薬で検査データを変えるだけでは健康にはなれない

数字合わせをしても健康になるわけではありません。検査データは様々な疾患の発症や状態を推測でき、非常に有用ではありますが、データだけ良くしても疾患が改善するとは限りません。

今回の研究ではペマフィブラート(商品名パルモディア)という脂質異常の治療薬の効果を分析しています。この薬は中性脂肪を低下させます。対象は、中性脂肪値200~499mg/dLかつHDLコレステロール40mg/dL未満の2型糖尿病患者で、心血管疾患の既往があるか、男性50歳以上/女性55歳以上であり、中程度~強度のスタチンまたはスタチン以外の脂質異常症治療薬でLDLコレステロールが70mg/dL以下の10,497人(平均年齢64歳、HbA1c7.3%)です。併用薬としてACE阻害薬/ARB80%、スタチン96%が、SGLT2阻害薬17%、GLP-1受容体作動薬10%が投与されていました。この研究の主要エンドポイントは、心筋梗塞、虚血性脳卒中、計画外の冠血行再建術を必要とする不安定狭心症による入院、または心血管疾患による死亡の複合として定義される重大な心血管有害事象の発生です。(図は原文より、表は原文より改変)

変数 ペマフィブラート プラセボ 治療効果
中央値 平均変化率
中性脂肪
ベースライン — mg/dl 273 (227 ~ 342) 269 (226 ~ 338)
4 Mo — mg/dl 189(143~253) 254 (193 ~ 341)
ベースラインからの変化中央値 — % −31.1(−48.9〜−9.6) −6.9(−28.4〜20.2) −26.2(−28.4〜−24.10)
VLDLコレステロール値
ベースライン — mg/dl 49(39~63) 49(39~62)
4 Mo — mg/dl 31(23~42) 43(32~59)
ベースラインからの変化中央値 — % −35.0(−54.1〜−11.5) −10.5(−33.3〜17.4) −25.8(−27.8〜−23.9)
レムナントコレステロール値
ベースライン — mg/dl 56 (43 ~ 73) 56 (43 ~ 72)
4 Mo — mg/dl 30(23~41) 44(32~61)
ベースラインからの変化中央値 — % −43.6(−57.8〜−24.1) −20.2(−38.3〜3.8) −25.6(−27.3〜−24.0)
アポリポタンパク質 C-III レベル、測定
ベースライン — mg/dl 15(13~19) 15(13~18)
4 Mo — mg/dl 11(9~14) 15(12~19)
ベースラインからの変化中央値 — % −27.8(−43.8〜−9.1) 0.0(−18.8〜18.8) −27.6(−29.1〜−26.1)
その他の脂質バイオマーカー
総コレステロール値
ベースライン — mg/dl 161 (139 ~ 193) 161 (137 ~ 191)
4ヶ月 — mg/dl 162(138~190) 158 (134 ~ 190)
ベースラインからの変化中央値 — % −0.5(−12.2〜13.2) −1.2(−12.1〜11.0) 0.8(−0.1〜1.6)
HDL コレステロール値
ベースライン — mg/dl 33(29~37) 33(29~37)
4 Mo — mg/dl 36(30~42) 34(30~39)
ベースラインからの変化中央値 — % 8.3(−5.3〜25.0) 3.1(−7.4〜15.6) 5.1 (4.2 ~ 6.1)
LDLコレステロール値
ベースライン — mg/dl 79(60~104) 78 (59 ~ 102)
4 Mo — mg/dl 91 (71 ~ 115) 80(62~105)
ベースラインからの変化中央値 — % 14.0(−6.3〜41.4) 2.9(−13.5〜24.6) 12.3(10.7~14.0)
Non-HDL コレステロール値
ベースライン — mg/dl 128(106~159) 128(104~157)
4 Mo — mg/dl 125(102~153) 122(100~154)
ベースラインからの変化中央値 — % −2.4(−18.0〜15.0) −2.5(−16.3〜13.0) −0.2(−1.3〜1.0)
アポリポタンパク質 B
ベースライン — mg/dl 90(75~108) 89 (74 ~ 107)
4 Mo — mg/dl 93 (77 ~ 111) 87 (73 ~ 105)
ベースラインからの変化中央値 — % 3.2(−12.0〜19.7) −1.6(−13.4〜11.8) 4.8(3.8~5.8)

