PPI(プロトンポンプ阻害薬)の暗黒面 その1 薬を止められなくする仕組み

少し前のことになりますが、江部先生のブログで逆流性食道炎の方が質問し、それに横から失礼して、アドバイスをさせていただきました。(その記事へのコメントはここ

その方は、逆流性食道炎でPPIを使用していました。江部先生のブログで逆流性食道炎は糖質制限開始後リアルタイムに改善するとのことを読んで、期待して糖質制限を始めました。しかし、スーパー糖質制限開始して数日後に、毎日服用していたPPIを自己判断で中断してみまたところ、服用中はもちろん、逆流性食道炎治療以前を含めて全く自覚したことのない食事直後の強い胸焼けを、食事の内容・量に関わらず感じるようになったということです。

これに対して、PPI中止による胃酸分泌のリバウンドは、症状再燃ではなく副作用である、という話をさせていただきました。

その方は、薬をやめたまま経過をみていました。そして約2週間後に劇的に改善したようです。(その記事はここ

PPIは強力に胃酸の産生を抑えます。ですから、逆流する胃酸も非常に少なくなる場合があり、劇的に症状が改善することもあります。しかし、中止をすると、PPIを飲むきっかけとなった胸やけなどの症状が非常に強く出る場合があります。このことを症状が「再燃」したと捉えると、一生PPIを飲み続ける破目になります。PPI中止後の逆流症状は「再燃」ではなく、PPIを飲んだことによる副作用です。

このような現象はRAHS(Rebound acid hypersecretion:リバウンド胃酸過多分泌)として知られています。これは非常に重要な副作用なのです。健康なボランティアを使った研究でも非常に高頻度に現れる副作用です。

「Proton-pump inhibitor therapy induces acid-related symptoms in healthy volunteers after withdrawal of therapy」

「プロトンポンプ阻害剤療法は、治療を中止した後、健康なボランティアに酸関連症状を誘発する」(原文はここ

背景および目的:リバンド酸分泌過多(RAHS)は、8週間のプロトンポンプ阻害剤(PPI)での治療後に実証されている。 RAHSが酸関連症状を誘発する場合、これはPPI依存症を引き起こす可能性があり、したがって重要な意味を有する。

方法:120人の健康なボランティアを対象とした無作為化、二重盲検プラセボ対照試験を実施した。参加者は12週間のプラセボまたは8週間のエソメプラゾール40mg /日、続いて4週間のプラセボで無作為化された。胃腸症状評価尺度(GSRS)は毎週記入された。胸焼け、酸逆流、または消化不良に関する質問の1/2のスコアは、臨床的に関連する酸関連症状として定義された。

結果:GSRSスコアのベースライン時のグループ間に有意差はなかった。酸関連症状のGSRSスコアは、PPI群で10週目(1.4対1.2)、11週目(1.4対1.2)、および12週目(1.3対1.0)。PPI群の患者の44%(26/59)は、プラセボ群の15%(9/59)と比較して、9〜12週で関連する酸関連症状を報告した。 PPI群の消化不良、胸やけ、酸逆流の割合は、10週で59例(22%)、11週で59例(22%)、12週で58例中12例(21%)であった。プラセボ群では、10週目で7%、11週目で5%、および12週目で2%であった。

結論:8週間のPPI療法は、治療中止後、健康なボランティアに酸関連症状を誘発する。この研究は、PPI離脱の認識されない側面を示し、RAHSが臨床上の意味を有するという仮説を支持する。

つまり、もともと症状がない人でも、PPIを8週間使用すると、その後中止したときに半数近くに、胸焼けなどの胃酸逆流症状が起こるのです。しかも、中止後4週間後でもこのリバウンド症状は持続している人がおり、長く継続する可能性があります。他の研究では8週間持続するというものがあるようです。もともと症状がないのですから、「再燃」ではありません。明らかにPPIが起こした副作用です。

人間の体はホメオスタシスといって、常に一定の状態に保とうという仕組みがあります。人間にとって胃酸が出ることは当たり前の現象です。それを薬で無理やり止めてしまうと、人間の体は「胃酸が足りない!もっと作らなきゃ!」という反応を起こし、代償性にガストリンが増加し、胃酸を分泌する細胞を過剰に増加させます。それにより、中止後に胃酸が過剰分泌になるのです。(図はこの論文より改変)

 

 

胸やけの症状を改善する薬の副作用が「胸やけ」なんです。ちょっとややこしいですが、薬を飲んでいる間は元の胸やけの症状は治まっても、中止すると他の「胸やけ」が起きてしまうのです。つまり、胸やけなどの胃酸逆流症状でPPIを飲み始めると一生やめられない錯覚に陥るのです。(論文ではPPI依存性を引き起こすと言っています)PPIをやめると、また症状が出てくるのですから。だから医師の中には「一生付き合っていくしかない」なんていうことをいう人がいるのです。非常に素晴らしいビジネスモデルなんです。

こんなことは恐らく研究段階、開発段階、治験段階から製薬会社はわかっていたはずです。そこで、「これは行ける!儲かる!」と気づいたのでしょうか。胃や十二指腸の潰瘍はともかく、「胃酸逆流症、逆流性食道炎でPPIを一度飲ませれば、やめられない人がたくさん出てくるはず。それはPPIで症状が治まっている間に別の胃酸逆流のメカニズムが出来上がるから。」とわかっていて、この薬を製造販売しているのです。それがPPIのダークサイドです。

もちろん、処方する消化器の医師はこのことを知っているはずです。本来ならば、「PPIを飲んで症状を落ち着かせている間に、食事を変えて、胃酸逆流が軽減するようにしましょう。食事を変えてしばらくしたら、PPIをやめましょう。長く飲んでいると、PPIの副作用で別の逆流が起きてしまうからです。食事を変えて、PPIをやめたときに一時的に症状がぶり返したように感じることがありますが、それはPPIの副作用なので、しばらく様子を見てください。」と説明すべきでしょう。

それを一部の暗黒面に堕ちた医師は、「胃酸逆流は治らないから、PPIを飲み続けなければならないよ。一生付き合っていくしかないよ。」と患者を脅すのです。

安易に薬に頼ると、このようなことになりかねません。逆流性食道炎、胃酸逆流症、胸焼け、などの全てとは言いませんが、多くはPPIの適応ではないと思います。糖質制限でほとんど改善します。しかし、PPIの暗黒面はこれだけではありません。

 

to be continued…

2 thoughts on “PPI(プロトンポンプ阻害薬)の暗黒面 その1 薬を止められなくする仕組み

  1. 今さらですがこちらにたどり着きました。
    その節は大変お世話になりました。

    先生のコメントのおかげで自分の体を信じること(つまりはPPI服用を止めること)を貫けました。

    逆流性食道炎が発覚する時点でも、それまでほとんど胸焼けを感じることはなかったのですが、むしろ今現在胸焼けを感じる(なぜか計ったように食後5-6時間後)ようになってます。ただ、PPI離脱中とは比べものになりませんので、原因はまた別では無いかと考えています。思い当たるのは油や大豆製品の摂取量の関係でしょうか。

    いずれにしても、服薬を止められたことは本当に良かったと思います。再度申しますが先生のコメントのおかげです。

    その後も糖質制限はより厳しく続けておりますが、むしろ楽しんでやってます。
    今後も勉強させていただきたいと思います。
    本当にありがとうございました。

    1. ねけさん、コメントありがとうございます。
      PPIが中止できて良かったですね。
      ほとんどの薬は急性期に使うもので、慢性的な症状は食事の問題が一番大きいと思います。
      楽しく糖質制限、本当に良かったです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です