高齢者は安静にするとどんどん筋肉が低下する

何らかの痛みがあると、人間は安静にしがちです。もちろん、急性期には無理に動かないことが必要な場合もあります。しかし急性期を超えても、ずっと安静にしている人がいます。

困ったことに、医師の中にもずっと安静を指示する医師もいます。安静にして良くなるのであれば良いのですが、慢性的な痛みには、安静はかえってその後の状況を悪くすることも多いです。そのような医師を信じて、長い人では年単位で安静を続けてしまった人もいます。そんな人は、まともに歩行すらできないこともあります。もともとの痛みのせいなのか、それとも過度の安静のせいなのか、症状がはっきりしないこともあります。

人間の体は、使わないものはどんどん退化、削られていき、性能が著しく低下します。その最も顕著な臓器は筋肉でしょう。

加齢に伴う筋力と筋肉機能の低下はサルコペニアと言われますが、転倒や骨折、運動能力の低下、様々な疾患のリスクの増加などをもたらすでしょう。一般的には、60歳以降の筋肉の損失は年間約1%ですが、筋力の損失は年間約3%とより急速です。そして、運動をあまりしない状況が続いたり、病気などで入院したり、上で書いたように慢性痛などで安静にしすぎたり、不十分なタンパク質摂取などが続いたりすれば、さらに筋肉、筋力の低下は加速します。

では、どの程度の運動が減ると、どのようなことが起きるのでしょう?1日あたりの歩数を基準に見てみましょう。(図は原文より)

上の図に示すように、60歳以上の場合の平均的な1日の歩数はおよそ7,000歩のようです。それでも、加齢に伴い典型的なサルコペニア性筋肉減少が年間0.8%程度あるようです。

そして、1日4000歩未満とされる座ってばかりの人は、健康な若年成人においてでさえ有意なインスリン抵抗性を誘発しました。

そして、1日2000歩になると、筋肉の減少はベッド上に安静にしているのと変わらない状態になります。

2週間にわたって毎日の歩数を1日750~1500歩に急激に減らすと、健康な若年および高齢者で脚の除脂肪体重が0.5~2.8%も減少します。

10日間ベッド上安静にすると、健康な高齢者でも除脂肪体重が3%減少します。

宇宙飛行や微小重力への曝露による1日あたりの筋肉損失率は驚異的で、1日に0.62~1.04%筋肉が減少してしまいます。もちろん私たちの多くは宇宙に行きませんが…

歩かない生活は空腹時血糖やインスリン抵抗性、炎症を増加させます。筋肉タンパク質合成も低下します。

 

もちろん原因にもよりますが、ちょっとした痛みであれば、安静は必要ありません。高齢になればなるほど、安静で失った筋肉や筋力を取り戻すことは難しくなってくるでしょう。1日でも活動再開が遅くなれば、その分筋肉は低下します。歩くことがままならない状態で病院に慌てて受診しても誰も治せません。リハビリ、リハビリと言っても、病院のリハビリでできることは限られてきます。

動かなければ、逆に疲れやすくなったり、どこかが痛くなったりしやすくなって、悪循環です。

まずは毎日、しっかりとタンパク質を摂り、10,000歩以上の歩行を心がけましょう。

「The Impact of Step Reduction on Muscle Health in Aging: Protein and Exercise as Countermeasures」

「高齢化社会における歩数減少が筋肉の健康に与える影響:対策としてのタンパク質と運動」(原文はここ

2 thoughts on “高齢者は安静にするとどんどん筋肉が低下する

  1. 「運動とは不思議なもので、始める前はなかなか面倒で、なんとか行かなくて済む理由を探し出そうと試みるが、いざ、腹を決めて体を動かした後には爽快な気分と達成感が味わえ、ストレス解消にも効果があると感じた。」
    ご高齢医師のネツト記事ですが、
    朝起きるのが辛い(毎朝ですが)とき
    思い起こして頑張って運動してます。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      確かに、朝起きたときにしんどい日もありますね。
      でも、走り始めると何となく調子が出てくるものです。

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