上の表はベースラインと4か月後の変化です。ペマフィブラート群の中性脂肪はベースラインから4カ月後で273mg/dLから189mg/dLと31.1%低下も低下していました。プラセボ群では6.9%の低下で、ペマフィブラートとプラセボの差は-26.2%でした。VLDLコレステロールでも-25.8%、レムナントコレステロールでも-25.6%の差がありました。ApoCⅢも-27.6%でした。

HDLコレステロールはペマフィブラートとプラセボの差5.1%増でした。いずれにしても数値的には大きく改善しているように見えます。

一方、LDLコレステロールはペマフィブラート群で79mg/dLから91mg/dLと14.0%増加、プラセボ群で78mg/dLから80mg/dLと2.9%増加し、12.3%の群間差が生じました。ApoBも4.8%の差がありました。

では、その結果は?

終点 ハザード比 (95% CI) P値
主要複合エンドポイント 1.03 (0.91–1.15) 0.67
主要複合エンドポイントの項目
非致死性心筋梗塞 1.16 (0.95 ~ 1.42)
非致死性虚血性脳卒中 0.92 (0.69–1.21)
冠動脈血行再建術 0.98 (0.84–1.13)
心血管疾患による死亡 1.00 (0.79 ~ 1.28)

 

上の表、図のように、全く効果が認められませんでした。

その一方で、安全性を見てみましょう。

イベント ハザード比 (95% CI) P値
重大な有害事象 1.04 (0.98–1.11) 0.23
感染症に関連したあらゆる有害事象 0.97 (0.92–1.02) 0.26
COVID-19 感染 1.05 (0.94–1.17) 0.41
新型コロナウイルス感染症関連死亡 0.96 (0.72–1.27) 0.81
筋骨格系の有害事象 0.94 (0.88–1.01) 0.08
ミオパチー 0.63 (0.35–1.11) 0.12
横紋筋融解症 2.01 (0.29 ~ 22.26) 0.68
全腎有害事象 1.12 (1.04 ~ 1.20) 0.004
慢性腎臓病 1.56 (1.23 ~ 1.99) <0.001
急性腎障害 1.53 (1.19–1.97) 0.001
タンパク尿 1.10 (0.83 ~ 1.45) 0.55
糖尿病性腎症 1.11 (1.01–1.23) 0.04
肝臓の有害事象 0.83 (0.69–0.99) 0.04
非アルコール性脂肪肝疾患 0.78 (0.63 ~ 0.96) 0.02
胆石症 1.06 (0.82–1.37) 0.70
急性膵炎 0.94 (0.53 ~ 1.65) 0.91
心房細動 1.06 (0.88–1.29) 0.55
静脈血栓塞栓症 2.05 (1.35–3.17) <0.001
肺塞栓症 2.13 (1.20–3.89) 0.008
深部静脈血栓症 2.39 (1.37–4.33) 0.001
糖尿病性神経障害 0.93 (0.79–1.10) 0.43
糖尿病性網膜症 0.87 (0.69–1.10) 0.27

すべての腎有害事象は12%増加し、慢性腎臓病と急性腎障害は50%以上増加し、静脈血栓塞栓症、肺塞栓症、深部静脈血栓症などの血栓関連の有害事象は2倍以上になっていました。

