以前の記事「尿酸値と心血管疾患のリスク 本当だろうか?」で、抗酸化物質の尿酸がたくさんあるのに、どうして酸化LDLが発生するのだろう、という疑問を書きました。小さなsdLDL、そしてそれが酸化してできた酸化LDLはアテローム性動脈硬化症の真犯人なのでしょうか?sdLDLは私の中にもありますし、量の差はありますが恐らくどんな人にも多少なりとも存在するでしょう。ある研究で日本人で糖尿病や脂質異常症のない健常人ボランティア13人でsdLDLを測定したところ、平均値は16.8mg/dLでした。測定方法によってかなりのばらつきはあると思いますが、LDLコレステロールの数%ではないかと考えられています。0~3%を正常値だという方もいらっしゃいます。
しかし、酸化LDLはLDLの0.1%以下だと言われています。これも測定法の問題もあるかもしれませんが、LDLの数%がsdLDLでそのsdLDLの数%が酸化LDLです。かなりの微量です。そんな微量のものが果たしてアテロームを作り出す原因なのでしょうか?人間の防御機能がそこまで悪いとは思えません。実際にこの血中の微量な酸化LDLの濃度では、実験上の生理活性を示す濃度の100分の1以下であると言われています。
そこで、もう一度基本(?)に立ちかえってみます。我々は糖質制限が人間の本来の食事であると考えています。つまり、現在の食事で悪いのは、糖質過剰摂取です。つまり高血糖になることが大きな元の原因の一つです。そう考えると、その後に来る現象は「糖化」です。
つまり、酸化LDLの前に考えるべきは「糖化LDL」ではないかと思います。高血糖は様々なものを糖化します。リポタンパク質も当然糖化されます。その糖化LDLは恐らく酸化LDLと同じような活性があり、糖化HDLは機能不全となり、糖化VLDLはレムナントになるのです。
血中でなくても当然、細胞外マトリックス(細胞と細胞の間を埋めている非常に重要な構造・物質)も糖でいっぱいになるはずです。内膜の深層でビグリカンに捕らえられるときにはLDLはすでに糖化しているかもしれません。糖質過剰摂取をしているのでapoCⅢも多くなり、ビグリカンに捕らえられやすくなります。また、AGEが増加すると抗酸化物質が枯渇すると言われています。内膜の深層では抗酸化物質も減少し、糖化したLDLはより酸化しやすくなるのです。
もう一度おさらいしてみましょう。
1.動脈の内膜は血管がなく、血管の内腔から本来は血液成分や栄養を受け取る。
2.糖質過剰状態が酸化ストレスを生み、内膜の細胞がミトコンドリア機能障害になり、それによるMfn-2の減少は血管平滑筋細胞の増殖を招く。
3.さらに高インスリン血症そのものやそれによって促進されるTGF-β1、その他の成長因子により、さらに血管平滑筋細胞の増殖能力が強化され、内膜がどんどん肥厚する。
4.内膜が厚くなることにより内膜の深層では低酸素状態になる。
5.肥厚した内膜の深層部分に外膜から新生血管が伸びてくる。
6.伸びた血管を通る血液の中のリポタンパク質は、内膜の深層部分に存在するプロテオグリカンのビグリカンに接触できるようになり、結合する。
7.一方で、内膜の増殖した血管平滑筋細胞は機械的な歪みなど何らかのストレスでビグリカンを増加させる。高血糖、高インスリン血症そのものや、それによる酸化ストレスによってもビグリカンは増加する。
8.もともとの糖質過剰摂取の生活であれば、中性脂肪が高く、LDLは小さく密度が高いものが多くなり、さらにapoCⅢを有するLDLをはじめとするリポタンパク質が増加する。
9.VLDL、LDL、HDLなどの全てのリポタンパク質は高血糖により糖化する。
10.apoCⅢが増加したり糖化したリポタンパク質は受容体にくっつきにくくなることとによりレムナントが増加する。血中に長くとどまるレムナントリポタンパク質はさらに糖化しやすくなる。
11.apoCⅢが増加したり糖化したHDLはコレステロールの引き抜き能などの低下、つまり機能不全に陥る。
12.糖化したLDLやVLDLなどのリポタンパク質は内膜深層部でビグリカンに結合しやすくなり、脂質が蓄積することになる。
13.糖化したリポタンパク質は酸化しやすくなり、内膜深層部で酸化したLDLが増加する。
14.その酸化したLDLの一部が内膜の深層部の新生血管から血中に漏れ出てくる。
つまり、血中での酸化は必要なことではなく、また酸化LDLもアテローム性動脈硬化症の原因でもなく、結果です。sdLDLも原因ではなく結果です。sdLDLは小さいから血管の壁を通るわけではなく、大きさは無関係で、リポタンパク質は内膜の新生血管から内膜にたどり着きます。だから、sdLDLが増加したり、酸化LDLが増加する体内の環境が問題なのです。それは血糖値の増加です。正常な状態でもsdLDLは多少存在しますし、その一部は酸化LDLになるでしょう。酸化LDLと比べると糖化LDLは通常でもかなり存在します。通常であれば人体はそれを処理することができるのです。しかし、高血糖が起こると、大量の糖化リポタンパク質が生まれ、また、apoCⅢの増加によりレムナントも増え、HDLの性能が低下し、処理が間に合わなくなります。そうするとどんどんアテロームが増加して、問題を起こすようになると考えられます。人間の処理能力が上回れば問題ありませんが、高血糖は処理能力を低下させ、さらに糖化リポタンパクを非常に大量に生み出すので病気が発生するのです。
抗酸化作用のある尿酸がいくらあっても、他の抗酸化物質があっても、糖化は防げないのではないでしょうか。またAGEは抗酸化物質を枯渇させます。そう考えると、尿酸値が高いのに心血管疾患が起こることは辻褄が合います。血中で酸化することは必須ではないのです。糖化したものは酸化したものと同じ作用を示すと考えられますし、糖化したものはより酸化しやすくなります。
糖質過剰摂取→高血糖→糖化→(酸化)→アテローム増加→心血管疾患
いい流れの説明ができました。