糖質制限での点滴 脂肪乳剤について

糖質制限をしている場合に、病気になって入院したりすると、点滴に対する不安があります。一部では糖質の入った点滴をしないように文書で渡す方もいるようです。

点滴が糖質ゼロのものを使ったとしても、長期の絶食ではエネルギーが必要になります。絶食時に行う点滴にアミノ酸をいっぱい含んだものがありますが、通常糖質を含んでいます。アミノ酸だけを投与することは限られてきます。

脂質を点滴に加えることが可能ですが、脂肪乳剤という特殊な白い点滴になります。まるで牛乳のような白さです。糖質は入っていません。糖質制限をしていれば脂質はエネルギーであり、脂肪乳剤は歓迎すべきことかもしれません。糖質制限を推奨している医師の中ではどんどん脂肪乳剤を使っている方もいるかもしれません。脂肪乳剤の使用を全く否定するつもりではありません。しかし、この脂肪乳剤を積極的に使っていいのかどうかはまだ検討の余地があると思います。

ひとつは日本で使用できる脂肪乳剤は大豆の油を主成分としているので、オメガ6がメインの脂肪酸となってしまいます。100 gあたり、飽和脂肪酸 15g、一価不飽和 22g、オメガ3 6g、オメガ6 50gとなっています。オメガ6が非常に多いので炎症を促進してしまう可能性があります。そうすると病気で免疫力が低下し、炎症が起きている場合に、本当にこのようなオメガ6を大量に投与して良いのかどうかは疑問が残ります。ヨーロッパではオメガ3をたくさん含んだものや中鎖脂肪酸(MCT)を含んだものも選択できるようです。

もう一つは脂肪酸をエネルギーとするためのβ酸化はミトコンドリアの中で行われますが、ミトコンドリアに入るために脂肪酸をアシルCoAに変換しなければなりません。手術などで強い炎症が起きている場合に、この変換が阻害されると書かれているものがあります。(ただ根拠が不明です。)どの程度の炎症で阻害されるのかは私にはわかりません。

そうすると使われない脂肪酸は中性脂肪となり血中に戻ってしまう可能性があります。そして糖質制限もしていれば糖質もエネルギーにできないので、結局タンパク質を分解しなければならないことにもなりかねません。

さらにもう一つ、脂肪乳剤を入れると、血中の中性脂肪が激増します。下で紹介する研究では80mg/dLが213mg/dL程度、つまり約3倍になります。その状態が4時間以上も続きます。人為的にTGスパイクを作り出しているようなものです。そして、さらに、脂肪乳剤を入れたことにより、自前のVLDLと競合してしまい、VLDLのクリアランスの低下を招き、VLDLが増加してしまうのです。この研究では健康な人で行っていたので、入院生活や手術後の状態ではどのようになっているかはわかりません。もし、患者さんでも同じようなことが起きているとすると、脂肪乳剤の投与により、レムナントVLDLを増加させてしまう可能性があります。そうすると、これはアテローム性動脈硬化症、心血管疾患のリスクを上げてしまうことにもなりかねません。高血糖も嫌ですが、高中性脂肪も嫌です。

普段から糖質制限をしている場合に、上に書いた様々なことがどのようになるかは未知の世界だと思います。普段からケトン体が出ている状態であれば、炎症も少なく済むかもしれませんが、しかし、オメガ6がメインなので、炎症を促進されます。どちらが勝るかはわかりません。また、普段から脂肪を活発にエネルギーにしているので、レムナントはできにくいかもしれません。

何でもない状態では点滴はしません。点滴する状態にもよりますが、手術などで炎症が避けられない状態の場合、かなり悩ましいことになります。2~3日の絶食、点滴であれば、生理食塩水だけでも構わないでしょう。ファスティングだと思えば良いのですから。しかし、長期の絶食で点滴となると考えなければなりません。

炎症で脂肪酸がエネルギーになるのが低下したとしても、絶食では恐らくケトン体が上昇するのではないかと思います。がんの治療中でのケトン食によるケトン体の増加は認めているからです。ということは脂肪酸がミトコンドリアの中で代謝を受けてる証拠でもあります。私なら、脂肪乳剤を使って、ケトン体に期待してみたいと思います。レムナントについては私の中の優秀なLPLたちが頑張ってくれるでしょう。

最近出た重症患者の栄養ガイドラインではいまだにベースはカロリー計算です。

計算式はいろいろあると思うのですが、25〜30 kcal/kg/dayという簡易式でも良いとされています。タンパク質の量は1.2〜2.0 g/(実測体重)kg/dayです。さらに脂肪乳剤に関しては「静脈栄養が10日間以内であれば,大豆由来の脂肪乳剤の投与は控えることを弱く推奨する。」としています。脂肪乳剤は特別な栄養の点滴の扱いです。タンパク質量は良いとして、脂質の重要性がほとんど考慮されていません。

私が若いころの重症患者の点滴とそれほどガイドラインは変わっていないという印象です。カロリー計算をして、それに見合うようにブドウ糖と加えエネルギー量を増量していました。当然高血糖になってしまう患者さんが続出します。その人たちにはインスリンを投与します。それが正しいと思ってきましたし、今も正しいと考えられていると思います。

しかし重症の患者さんの多くはインスリン抵抗性が高いなっているように思います。そこに糖質たっぷり入れて、高血糖になったらインスリンを使うというのは本当に良いことなのかは非常に疑問です。炎症が起きている状態にさらに高血糖で炎症を拡大させているように思えます。ケトン体の点滴があれば良いのだと思います。

入院中も簡単にケトン体を測定できる環境が早く整うと良いですね。そして、糖質制限でも使える高エネルギーでケトン体を含んだ点滴が開発されると良いですね。脂肪乳剤もオメガ3やMCTを含んだものを日本でも早く発売してほしいですね。その前にその重要性を教育する必要がありますが。

脂肪乳剤の使用にはこのような不明な点や一長一短があることは知っておいた方が良いかもしれません。

「Accumulation of large very low density lipoprotein in plasma during intravenous infusion of a chylomicron-like triglyceride emulsion reflects competition for a common lipolytic pathway」

「カイロミクロン様トリグリセリドエマルジョンの静脈内注入中の血漿中の大きなVLDLの蓄積は、共通の脂肪分解経路の競合を反映する」(原文はここ

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コメント

  1. ゴロンタ より:

    シミズ先生こんにちは。

    牛乳のような白さで植物油由来とか、○ジャータとか○リームとかのコーヒーフレッシュみたいですね…それを点滴するとなるとちょっと怖いです。
    (トランス脂肪酸とか大丈夫なんでしょうか?)

    • Dr.Shimizu より:

      ゴロンタさん、コメントありがとうございます。

      色は本当に真っ白です。怖くはないです。
      トランス脂肪酸は恐らくゼロではないと思います。
      データは持っておりませんが。
      海外では50%がMCTで魚油やEPA+DHAを含んだもの、オリーブオイルを主成分としているものなど
      があります。これなら毎日積極的に使ってもらいたい気がします。