「その1」では、手によるマッサージを書きました。今回は機器によるマッサージについてです。
筋膜リリースという言葉も流行り、携帯のマッサージ機が増えています。ネットで「マッサージガン」や「筋膜リリースガン」などで検索するといっぱい出てきます。例えば、芸能人をイメージキャラクターにしたこの商品(ここ参照)のホームページを見てみると、途中で次のような写真があります。(写真はこのホームページより、円い印は私が入れています)
恐らく胸鎖乳突筋の付近にマッサージ機を当てているんでしょう。しかし、胸鎖乳突筋の下や横には脳につながる頸動脈があります。首の横には椎骨動脈があります。これも脳につながっています。
ホームページを下まで見ても、首へのマッサージは危険であることは確認できませんでした。しかも、サポートページには実際首への使用法も動画で載せています。しかし、取扱説明書には「首の前方には使用しない」と書かれていますが、前方という言葉が指す、実際の部位は示されていません。胸鎖乳突筋および頸動脈は、前方と言えば前方ですが、やや側方なので、側方と言えば側方で、前方ではないと思う人も多いでしょう。しかも写真や動画で首のやや側方にマッサージ機を当てている様子が示されている以上、この部位に当てることは問題ないと思ってしまいます。
症例報告を見てみましょう。(ここ参照)79歳の男性が、初めて携帯型マッサージガンを首に使用した際に、突然左上肢の脱力感を訴えました。右前頸部にほぼ最大設定でマッサージガンを使用したと報告しました。患者のNIHSSスコアは3ですので、症状は軽度です。マッサージ機の写真はありません。検査の結果、右内頸動脈球部の狭窄性動脈硬化プラークの破裂と、右中大脳動脈領域の急性梗塞が明らかになりました。
この症例は、高齢者だったからでしょうか?
もう少しだけ若い人の症例報告です。(ここ参照、図もここより)65歳の男性が、筋肉の緊張を和らげるために古い電気マッサージ器を首に使用した後、急性のめまいと吐き気を訴えて来院しました。
患者が使っていたマッサージ機は上の図のようです。1950年代のもので、今のマッサージガンと同じように動くようですが、現代の機器の最大振動数である毎分3200振動をはるかに上回って、毎分3600~7200振動だったそうです。検査の結果、血管内血栓を伴う右椎骨動脈解離と、それに関連する小脳梗塞が確認されました。
もっと若い症例報告です。(ここ参照)36歳の右利きの女性が、ズキズキする頭痛、新たに発症した眼痛、左上肢と左下肢の脱力感と痺れを訴え、救急外来を受診しました。受診の6日前、友人たちとオーストラリアンフットボールをしていた際に、ボールが顎と首に当たったと報告しました。外傷当日、スポーツ場での医療従事者による診察は正常でした。ボールによる痛みのため、普段より頻繁に首のマッサージ器を使用していました。受診当日、症状発現の約10分前に、硬い回転ボールが付いた電動の携帯型首マッサージ器を使用していました。マッサージ機の写真はありません。初診時の診察とCTスキャンは正常で、NIHSSスコアは2でしたが、その2時間後に強直間代性発作を起こしました。MRI検査で右視床の急性梗塞が認められ、さらに画像検査を行ったところ、右後大脳動脈の閉塞による右内側側頭葉梗塞が判明しました。
さらに症例報告です。(ここ参照)頭痛、首の痛み、めまいを訴えて来院した27歳の女性です。過去3週間、首に携帯型マッサージガンを使い始めました。検査で、右椎骨動脈解離を認めました。
もう一つ、悲惨な例を見てみましょう。(ここ参照)健康だった25歳の女性が、慢性的な首の痛みで目が覚め、右後外側頸部に2時間ほど手持ちのマッサージガンを当ててマッサージしました。その後まもなく、突然のめまい、構音障害、右手の運動失調が出現しました。診察の結果、延髄外側症候群(ワレンベルク症候群)と診断されました。右椎骨動脈の外傷性解離により、延髄外側部に虚血性脳卒中が生じたことが判明しました。症状の重篤さから、気管切開チューブと胃瘻チューブの挿入が必要となり、最終的に、彼女は介護施設に退院しました。この若い患者は、首への不適切な使用により、人生が大きく変わってしまいました。首への繰り返しの高速振動が血管損傷を引き起こし、虚血性脳卒中を発症したのです。
別のタイプのマッサージ機による症例報告を見てみましょう。(ここ参照、図もここより)既往歴に併存疾患のない43歳の右利きの女性が、2時間前に突然発症しためまい、吐き気や嘔吐、耳鳴り、平衡障害を認め、救急外来を受診しました。30分間の左片麻痺がありましたが、それは消失していました。受診の2日前、彼女は頸部痛とともに中等度から重度の頭痛を新たに発症しました。頭痛発症の3週間前に初めて家庭用マッサージ器を使用したと述べています。彼女は医師です。検査の結果は椎骨動脈解離による左小脳梗塞でした。患者が使っていたマッサージ機は下の図のようなものです。
結構大きなボールが肩や首をマッサージする機器ですね。もちろん、これで首の前方はマッサージできませんので、首の横のマッサージになります。そして、それにより椎骨動脈解離が起きてしまったのでしょう。
もう一つ、他の種類のマッサージ機の症例報告を見てみましょう。(ここ参照、図もここより)49歳の女性が、1か月前から頸部マッサージを機器を使って行った後に、左肢の筋力低下と構音障害を呈して受診しました。左中枢性顔面麻痺と左片麻痺が認められ、NIHSSスコアは12でした。5時間以上前に突然左下肢の脱力感を発症し、左上肢は自発的に動かすことができましたが、下肢はベッド上でしか動かすことができず、ろれつが回らず、吐き気や嘔吐はなく、四肢の痙攣と尿失禁が見られました。
患者が使用したマッサージ器は、両側の前頸部に電極を固定し、パルス微弱電流の原理に基づいて局所の筋肉とツボを刺激するものだそうです。電気パルス刺激を受けた総頸動脈の部位に左右対称の血栓信号が認められました。マッサージ機により頚動脈血栓症を起こし、それにより頭蓋内動脈塞栓症を引き起こしたと考えられます。
残念ながら、マッサージ機は人気が高まっているにもかかわらず、適切な使用方法が明確に示されていません。最初に示したように、首への使用もOKであるような写真や動画があるのです。説明書にはほとんど誰も読まないような文章が載っているだけです。どの部分が危険なのか、どうして危険なのか示されていません。安易に首へのマッサージはしないようにした方が良いですね。



