鉄はがんの原因のひとつとなる(長文)

これまでも、「鉄とがんの関係 数年後に後悔しないために」や「鉄不足だからと言って鉄のサプリメントを飲めば良い、ってもんじゃない!」などの記事で鉄の危険性を書いてきました。しかし、鉄とがんの話を「フェリチン」が高いかどうかということに話をすり替えて、鉄が安全であるかのようなことが言われています。鉄の補給で症状が良くなった、だからこれが証拠だ、と言っています。しかし、鉄の補給をした、そしたらがんになった、だからこれが証拠だ、とも言えるのです。実際に健康だった人に鉄を補給したらがんになったというような報告があります。

一部の方が、鉄はがんの原因ではなく、がんによる結果としてフェリチンが増加している、ということを述べているようです。フェリチンだけでものを言うと、もちろんがんや炎症でもフェリチンは増加し、疾患の結果と見て取れます。そして、鉄をたくさん摂取しても余った鉄はフェリチンに貯蔵され、フェリチンにある鉄は安全な状態なので、鉄は大量に摂っても大丈夫と言っています。また、「過剰」という言葉もフェリチンや吸収などの仕組みがあるので、「鉄過剰」にはならないというような使われ方をしていますが、フェリチンに取り込まれること自体が「過剰な鉄」なのです。実際に使う鉄以外が「過剰な鉄」なのです。これからの文章の「過剰」は極端に基準値を通り越した鉄の量を「過剰」と言っているのではなく、生体が利用するよりも多いものを「過剰」と言っています。決して「ヘモクロマトーシス」のような極端な状態を言っているわけではありません。

それでは、鉄の代謝やがんとの関係に関する現在わかっている「生理学、生物学的事実」をまず見てみましょう。(難しい内容を読みたくない場合は、青い文字の部分を飛ばして読んでください。)

食物鉄は、十二指腸で吸収されるときDCYTBにより2価鉄イオンとなり、二価金属輸送体1(DMT1)により取り込まれます。鉄は、鉄流出ポンプのフェロポーチンを通して腸細胞の側底表面を出て、酸化酵素ヘファスチンによって2価鉄を酸化して3価鉄となり、トランスフェリン(TF)に乗せられます。

3価鉄トランスフェリン複合体(TF- [Fe 3+ ] 2)は血流を循環し、鉄を利用部位に送りこみます。これらの部位の中の主要なものは、鉄がヘモグロビンおよび赤血球の合成に使用される骨髄です。赤血球は細網内皮系のマクロファージによって異化されるまでに約90日間体内を循環します。鉄は異化されたヘムから放出され、フェロポーチンの作用によりマクロファージから流出し、血流のトランスフェリンにまた乗せられます。このことは「鉄のリサイクル」と呼ます。また、3価鉄トランスフェリン複合体は末梢組織および過剰の鉄の貯蔵のための主要器官である肝臓に送られます。少量の鉄は組織などの剥離によって失われますが、鉄の排泄経路はないため、体内の鉄分のレベルは主に吸収段階で調節されます。過剰な鉄は、全身の鉄ホメオスタシスを最も調節しているペプチドホルモンのヘプシジンの合成を誘導します。ヘプシジンはフェロポーチンと結合して分解を引き起こしますが、腸細胞からの食物鉄の吸収およびマクロファージによる鉄の再循環の両方を阻害します。ヘプシジンはまた、炎症性サイトカインに応じて誘導されるので、がんの貧血に関与しています。

鉄は2つの3価鉄イオンを結合することができるトランスフェリンに結合した状態で体内を循環します。トランスフェリンに結合した鉄は、ほとんどの細胞の細胞膜上のトランスフェリン受容体1(TFR1)に結合し、取り込まれます。エンドソームの酸性環境において、3価鉄はトランスフェリンから放出され、STEAP3により2価鉄になります。DMT1という2価金属輸送体により2価鉄イオンは、不安定鉄プールと呼ばれる鉄のプールへエンドソームから排出されます。このプールから、鉄は複数の細胞内の様々なことに利用される。DNAの合成や修復、ヘムおよびミトコンドリアの鉄 – 硫黄クラスターの合成にも使用されます。これは次にクエン酸サイクル、酸化的リン酸化、および他の多くの必須機能を行います。これらのタンパク質の合成に必要なレベルを超える「過剰の鉄」は、鉄貯蔵タンパク質フェリチンに貯蔵されます。

悪性細胞においてわかっている鉄の取り込みおよび流出におけるいくつかの重要な変化があります。TFR1は、乳癌、白血病、リンパ腫、膀胱癌、肺癌、神経膠腫および他の多くのがんにおいて高度に発現されています。つまり、がんは鉄をできる限り細胞内に取り込もうとするのです。

