「成人病の胎児起源」仮説その2 妊娠糖尿病の場合

先日の記事「やはり中高生から「食育」をしなければならない 「成人病の胎児起源」仮説その1」では、子宮内での栄養不足から小さく生まれた場合のリスクについて書きました。

今回は、逆に大きく生まれる「巨大児」または通常の体重だけれども肥満や糖尿病の母親から生まれる子供のリスクについて書きます。

肥満や糖尿病の母親の子宮内では、低栄養とは別のプログラミングが行われ、子供は将来的に肥満や糖尿病のリスクが高くなります。

妊娠中、糖尿病では胎児にグルコースなどを豊富に供給します。そのため、胎児が産生するインスリンも増加してしまいます。そして生まれてきた赤ちゃんは脂肪を増加させ、インスリンとレプチンレベルが上昇するのです。糖尿病の母親も自分の母親が糖尿病であることが多く、それを自分の子供にも伝えていくことになるのです。

出生体重が正常でも、妊娠糖尿病の母親から生まれた子供は、正常という訳ではありません。それらの子供が子宮内にいた環境では同じように、インスリン抵抗性が増加し、脂肪組織の蓄積を促進し、人生の早期にインスリンやレプチン分泌を増加させ、これにより異常な体組成をもたらし、将来の疾患のリスクを増加させてしまうのです。

妊娠糖尿病の母親から生まれた子供は小児期にでさえメタボリックシンドロームを発症するリスクも高いと考えられています。

もちろん、すべての子供がそうなるわけではありません。しかし、確実にリスクを上げることを考えると、生まれてからの子供に対する食事をしっかりと考えなくてはなりません。

妊娠糖尿病はインスリン抵抗性が非常に増加することにより起こります。しかし、通常の治療はインスリンの注射です。インスリンが効かないのにインスリン注射を標準の治療としてしまうのは非常におかしな話です。

そして妊娠中の糖質制限を実施することにより、理論的にはこれらのリスクを低下させることが可能です。

 

ウォールストリートジャーナルの2014年7月30日の記事によると、「リプロダクティブ・トキシコロジー(生殖毒性学)」に掲載されたメタ解析結果で、つわりがひどければ、それだけ出生異常の確率が低く、さらに子供の良好な長期的発育につながるという関連性が認められたということです。

85万人の妊婦について、嘔気・嘔吐の症状と、流産、未熟児、出生時体重、心臓欠陥や口蓋裂(こうがいれつ)などの先天性欠損症の確率の関係や、子供の長期的発育との関連性を調べたところ、嘔気・嘔吐の症状のない妊婦の流産の確率は、そうした症状のある妊婦と比べ、3倍以上高かったそうです。また、妊娠中の嘔気と嘔吐が、子供の出生時低体重や低身長のリスクの低下と関連性がありました。早産の確率は、つわりの症状のある妊婦が6.4%、症状のない妊婦が9.5%と、つわりのある女性で低かったのです。

さらに、出生異常の確率は、つわりのある妊婦の子供で30~80%減少しました。これらの子供について数年後に調査したところ、IQ(知能指数)、言語、行動のテストでスコアが高かったのです。

また、米国立衛生研究所が2016年9月26日付で発表した資料によると、流産を過去に1~2回経験している797人の妊婦で、57.3%の女性がの軽いつわりを、26.6%が重いつわりを報告し、16.1%がつわりを経験していませんでした。最終的に797人のうち188人(23.6%)が流産しましたが、つわりの症状が重い人ほど流産のリスクが少なく、つわりを経験した人は、しなかった人に比べ、流産のリスクが50~75%低かったという結果でした。

なぜ、急につわりの話になったかというと、私の勝手な解釈では、このつわりの時期は胎児の成長にとって何らかの意味があり、敢えて栄養を摂らないようにしている可能性があると考えています。通常で考えれば、胎児の成長には栄養が必要です。このつわりがマイナスに働くのであれば、進化の過程で淘汰されてきたと思います。逆にこのつわりがプラスになっているからこそほとんどの妊婦に起きるはずです。そして、上で書いたようにつわりが強い方が流産も少なく、生まれてくる子供の状況も良いということです。実際には胎児の状態でつわりの強さが決まってくる可能性も否定はできません。

しかし、私はこの時期に母親がつわりで食べれれないことにより、インスリン値が低下し、ケトン体が大量に出るようになっているのではと考えます。そのケトン体が大量に胎児に供給されることが非常に胎児にとって良い方向に働くのでは、と考えます。

ですから、まずは胎児を高血糖、高インスリン血症の環境にさらさないことが必要でしょう。糖質制限をして、その後の子供の人生の中の病気の危険を少しでも減らしましょう。

 

「Metabolic syndrome in childhood: association with birth weight, maternal obesity, and gestational diabetes mellitus」

「小児期のメタボリックシンドローム:出生時体重、母体肥満、および妊娠糖尿病との関連」(原文はここ

 

「Insulin and Leptin Levels in Appropriate-for-Gestational-Age Infants of Diabetic Mother」

「糖尿病の母親の正常体重の幼児におけるインスリンおよびレプチン濃度」(原文はここ

 

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