多くの人は認知機能が低下し始めて、慌てて認知症が起きないように、または進まないようにどうしたらいいか、悩みます。高齢になって脳を若返らせる方法はありません。
脳の老化は、ブドウ糖代謝低下、脳の萎縮、脳血管疾患、βアミロイドおよびタウタンパク質の沈着など、複数の退化プロセスに関連しています。しかし、これらの症状は、効果的な介入が可能な時点を過ぎた老化の後期になって検出されることがよくあります。つまり、気づいたときには手遅れになっていることが多いのです。
しかし対照的に、機能的MRI(fMRI)および脳波検査(EEG)によって特定される加齢に伴う神経学的変化は、その数十年も前に検出できます。
ということは、中年期になったら、もう変化が始まり、その時に何らかの介入、改善をすべきです。
今回の研究では、19,300人の人を対象に機能的MRI分析を行い、脳ネットワークの不安定化などを調査しました。(図は原文より)
上の図のAは脳ネットワークの不安定性を示しています。横軸は年齢です。α = 43.7歳で不安定化の開始を示しています。I = 66.7歳で最も急速な不安定化の年齢を示しています。β1=89.7歳は不安定化がプラトーになった年齢です。つまり、40代前半には脳が不安定になり始めているのです。
図のBは、代謝の健康 (HbA1c)、血管の健康(収縮期血圧 (SysBP)、拡張期血圧 (DiaBP))、および炎症状態(CRPの血中濃度)を表すバイオマーカーの平均変化を、α = 43.7歳およびI = 66.7歳の年齢グループ全体で評価したものです。
αの年齢ではHbA1cの顕著な上昇と最も一貫して関連していることが明らかになりましたが、収縮期血圧の上昇はその次です。対照的に、Iの年齢では重大な血管の変化と最も一貫して関連しており、収縮期血圧が最大の効果サイズを示し、次にHbA1c、拡張期血圧が続きました。注目すべきことに、どちらの年齢の付近でも血中CRPレベルに有意な変化は検出されませんでした。これらの結果は、脳ネットワークの不安定化が始まった時点ではエネルギー代謝の変化が優勢であるのに対し、血管バイオマーカーの変化はその後の、不安定化の急速な段階でのみ明らかになることを示唆しています。
上の図のAは、脳機能の老化パターンと遺伝子発現分布の類似性を確立するための方法論を示す図です。脳活動の加齢に伴う変化を特定するために、まず各脳の低周波変動の振幅(ALFF)を測定しています。Bの色分けされたタイルは、ALFF の加齢関連変化のパターンと、脳老化の根底にある可能性のある主要なメカニズムに関連する遺伝子発現の空間分布との間の相関を示しています。調査されたのは、細胞のグルコース取り込み(GLUT1、GLUT3、GLUT4に翻訳される遺伝子)、ケトン体/乳酸取り込み(MCT1、MCT2)、脂質輸送(APOE)、血管機能(NOS1、ACE、ET-1、VEGFA、VEGFB、VEGFR1)、炎症(TNF、TNF受容体1、IL-1β 、 IL-6、IL-23A、P2RX7)などです。これらの調査した24の遺伝子のうち、2つのデータセットで老化パターンと有意な相関を示したのは、すべて代謝関連の3つの遺伝子のみでした。
図のCに示すように、3つの代謝遺伝子は、加齢に伴う脳活動の変化と有意に相関していました。これらは、神経インスリン依存性グルコーストランスポーターGLUT4、神経乳酸/ケトントランスポーターMCT2、および脂質トランスポーターAPOEでした。
対照的に、血管機能、炎症、および関連のないメカニズムに関連する制御遺伝子は、再現可能な相関関係を示しませんでした。
上の遺伝子発現の結果は、下の図のAに示すように、脳の老化の影響がGLUT4の機能低下と一致することを示しているだけでなく、MCT2との関連は逆相関なので、MCT2を介したケトン体の取り込みが潜在的な脳の老化の緩和経路であることも特定しています。
図のAは脳の酸化エネルギー供給経路を示しています。ニューロンは、ブドウ糖、ケトン体(βヒドロキシ酪酸、D -βHB)、または乳酸(アストロサイト経由)をエネルギーとして利用することができ、異なるトランスポーターがそれらの取り込みを促進します。
図のBは代謝介入データセットの実験設計です。各参加者は、D- βHBケトンモノエステルが個別に体重投与されました(395 mg / kg)。各個人のブドウ糖投与量は、その後、D- βHBケトンモノエステル投与量とカロリーと一致させました。