がん細胞を含むほとんどの細胞は、過剰な細胞内鉄をフェリチンに貯蔵し、ラジカル生成反応に関与することから安全に隔離することができます。そしてがんはこのフェリチンを操作します。

フェリチンは、フェリチン発現を抑制しTFR1発現を増加させる鉄調節タンパク質1(IRP1)およびIRP2によって調節されています。B細胞における癌原遺伝子MYCの発現は、IRP2の発現を誘導し、フェリチンの発現を抑制します。結果として生じるフェリチンへの鉄貯蔵の減少およびTFR1の増加が、代謝および増殖の目的のためのがん細胞にとって鉄の細胞内利用性を増加させるのです。

E1a癌遺伝子は同様にフェリチンを抑制します。HRAS癌遺伝子もフェリチンを抑制し、不安定な鉄のプールを増加させ、増殖刺激することが明らかとなっています。つまり、鉄貯蔵タンパク質フェリチンにおける癌遺伝子誘導性の変化が、不安定な鉄のプールを増加させ、がん細胞の増殖を増加させるのに十分であることは実証されているのです。

つまり、がんの遺伝子は上の図の①や②の部分を操作し、がん細胞が利用できる鉄を増加させるのです。鉄をたくさん摂って、①の部分に運ばれてくる鉄が多くなれば、がんは大喜びです。

がん細胞は、鉄の摂取を増加させ、鉄貯蔵を減少させるだけでなく、鉄流出を減少させることによって代謝的に利用可能な鉄を増加させます。(③の部分にもがん細胞は働きかけるということです。)

全身の鉄レベルを実質的に調節するフェロポーチン、ヘプシジンという2つのタンパク質も、がんにおいて重要な役割を果たします。フェロポーチンは、脊椎動物において唯一知られている鉄流出ポンプです。腸細胞の細胞表面上でのその発現は、循環するペプチドホルモンであるヘプシジンによって調節されます。細胞内貯蔵および循環レベルの鉄が高い場合、ヘプシジンは肝細胞に誘導され、循環系に分泌されます。ヘプシジンはフェロポーチンに結合し、消化管から血液にの鉄の供給を遮断します。同時に、ヘプシジンはマクロファージ上のフェロポーチンに結合し、鉄の再利用を阻止し、鉄の利用可能性をさらに制限します。この経路を破壊するフェロポーチン – ヘプシジン軸の突然変異は、不適切な鉄蓄積を招きます。フェロポーチンは、全身の鉄ホメオスタシスの調節に重要な組織だけでなく、乳房組織においても発現されます。ヘプシジンは乳房上皮細胞においても発現されるので局所的な鉄調節ループが出来上がります。乳がん患者ではフェロポーチンの発現低下が予後不良と関連しているだけではなく、高フェロポーチンと高ヘプシジンの同時発現は遠隔転移のない生存を低下させます。さらに、その後の研究で、鉄代謝に関連する機能を有する61の遺伝子のうち49%遺伝子の発現は、偶然により予想されるよりもはるかに大きな割合で、乳がん患者の遠隔転移のない生存と有意に関連していたのです。

鉄の調節に関連する他のタンパク質ががんにどのように影響するかはいまだに不明です。

がんは、内皮細胞およびマクロファージを含む豊富な微小環境に存在し、他の細胞タイプのうち腫瘍関連マクロファージに似ているM2-極性化マクロファージは、最近、フェロポーチンの増加およびフェリチンの減少を示すことが示されました。マクロファージが部分的に鉄と腫瘍細胞を提供することによって腫瘍増殖を促進することができることを示唆しています。フェリチンは、細胞内鉄蓄積におけるその役割で最もよく知られており、マクロファージによっても分泌される。分泌されたフェリチンは、潜在的な追加の鉄源としての役割とは無関係に、腫瘍の血管新生を促進する可能性があります。

鉄は腫瘍の開始および腫瘍の促進の両方に大きく関与しています。

腸の癌のマウスモデルおける最近の実験によって示されたのは、高い食物鉄レベルは腫瘍形成を加速し、低い鉄レベルはこのマウスモデルにおいて腫瘍形成を減少させました。高い食物鉄レベルは、マウスならびにヒト腺腫および癌腫からの腸ポリープにおけるMYC、TFR1およびDMT1の発現を誘導しました。

