最近の江部先生のブログで「フェリチン高値とインスリン抵抗性」の話題が少し出ました。江部先生も知らなかったと言っていましたが、私も知りませんでしたので、調べてみました。そうしたら、ザクザク数え切れないほどの論文が出てきました。ということは、ある分野では常識なのかもしれません。
以前に「鉄不足だからと言って鉄のサプリメントを飲めば良い、ってもんじゃない!」というのを書きましたが、鉄のサプリは健康に逆に害がある可能性について言及しました。今回、調べてみるともっといろいろなことがわかりました。
鉄の過剰摂取は、インスリン抵抗性を促進したり、糖尿病を発症させたり、メタボリックシンドロームと関連したり、血管を傷害したり、アテロームを増加させたり、と散々な状態を招く恐れがあることがわかりました。
例えば、
「Erythropoietin, ferritin, haptoglobin, hemoglobin and transferrin receptor in metabolic syndrome: a case control study.」
「メタボリックシンドロームにおけるエリスロポエチン、フェリチン、ハプトグロビン、ヘモグロビン、トランスフェリン受容体:症例対照研究」(原文はここ)
そこでの結論では、フェリチン値が高いほど中性脂肪、腹部肥満、上昇したグルコースまたは低いHDLコレステロールと関連する、と述べています。
「Body iron stores in relation to risk of type 2 diabetes in apparently healthy women」
「体に貯蔵された鉄は、明らかに健康な女性の2型糖尿病のリスクと関連している」(原文はここ)
ここでの結論は、フェリチン濃度の上昇およびトランスフェリン受容体のフェリチンに対する比の低下は、健康な女性において、既知の糖尿病リスク因子とは独立した2型糖尿病のリスク増加と関連している、と述べています。
「Adipocyte iron regulates adiponectin and insulin sensitivity」
「脂肪細胞の鉄は、アディポネクチンおよびインスリン感受性を調節する」(原文はここ)
この研究の中で、フェリチン値の低下は女性のアディポネクチン値の上昇を伴い、フェリチンが女性に存在するより高いアディポネクチンレベルの主要な決定因子であり得ることを示唆している。この結果は、糖尿病リスクの男性と女性の違いにもつながり、このことが閉経前の女性の糖尿病の発生率が低下しているに関連している、と述べています。
「Body iron stores and the risk of carotid atherosclerosis: prospective results from the Bruneck study」
「体の鉄貯蔵と頸動脈アテローム性動脈硬化症のリスク」(原文はここ)
結論では、この研究は、初期のアテローム発生における鉄貯蔵の役割に関する強力な疫学的証拠を提供し、脂質過酸化の促進を主な基礎病態機構として示唆している。この仮説は、アテローム硬化性血管疾患における性差を部分的に説明することができる、と述べています。その性差というのは下の図のような明らかなフェリチンによる頸動脈のアテロームの発生の男女差と女性の場合の閉経前後の差などを表しています。
(図は原文より)
簡単に言えば、女性のフェリチンが低いのは女性の体を守っている可能性が高いということです。そう考えると、鉄欠乏で何か有害な症状が出ているのなら、やはり鉄を増やさなければならないと思いますが、症状のない人には鉄のサプリメントは逆効果で有害であるかもしれないのです。フェリチンをちゃんとモニターしながら投与すればいいのですが、単に健康のためにと思って、鉄のサプリメントを常用する人もいると思われます。
もちろん、これらの研究は通常の食事を摂っていると思われるのですが、糖質制限食ではどうなのかは全く分かりません。そうすると、やはり「フェリチンが低いからサプリを飲め!」と単純に言うことは医師としてできません。論文も学会も問題はありますが、だからと言って自説が正しいとは証明できません。健康被害が起きても、所詮因果関係はわかりません。また、医師の情報とはいえ、たかがブログの情報を鵜呑みにする方が悪いとも言われかねません。
やはり、ある程度の理論、そしてその証拠は提供する義務があると思います。
私の結論は、鉄欠乏の症状がないのであれば、食事の中で鉄を意識して摂れば充分である!です。