Cはブドウ糖とD -βHBケトンモノエステルを含む2つの代謝介入による脳ネットワーク不安定性への影響をベースライン(絶食)で差し引いたものです。D- βHBは、20~39歳と40~59歳の年齢層では脳ネットワークを安定化しますが、60~79歳では安定化しませんでした。カロリーが一致したブドウ糖の投与は有意な効果をもたらしませんでした。つまり、どの年齢層でも脳の安定化効果は、GLUT4以外(したがってインスリン以外)を介した経路によるものであることを示しています。逆に60~79歳ではブドウ糖が不安定性を増加させました。
fMRIの結果では、20~39歳のグループ(αの年齢前)では、D- βHBが絶食時と比較して脳ネットワークを有意に安定化させ、40~59歳のグループ(αの年齢後)では、D- βHBの効果サイズは最年少の20~39歳グループよりも84.62%大きくなりました。対照的に、60~79歳のグループ(Iの年齢)では、D- βHBの効果サイズは最年少グループの半分以下でした。
MRSの結果は、有効性の加齢による変化は、脳内のケトン体濃度の差ではなく、ケトン体が代謝される程度に起因することを示唆しています。
Dは代謝ひずみ-ストレス曲線の仮説です。αの年齢まではホメオスタシスが維持されていますが、それ以降はβ1の年齢まで代謝的なストレスが大きく加わり、神経インスリン抵抗性が増加します。それに伴い脳の不安定性が急増します。それ以降細胞死が進み、脳の老化が顕著に表れてきます。
インスリン抵抗性は、GLUT4を介したブドウ糖の利用を損なうことで細胞に直接影響を与えます。脳細胞の主なエネルギー源はブドウ糖であるため、インスリン抵抗性は代謝低下、つまり代謝ストレスの状態を引き起こします。代謝ストレスは脳の神経の軸索伝導速度を遅くする可能性があります。そして、ケトン体をニューロンに投与すると逆転します。
今回の研究で示されたように、ケトン体の効果は60歳から79歳の範囲で著しく減少します。確かに軽度認知障害やアルツハイマー病の患者を含む高齢者のニューロンは依然としてケトン体の取り込みを示していますが、この段階で不可逆的な病理学的変化が始まっていることで、その治療効果が制限される可能性があります。脳の特定のポイントを超える変性は不可逆的になってしまいます。さらに、細胞老化が進行すると、ニューロンは正常な機能を失うだけでなく、老化に関連する分泌表現型を通じて周囲の組織に積極的に害を及ぼすため、後戻りは不可能な状態になります。
つまり、認知機能低下および神経疾患に対する早期介入が重要なのです。しかもその年齢は40代です。60代では遅すぎます。そして、神経、脳のインスリン抵抗性を回避することが必要です。それには、栄養性ケトーシス、つまり糖質制限を行うことで得られる、ケトン体の増加が最も重要になるということです。ブドウ糖を利用できないために代謝的にストレスを受けているニューロンは、代替エネルギー源としてケトン体を利用できるので、早期であればケトン体でニューロン機能を回復または正常化させられる可能性があります。
糖質過剰摂取を続けていれば、全身のインスリン抵抗性だけでなく、局所のインスリン抵抗性を招きます。脳のインスリン抵抗性が増加したまま糖質過剰摂取を続ければ、脳はエネルギー源を失ってしまうのです。
認知症は糖質過剰症候群です。何百万ものお金を出して薬を使っても、認知機能は戻りません。予防が重要です。40歳を過ぎたら糖質制限は必須です。私は40代から糖質制限をしているので、ギリギリ間に合ったかな?もし、40代を過ぎてしまっていても、少しでも残りの脳の機能低下を防いだり、遅らせたりするために、今すぐにでも糖質制限を始めましょう。
「Brain aging shows nonlinear transitions, suggesting a midlife “critical window” for metabolic intervention」
「脳の老化は非線形の移行を示し、代謝介入のための中年期の「重要な時期」を示唆している」(原文はここ)
個人の実感ですが、確かに40歳過ぎて
頭がぼんやりする事が増え「年のせい」
と半ば諦めていたのが、
スーバー糖質制限に取り組み始めると、
逆に以前より頭が冴える感覚を
実感できるようになりました。
糖質制限歴15年以上の58歳です。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
私も糖質制限で頭も体も若返った感覚です。