さらに、全身性鉄ではなく食物鉄は、腸の腫瘍形成にとって重要でありました。低い鉄レベルを与えたマウスの腫瘍負荷の減少は、鉄の皮下注射によって循環する鉄のレベルを上げることによっても逆転されませんでした。さらに、鉄キレーターの投与による循環鉄のレベルの低下は、食物鉄の制限と同じ保護効果は示しませんでした。これは、食物鉄に直接曝露されている腸の上皮において、食事性鉄がWNTシグナル伝達を改変する際に全身性鉄よりも効果的であり得ることを示唆しています。食物鉄ががんのリスクを高めるという知見を裏付けています。鉄過剰飼料は同様に大腸炎マウスモデルで結腸直腸腫瘍発生率を上昇させることが示されています。高い食物鉄はまた、結腸癌マウスモデルにおける増殖および大型腺腫の形成を増強しました。逆に、低い食物鉄は、異種移植されたマウスの結腸癌(同様に乳腺癌および肝癌でも)の増殖を減少させました。

明らかになっているのは、鉄が腫瘍の微小環境や転移を含むがん発達のあらゆる側面において役割を担っていることです。さらに、悪性腫瘍における「鉄遺伝子」の発現パターンによって証明されるように、腫瘍の鉄生物学は、単に癌に関連するだけでなく、患者の生存の機会を示すのに十分な大きさの役割も有するのです。乳癌では、例えば、鉄代謝の調節または維持に関与する全ての遺伝子のほぼ50%が臨床転帰と有意に関連していました。従って、鉄は以前に理解されていたよりも深く腫瘍細胞生物学に強く関連しているのです。

まだ完全には理解されていませんが、鉄制御タンパク質の過多が最近になってがんに関連していることがわかっています。

生きている生物は利用可能な鉄分をしっかりと仕切り、制限するように進化しました。そしてがん細胞も、限られた全身性の鉄の利用可能性によって課される制約を回避するために、腫瘍が独自の鉄分豊富な微小環境を作り出しているのです。

悪性ではない乳腺組織と比較して、乳がんはフェロポーチンを低下させ、ヘプシジンを増加させ、通常の鉄のホメオスタシスのコントロールを無効にして、鉄分のかなりの部分を獲得するのです。

元素の鉄は、細胞の増殖およびホメオスタシスに必須ですが、細胞および組織に潜在的に有毒です。過剰な鉄は、腫瘍の開始および腫瘍の成長に関与しているのです。疫学的な証拠は、体の鉄貯蔵量の増加とがんのリスクの増加との関連を示しています。食物での鉄の高摂取は、いくつかのがん、特に結腸直腸癌のリスク増加と関連しています。遺伝性疾患である鉄過剰蓄積をもたらす遺伝性ヘモクロマトーシスは、がんのリスクの増加と関連しています。
多くのタイプのがん細胞は、鉄の流入をもたらすように鉄代謝を再プログラムするのです。それらは、トランスフェリン受容体1(TFR1)などの鉄取り込みに関与するタンパク質を増加させ、鉄流出タンパク質、例えばフェロポーチンの発現を低下させます。IRP1およびIRP2のような他の鉄調節タンパク質は、まだあまりよく理解されていない方法でがんに関与するようです。
鉄は、DNA合成、増殖、細胞周期調節、および鉄 – 硫黄クラスターを含むタンパク質の機能を含む多くの基本的な細胞プロセスにとって重要です。そして、腫瘍における重要なシグナル伝達経路を調節しています。
鉄代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を測定することは、がん予後に有用です。フェロポーチン、ヘプシジン、TFR1、および鉄代謝に関与する他の遺伝子の発現は、乳癌患者の予後と関連しています。
鉄はがん治療のターゲットです。鉄キレート剤、TFR1抗体などは鉄が治療的に利用されているいくつかの方法を表しています。

今回は非常に難しい話が並んでしまいましたが、現在わかっている「生理学、生物学的事実」です。もちろん少し仮説も含まれていますが多くは解明されていることです。がんが人間の正常の細胞よりも鉄をうまく使っているのです。がんと鉄は大いに関連性を示し、鉄ががんの原因の一つになることもあります。鉄がそこに十分になければ成長しないであろうはずのがんが、食物として多く鉄を摂ったためにがんが増殖してしまった。これも鉄ががんの原因となることと同じです。

健康な人の中で、鉄を多く摂った人の方が少なく摂った人よりもその後がんになる確率が高かったのであれば、鉄ががんの原因と推測できます。フェリチンの高い、低いだけで議論していることではありません。

がんは鉄を操作します。操作できる鉄が多ければ多いほどがんは喜んでしまうでしょう。そこでがん細胞の酸化ストレスを高めることができれば、フェロトーシスという細胞死に持ち込めます。しかし、ビタミンEなどの抗酸化物質を大量に摂取していると、これまたがんの思うつぼです。さらにがん細胞が元気になってしまうのです。何でも摂れば良いってもんではないのです。多くのものには2面性があります。人間の体は丁度良いように調整しようとしますが、これまでの進化の形を超えた量の栄養素を一度に大量に摂ってしまうことは、その調整能力を超えたり破たんさせたりする可能性があります。鉄なんてこれまでの人類の進化の中で、サプリという塊として摂取したことなんてありません。食材に含まれているものから摂取することにしか適応できないのは当たり前だと思いませんか?

