「その1」「その2」「その3」ではマウスウォッシュと高血圧、糖尿病、がんとの関連について書きました。今回は通常のマウスウォッシュとはちょっと違いますが、死亡リスクとの関連です。
健康な人の日常のマウスウォッシュの使用と死亡リスクとの関連はわかっていません。しかし、入院中、特に集中治療室(ICU)での口腔ケアが重要であると認識され、人工呼吸器関連肺炎を予防するためにクロルヘキシジン口腔ケアが推奨されるようになりました。(今はどうかわかりません)
クロルヘキシジン口腔ケアって本当に院内の死亡リスクを減らす効果があるのでしょうか?いくつかの論文を見てみましょう。いわゆるうがいとしてのマウスウォッシュというよりは、自分で口腔ケアができない人のためのクロルヘキシジンの使用についてです。
まずは3630人のICU患者を対象とした12件のランダム化比較試験のメタアナリシスです。(この論文参照)心臓手術と非心臓手術とに分けています。無作為にクロルヘキシジンを使われた心臓手術患者では下気道感染症が有意に少なく、0.56倍でしたが、非心臓手術患者では人工呼吸器関連肺炎のリスクに有意差はありませんでした。心臓手術ではクロルヘキシジンとプラセボの間に死亡率の有意差はありませんでしたが、非心臓手術では死亡率が有意にはなりませんが1.13倍増加しました。人工呼吸器の平均期間または集中治療室在院期間に有意差はありませんでした。
別のメタアナリシスを見てみましょう。(この論文参照)心臓手術や肝臓移植などを除いた、一般ICUの2618人の患者を対象とした11件のランダム化比較試験を分析しました。口腔ケアでクロルヘキシジンを使うと死亡する可能性が1.25倍になりました。
次の研究です。(ここ参照)少なくとも3日間の人工呼吸器を使用している5539人が対象です。クロルヘキシジンの使用により人工呼吸器死亡率が上1.63倍上昇しました。
別の研究を見てみましょう。(ここ参照)この結果は驚きです。この研究はICU患者だけではなく、病院全体の一般の入院患者82,274人を対象としています。そのうち、11,139人がクロルヘキシジン口腔ケアを受けました。クロルヘキシジン口腔ケアは、自立した患者にはうがいと吐き出し法を、介助が必要な患者には看護師がクロルヘキシジンを浸したガーゼで口腔を洗浄し、一般病棟では1日2回、ICUでは1日3回適用されました。
クロルヘキシジン曝露は、それぞれ低曝露(≤ 300mg)または高曝露(> 300mg)に分けました。300mgのカットオフは、0.12%クロルヘキシジンの標準ボトル250mLの内容量に相当し、口腔ケア1回あたりに使用されるクロルヘキシジン溶液の平均量は約15 mLであるため、1日3回の口腔ケアで300mgを超える使用は 5~6日を超える曝露時間になります。(表はこの論文より改変))
オッズ比 | ||
---|---|---|
クロルヘキシジン口腔ケア | ||
なし(0 mg) | 1 | |
低(≤ 300 mg) | 2.61 (2.32–2.92) | |
高(> 300 mg) | 2.73 (2.35–3.16) |
上の表のように、クロルヘキシジンを使ってない人と比較して、低レベルのクロルヘキシジン曝露(累積投与量≤300 mg)では死亡する可能性は2.61倍、と高レベルの曝露(累積投与量> 300 mg)では2.73倍でした。
死亡リスク極めて重度(カテゴリー4) | 死亡リスク重度(カテゴリー3) | 死亡リスク軽度/中等度(カテゴリー1および2) | ||
---|---|---|---|---|
クロルヘキシジン口腔ケア | ||||
なし(0 mg) | 1 | 1 | 1 | |
低(≤ 300 mg) | 1.13 (0.90–1.41) | 2.33 (1.96–2.78) | 5.50 (4.51–6.71) | |
高(> 300 mg) | 1.14 (0.90–1.44) | 3.11 (2.45–3.92) | 4.97 (3.54–6.86) |
死亡リスクがもともときわめて高い群ではクロルヘキシジン口腔ケアの影響はありませんでしたが、もともとの死亡リスクが低い方が影響が大きく、死亡リスクが軽度および中等度では、低レベル曝露で死亡する可能性は5.5倍、高曝露で4.97倍でした。死亡率のかなりの割合が病気の重症度に起因する重篤な患者と比較して、軽度や中等度の病気の患者ではクロルヘキシジンに起因する死亡率が比較的高いと考えられます。
死亡例が1件増えるのに必要な曝露患者数は47.1人でした。クロルヘキシジンを50人に使用すると死亡する人が1人以上増加するというトンデモナイ数です。
主要な心臓胸部および血管外科患者の死亡率にクロルヘキシジン経口ケアは影響を及ぼしませんでした。
クロルヘキシジンの経口ケアは人工呼吸器を装着した患者群に有害な影響を及ぼしませんでしたが、人工呼吸器を装着せず、ICUに入院しなかった患者における死亡リスクの増加と関連していました。低レベル曝露で4.86倍、高レベル曝露で3.71倍でした。
最も最近のメタアナリシスでは、クロルヘキシジンはどの濃度でも人工呼吸器関連肺炎の予防には効果がない、と結論しています。(ここ参照)
現在、マウスウォッシュや歯磨きにクロルヘキシジンを含有したものがあります。それ以外の殺菌成分ももしかしたら問題が起きる可能性は十分にあるでしょう。
口の中の殺菌って必要ですか?悪さをする菌だけを殺菌するって可能ですか?細菌は殺菌成分にずっと曝されると、耐性菌になりませんか?