ApoCⅢの調節と役割

何度も記事に登場しているApoCⅢの役割についてもう一度まとめてみましょう。

ApoCⅢはリポタンパク質を構成しているアポリポタンパク質の一つです。

・ApoCⅢはリポタンパク質リパーゼ(LPL)という酵素の活性を阻害する。(LPLはリポタンパク質の中性脂肪を脂肪組織に取込む作用を示す。)ApoCⅢはLPLの作用を低下させる。一方ApoCⅡの方はLPLを活性化する。つまりApoCⅢとApoCⅡは逆の作用を示すのです。

・ApoCⅢは肝臓からのVLDL分泌を増加させる。

ApoCⅢの調節はどのようにされているのでしょうか?ApoCⅢはAPOC3の遺伝子にコードされていて、APOC3は糖質によって増加します。「ApoCⅢ産生速度の増加が中性脂肪値を高くしているかもしれない」で書いたように、糖質摂取→ChREBP活性化→ApoCⅢ増加と考えられています。しかし、APOC3はインスリンによって低下するのです。何か変わっていますね。糖質を摂ればインスリンが分泌されるので増加しながら低下することになり、打ち消し合ってしまいます。

ApoCⅢはカイロミクロン、VLDLやLDLにくっつくことにより、LPL活性が下がるので、レムナントを作る原因となってしまいます。またHDLにくっつくと引き抜き能が低下し、機能不全のHDLになってしまいます。

だとすると、ApoCⅢは「悪玉」の真犯人なのかもしれません。しかし、「ほとんどの病気は進化とのミスマッチである」で書いたように、「現代の食生活」において「悪玉」かもしれませんが、私たちの体の中にたくさん存在していることを考えると、進化の中では非常に重要な「善玉」であったと考えられます。

では、ApoCⅢの真の役割とは何でしょうか?

恐らくはApoCⅢを含めたApoC達は体の脂肪の調整を担っているのではないかと考えられます。ApoCⅡとApoCⅢ(ApoCⅠも含めて)のバランスで、脂肪調整を行っていると考えられます。(実際には他のアポリポタンパク質や他のタンパク質も脂肪調整にかかわりますが、ここでは省略します。)昔の狩猟採集生活では、それが絶妙に働き、人間にとって丁度良く調整されていたと考えられます。昔の生活では今のような糖質はほとんどなく、あったのは果実の糖質がほとんどだと思います。その果実の糖質も今のような果物と違い、糖質量は非常に少ないものだった(「昔の果物や野菜は今とは大違い!」参照)のですが、そのわずかな糖質を十分に利用するためのメカニズムなのかもしれません。果物に多く含まれる果糖はインスリン分泌をあまり促進しません。糖質が入ってきて、インスリンはあまり分泌されないので、ApoCⅢは増加する可能性があります。

ApoCⅢがLPLの作用を低下させるので、脂質の組織への配達が滞ります。それがもしかしたら果糖の処理に有利に働くのかもしれません。また、果糖が中性脂肪に変換され、VLDLが増加することとApoCⅢが増加してVLDLが増加することが何か関連しているのかもしれません。勉強不足でまだわかりません。厳しい冬を迎える前に、実りの秋があります。果物が一時的に豊富になり、そこに含まれる糖質、特に果糖を上手くエネルギーに変換することで、冬を過ごせたのかもしれません。

また、糖の代謝とは関連せず、例えば肉を食べたことを考えてみると、タンパク質と脂質が吸収されます。その場合インスリンは分泌されるので、ApoCⅢは低下しApoCⅡが優位になります。そうするとLPLが活性化し脂肪細胞での脂質の取込みが促進されて、効率よくエネルギーをため込むことができます。とにかく狩猟採集生活では、糖質であろうと脂質であろうとエネルギーを十分にため込むことが最重要課題であった可能性があります。その役割のひとつをApoC達が担っていたのではと考えます。

いずれにしても、昔はインスリン分泌とわずかな糖質とApoCⅢやApoCⅡなどが非常にうまく連携し合って、体脂肪量、脂質のエネルギーを調整していたと考えられます。糖質とインスリンではApoCⅢに対して反対の作用があることは、バランスが重要であることを示唆しています。

しかし、現代の食事では糖質は過剰に摂取され、インスリン抵抗性が起こっています。そうすると絶妙なバランスが崩れ、それが脂肪蓄積による肥満や、ApoCⅢが増加することでレムナントが増加し、アテローム性動脈硬化の原因となっているのではないでしょうか?

現代の食事ではApoCⅢは「悪玉」です。糖質過剰摂取がApoCⅢの異常な増加を生んでいると思われます。だからと言って、ApoCⅢを阻害するような薬を投与すれば上手く行くとは思えません。動物実験では、ApoCⅢが欠損していると脂肪の異常な蓄積、体重増加が認められます。体が進化の中で獲得したバランスを崩してしまうからです。

コレステロールと同じで、ApoCⅢそのものが「悪玉」ではなく、恐らく体にとっては必須のものです。ApoCⅢにはミトコンドリアのシグナル伝達に関連しているなど、その他の重要な役割も示唆されています。現代の食生活とミスマッチを起こしているからと言って、抑え込めばすべてがうまく行くわけがないのです。

ApoCⅢをいくらか低下させることは、高中性脂肪血症の治療に有益であると思われますが、その発現を完全に止めてしまったり、大きく低下させることは、人間の健康に重要な他の生理学的役割に有害な作用を及ぼす可能性が十分考えられます。スタチンが大した効果もなく、その裏で様々な副作用、有害作用を認めたことと同じでApoCⅢ阻害剤はきっと私たちの体に悪影響があるでしょう。

「Why Is Apolipoprotein CIII Emerging as a Novel Therapeutic Target to Reduce the Burden of Cardiovascular Disease?」

「心血管疾患の負担を軽減するための新しい治療標的としてアポリポタンパク質CIIIが登場するのはなぜですか?」(原文はここ

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