほど肺がんのリスク比が高くなりました。
上の図は、ARBへの平均累積曝露が2.5年を超える場合と2.5年以下の場合の肺がんとの関連を示しています。2.5年を超える場合肺がん発症リスクは1.21倍でしたが、2.5年以下では関連は認められません。
がんの診断が1回多くなるためには、120人の患者が4.7年間ARBで治療される必要があり、ARB治療による肺がんになる必要な患者数は464人でした。しかし、ARBの有益な効果はどの程度でしょうか?
ある研究ではARBの全原因死亡、心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中の予防に関する治療必要数(NNT)は、全原因死亡が335、心血管死亡が409、心筋梗塞338、脳卒中131でした。(ここ参照)そもそも、多くの研究でARBは心血管疾患イベントを減少させないという結果が出ているばかりか、逆に心筋梗塞を増加させるという結果さえあります。専門家たちはこれを「ARB心筋梗塞パラドックス」と都合よく名付けています。(ここ参照)医療業界はパラドックスだらけです。
多くの人は高血圧は一生の病気だと洗脳されていますので、ずっと薬を飲み続けるでしょう。もしかしたら、この薬を飲めば健康になれると思っている人もいるでしょう。
少し前のデータですが、降圧薬の第一選択薬は何年もARBとなっています。(ここ参照)およそ50%です。降圧薬処方患者数ベスト10には5つのARBが入っています。(ここ参照)高血圧で継続的に治療を受けているのは1500万とも2500万人ともいわれています。1500万人の高血圧患者はそのほとんどがずっと薬を飲み続けます。その半分がARBを飲んでいるとして、4.7年で62,500人がARBで新規にがんになるかもしれません。肺がんになるのは16,164人です。無視してもよい数でしょうか?
以前の記事「長期の高血圧の薬の使用とがんのリスク」でも、降圧薬とがんのリスク増加の関連を書きました。高血圧の根本原因を改善せずに、薬でごまかしているので、当然かもしれません。しかし、ARBにはもしかしたら直接の発がん性またはがんの促進の作用があるのかもしれません。
いずれにしても、降圧薬として心血管疾患イベントさえ減少させず、がんのリスクの可能性もあるのに、なぜ50%の医師が第一選択で処方し、降圧薬のトップ10の5つがARBなのでしょう。これが企業努力というものでしょうか?まあ、お金の力はすごいというところでしょうか?
医療の闇はかなり深いですね。
「Risk of cancer with angiotensin-receptor blockers increases with increasing cumulative exposure: Meta-regression analysis of randomized trials」
「アンジオテンシン受容体拮抗薬によるがんのリスクは累積曝露量の増加とともに増加する:ランダム化試験のメタ回帰分析」(原文はここ)
医療介護業界では、
かかりつけ医のない
高齢者を異端扱いしがちですが
今回のレポートも然り
「なるべく病院、医療の
お世話になりたくない。」
のは、寧ろマトモなのでは?
久しぶりにコメントさせていただきます。
引用論文のabstractには「ARB製剤には発がんの可能性を指摘されている化合物が検出されている」との記述があります。
ARBの長期服用によるがんの有意な増加を頭から否定するわけではありませんが、「ARB暴露群には非暴露群に比べてがんを見かけ上、より増やすバイアスが働いているのでは?」という疑問があります。
ご承知と思いますが、多くのがんは症状がなくても発見しようと検査を濃厚に行なえば行うほど、見かけ上のがん発見数は増えます。
過剰診断と呼ばれるこのような“がん”は、前立腺がんや乳がん、肺がんなどにおいて多いことが知られいます。
つまり、「ARB暴露群は非暴露群に比べて医療(機関)へのアクセス頻度が多い状況にあると言えるでしょう。そういう状況においては様々な検査やがんを発見しようとする検査も『ARB暴露群>非暴露群』と考えられ、その結果として、ARB暴露群で“がんの発見数”がより増えているのではないか。」という疑問です。
NANAさん、コメントありがとうございます。
発がん性の化合物に関しては、どこまで影響するかは未知ですし、確かに否定できません。
しかし、医療へのアクセスに関しては、ランダム化比較試験ですし、
プラセボや対照薬を投与されている人も、ARB群と同様の疾患の人たちです。
医療へのアクセス頻度は変わらないと思われます。