これまでも言ってきましたが、フェリチンがいくつが良いのかわかりませんし、個人差も非常に大きい可能性があります。最初の方で書いたように、細胞内のタンパク質の合成に必要なレベルを超える「過剰の鉄」は、鉄貯蔵タンパク質フェリチンに貯蔵されます。そうすると、フェリチンが低下していることだけで、ミトコンドリアの鉄が不足しているということにはなりません。もちろん測定範囲を超えて不足した場合には、本当の鉄欠乏となり、ミトコンドリアが利用できる鉄が不足することは考えられます。しかし、フェリチンが30以下であっても、まだ測定できる範囲ではミトコンドリアの鉄が不足するという証拠にはならないどころか、恐らくは全く不足していない場合も多いと考えられます。なぜなら、フェリチンの鉄は必要なレベルを超える「過剰な鉄」だからです。だから、フェリチンが低値というだけで、ミトコンドリアが作るエネルギー不足(ATP不足)ということにはなりません。しかも、血液検査で測定しているのは血液の中のフェリチンであり、細胞内のフェリチンにも貯蔵されなかった、余った鉄を貯蔵するものなので、ミトコンドリアに鉄が不足するとは非常に考えにくいことです。ミトコンドリアの中にさえフェリチンはあります。

一部の人が言っている「生理学的事実」はミトコンドリアがエネルギーを産生するには鉄が必要ということだけであり、「フェリチン低値=エネルギー不足」というのは単なる仮説、推測、妄想の範囲です。しかも「炎症・細胞破壊がない状況では、女性ではフェリチン100以上、男性ではフェリチン150以上が健康的な数値です。」と言っている方がいますが、これはどこから来た数字でしょうか?100や150という非常に切りの良い数字は、明らかに根拠なく適当に線引きをしたことが伺えます。女性が100を超えたとたんに健康になり、99以下だと不健康になった事実があるのでしょうか?実際に根拠はありません。もし根拠があるならちゃんと見せてほしいものです。事実は健康なフェリチンの数値は不明ということだけです。「生理学的事実」にほど遠い話です。無駄に不安を煽る話です。もちろん学会などや論文の著者が30以下や100以下が鉄欠乏と言っていますが、それこそ研究で統計的な処理をしたものであり、彼が言うあまり意味のない数字です。フェリチン30や50で健康な人もいると思います。

もちろん、現在のフェリチンの基準値の最低値は低すぎる気はしますが、ではどれぐらいが最適なのかはわかりません。男性で150以上というのであれば、私は不健康です。私のフェリチンは108ですから。それでもウルトラマラソンを完走する程度の「不健康さ」です。運動を多くすると、ヘプシジンが分泌され、鉄の吸収が悪くなることや汗からも少し排出されているためだと考えられます。ある研究ではプロサッカーのブンデスリーガやオリンピック選手などのトップアスリート27%がフェリチン値30以下であり、70%が100以下であると報告しています。もちろん、鉄を補充した方がパフォーマンスは上がるようですが、これでも非常に強度の強い運動を行えているのであり、ATP不足とは考えにくい状況だと思います。過酷な運動をする人にとってはフェリチン値が100以下は問題かもしれませんが、通常の生活をしていたり、軽い運動程度では、100を切った状態でも全く問題ありません。フェリチン値がいくつが良いというのは個人差です。

「フェリチン高値ががんの原因ではなく、結果である」というのはその通りの部分もあります。しかしこれまで書いたように「鉄はがんの原因の一つである」というのが「生理学、生物学的事実」です。決してフェリチンが低値でも全く問題がないとは言っていません。また、妊娠の時などは特別です。しかし、わかっていないことを「事実」ということは言えないです。

それでも、どんどん鉄を補給したい人はどうぞ。個人の自由ですから。

ただ私が思う大事なことは、緊急性がない限り、全ての栄養素を自然の形で摂取することです。

今回の記事の内容、図はここからのものです。詳しく知りたい方は読んでみてください。

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