効果もなく有害な副作用だけ増やすのは薬とは言えません。ただの毒です。

ペマフィブラート投与によって中性脂肪やVLDLコレステロール、レムナントコレステロール、ApoCⅢなどは20~30%低下し、これまでの一般的な考えでは心血管に非常に有益なはずですが、心血管イベントのリスクは全く抑制されませんでした。その言い訳はLDLコレステロールの増加が中性脂肪低下による効果を一部打ち消した可能性もあると考えているようです。えー?でも、「ペマフィブラートの以前の第2相試験では、LDL粒子数のわずかな増加(LDL粒子サイズの分布の好ましい変化を伴う)とアポリポタンパク質Bレベルのわずかな減少が示された」と論文中に書いています。今回はApoBは減りませんでしたが、第2相試験ではペマフィブラートはLDLの粒子径を大きい方向へ変化させてわずかに増加していたのですから、これが効果を打ち消すと言えるのでしょうか?となると、もっとLDLを減らさなきゃ!という方向になるのでしょうね?

数値が改善すると患者も医師も治療している気持ちにはなれます。しかし代謝が改善していないと、数値が改善しても意味がありません。数字合わせでは健康にはなれません。代謝の変化で検査データが改善したのと、薬によって見た目だけ検査データが改善したかのように見えるのでは全く違うのです。

代謝を改善するには、食事と運動です。その結果が検査データに表れて初めて意味があると思います。

心血管疾患は糖質過剰症候群です。まずは糖質制限です。

「Triglyceride Lowering with Pemafibrate to Reduce Cardiovascular Risk」

「ペマフィブラートによる中性脂肪低下による心血管リスクの軽減」(原文はここ

5 thoughts on “薬で検査データを変えるだけでは健康にはなれない

  1. たまたまNHKで、
    リハビリのドキュメンタリー番組視聴。
    痛みに堪えて毎日3時間のリハビリ。
    何とか自宅復帰後は、
    従来の(入院中も同様ですが)
    糖質過剰の食事。

    普通のことなのでしょうが、
    自分は努力の方向性を考えて
    生活したい、
    と思いました。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      多くの人は自分の体が何でできているのかよくわかっていません。

  2. 私は素人ですので意味や表現のすべてを理解できているわけでないのですが、
    ADPKDの患者として普段から興味深く読ませていただいております。

    「常染色体顕性多発性嚢胞腎に対するペマフィブラートの腎機能低下抑制効果に関する無作為比較試験」が行われると聞き、
    ペマフィブラートについて調べている中で、こちらの記事があることに気が付きました。

    「効果もなく有害な副作用だけ増やすのは薬とは言えません。ただの毒です」

    この言葉にハッとしました。
    現在は治療薬がない為、検査のたびに出てくる数値の変化に一喜一憂しております。
    数値だけに振り回されないようにしていきたいです。

    今後も、いろいろなお話を記していただけると幸いです。

    1. NSMFさん、コメントありがとうございます。

      この記事の研究では、すべての腎有害事象は12%増加し、慢性腎臓病と急性腎障害は50%以上増加しているのに、
      ペマフィブラートの腎機能低下抑制効果を試験をするのですね?

      多発性嚢胞腎の嚢胞数と嚢胞サイズを増加させるのを防止したければ、増殖や成長を促すインスリンを減らすのが一番だと思います。
      私であればケトン食および糖質制限以外考えられません。

      1. Dr.Shimizuさん返信ありがとうございます。

        この試験の目的に関しては、
        「ADPKD患者にペマフィブラートを投与することで、腎嚢胞が増えたり大きくなるのを抑え、
        腎機能が悪化するのを抑える(遅らせる)ことができるかを調べる」ことが目的とのことです。

        副作用に関する記述として…
        「ペマフィブラートによる一般的な副作用が発現する可能性がありますが、高脂血症の治療薬として市販されており、
        承認された用法・用量の範囲内の使用のため、この試験で起こり得る重大な副作用のリスクは低いと考えている」
        このあとにペマフィブラートの承認時の臨床試験の報告症例が記述されており、
        素人の自分ではそれが多いのか少ないのかはあまり分かりませんでしたが、引き続き、慎重に調べようと思いました。

        私的には糖質制限に興味が出てきました。糖質すき過ぎなのでとても抵抗はあるのですが…

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