「その1」の続きです。血圧測定は手術時や集中治療の管理の指標として重要です。特に大手術や状態の悪い患者の手術、集中治療においては、動脈にカテーテルを入れて直接測定する血圧がスタンダードでしょう。
では、動脈の直接測定と、通常行われている血圧計による血圧測定とではどれくらい違いがあるのでしょうか?
今回の研究では、集中治療室に入院した過体重患者において、直接動脈内血圧(IABP)測定と聴診法およびオシロメトリック法によるNIBP測定を比較しました。
侵襲的血圧モニタリングを必要とする集中治療室に入院した、平均年齢57歳、平均BMI34.0の患者54人(男性23人、女性24人)が対象です。(図は原文より)
上の図は聴診法およびオシロメトリック法と直接動脈内血圧との差(NIBP-IABP)です。聴診法と比較すると多くの人は+53.0~-44.6 mmHgに収まっていますね…50mmHg?相当な違いです。中には-100という人もいます。自動血圧計のオシロメトリック法でもやはり+33.6~-49.5 mmHgの範囲です。
平均で見ると、聴診法4.1mmHg、オシロメトリック法-8.0mmHgの違いでした。全体的に、オシロメトリック法による測定ではIABP(主に収縮期血圧)の測定値が過小評価されました。一方、聴診法では収縮期血圧が過小評価され、拡張期血圧および平均血圧が過大評価されました。
上の図はBMI30で区切った時のNIBP(聴診法およびオシロメトリック法)とIABP測定値の差を示しています。BMI30以下のグループの方がばらつきが多いですね。
上の図は、収縮期血圧140mmHgで区切った時の差です。収縮期血圧が140mmHgを超える患者では、どちらの方法もIABP測定値を過小評価し、聴診法で-5.0mmHgとオシロメトリック法で-14.9mmHgでした。収縮期血圧140以下の方がばらつきは少ないですね。
つまり、あなたが自分の血圧だと思っている血圧が本当に動脈の内側からかかる圧力かどうかはわからないということです。
ほとんどの医療機関で行われている自動血圧計(オシロメトリック法)による血圧測定は、標準化されていないため、測定アルゴリズムはメーカーごと、さらには機器ごとに異なるでしょう。外来の測定であれば、カフの大きさの選択もいい加減でしょう。
そもそも測定値が不正確なのですから、その値に一喜一憂する必要はありません。血圧計で150mmHgと出ても、実際には本当に血管にかかっている圧力は120mmHgかもしれません。
血圧なんて大体の指標でしかありません。
「Arterial blood pressure monitoring in overweight critically ill patients: invasive or noninvasive?」
「重篤な肥満患者における動脈血圧モニタリング:侵襲的か非侵襲的か?」(原文はここ)