新型コロナウイルスと血栓症 その3 肺塞栓症にご注意を

様々な新型コロナウイルスの感染爆発国と比較して、日本は本当に死者数の増加スピードが遅いです。

上の図は死者数が10人を超えた日からの死亡者増加の推移です。感染爆発を起こしている国では死者数10人から100人になるのに6~13日でしたが、日本は32日かかっていました。感染爆発国では100人から1,000人になるのに7~10日でした。そして1,000人から10,000人になるのに12~16日でした。

日本が1,000人を超えるまでは、このままのスピードだとあと19日前後かかります。まだ増加スピードがプラトーになっていないので何とも言えませんが、もしかしたら1,000人さえ超えないかもしれません。

日本はここまで緩々の行動制限で、死者数の増加スピードがこの程度です。

日本の予測にはヨーロッパのデータを当てはめるべきではないのかもしれません。

今回の新型コロナウイルス感染での様々な症状は炎症よりも血栓症がメインかもしれません。以前はサイトカインストームが起きて急速に様々な症状を呈しているのではと思いましたが、それよりも様々な臓器に血栓ができて、急速に悪化するのではと思います。

アメリカでは新型コロナウイルスに感染した30~40代の患者が脳梗塞になる症例が相次いでいるようです。(その記事はここ

日本でもまた、新型コロナウイルスによる著名人の犠牲者が出てしまいました。乳がん術後で放射線治療を行ったばかりで免疫力が低下していたのでは、と言われています。乳がん後に抗がん剤を行っていたとしたら、その副作用も関連するかもしれません。タモキシフェンなどの薬は血栓のリスクを上げます。同じアジア人の台湾の研究によると、乳がんの高齢女性の深部静脈血栓症または肺塞栓症を起こす可能性が1.95倍に増加しているとされています。(この論文参照)亡くなった女優さんは急変していますが、肺塞栓が起きていた可能性もあるでしょう。埼玉県で自宅待機で急変して亡くなった方も、前日に「息苦しい」との訴えがあったようです。(ここ参照)この息苦しさが肺炎ではなく肺塞栓症によるものだったとすると、数時間で急変する可能性も高くなると思います。

実はSARSのときにも血栓症が非常に多く起きていたようです。シンガポールのSARSで亡くなった人を解剖してみると、確定例8例のうち4人の患者では肺塞栓症、3人の患者では深部静脈血栓症、2人の患者では血栓による広範囲の多臓器梗塞が確認されています。(この論文参照)

今回の重症化リスクの高い基礎疾患を見ても、高血圧、糖尿病、心血管疾患と血管の病気ばかりです。肺炎がメインの病態であればもっと慢性呼吸不全や喘息のリスクが高くなっても良いはずです。また、タバコのリスク増加が最近のデータでは示されていません。

ニューヨークのデータで、新型コロナウイルスで入院する可能性(オッズ比:OR)はタバコの以前の喫煙者と現在の喫煙者を合わせてもので、OR=0.71であり、有意に入院の可能性を低下させています。重篤化に関しても喫煙者で有意差が出ていません。そもそも新型コロナウイルスで入院した人の5.2%、重篤化した人の4.3%しか現在の喫煙者はいません。(ここ参照)

タバコはもちろん、血管系の疾患のリスクになりますので、間接的には新型コロナウイルス感染に対して影響はあるとは思いますが、直接的には関連していないと思われます。

今回のウイルスの標的が血管であり、血栓症がメインの病態と考えると、以前の記事「新型コロナウイルスと血栓症 その2 人種は重症化の差を説明する?」で書いたように、人種差による重症化の差が十分に説明つくかもしれません。

今回の研究では、アジア人とその他の人種の血栓性疾患の発生率の大きな差を報告しています。(表は原文より改変)

白人黒人ヒスパニックアジア人
相対リスク11.40.80.1

上の表は肺塞栓症(PE)と深部静脈血栓症(DVT)のアメリカの人種によるリスク比です。白人を1とした場合、アジア人は0.1です。つまり10分の1です。

重症化リスクの低下はBCG接種で10分の1、人種で10分の1、合わせて100分の1。計算ピッタリです。(都合良すぎ…)さらに、糖質制限で10分の1(数値に根拠なし)、血液型O型で2分の1で、2,000分の1。(もっと都合良すぎ…?)

しかし、新型コロナは血栓がメインの病態と考えれば、高血糖や高インスリン血症を起こすことは非常にリスクが高くなるでしょう。(「高血糖は凝固を促進し、高インスリン血症は線溶を阻害する」参照)

体調が悪い時に、体力をつけるために、何でも良いから口にできるものを摂取した方が良いという人もいますが、糖質以外を摂取すべきでしょう。口当たりが良いからとアイスや、日本ならではの「お粥」も避けた方が良いと思います。

「Risk of pulmonary embolism and/or deep venous thrombosis in Asian-Americans」

「アジア系アメリカ人における肺塞栓症および/または深部静脈血栓症のリスク」(原文はここ

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. まーさん より:

    さすが清水先生ですね。凄いです。
    これで新型コロナの病態の本質に大きく近づいたのではないでしょうか。
    血栓症がメインなら重症患者への治療の重点も変わりますよね。
    それにしても新型コロナは恐ろしいウイルスですね。
    まるでリングウイルスを彷彿とさせます。小説では天然痘の変種により肉腫が出来て冠動脈閉塞を起こし死に至るというものでしたが、肉腫と血栓という違いはあるものの臓器の梗塞の恐ろしさをまざまざと見せつけられた気がします。
    私の父は透析患者でした。気になったので透析患者はどうなのか調べてみました。
    https://www.jsdt.or.jp/info/2769.html
    コロナ感染の死亡率は、8.5%(4/47)と基礎疾患のない患者と比べると確かに高いのですが、欧米の平均的な死亡率と比べても低いように感じます。欧米の透析患者の実態はいかほどなものか想像するのも怖いです。
    父はワーファリンを服用していましたが、そういったことも影響はあるのでしょうか?

    岡江久美子さんは本当に残念でした。世間では癌の放射線治療で免疫力が低下したことが原因と言われていますが、そもそも癌になること自体、免疫力の低下の現れだと思っています。糖質制限を基本とする食事、質の良い睡眠、そして適度な運動を改めて肝に銘じた次第です。ランナーは一般の人に比べて体力があるため自信過剰なのか、ほとんどの大会が中止となったこの状況でも長時間長距離や、スピ練などハードで高強度なトレーニングされている方がおられることを危惧しています。

    • Dr.Shimizu より:

      まーさんさん、コメントありがとうございます。

      ニューヨークの報告では死者の中で慢性腎疾患を持っていた人は13%程度です。恐らく有病率とそれほど変わらないのではないかと思います。透析となると情報を持っていません。
      まあ、透析の半分ほどは糖尿病によるものですし、糖尿病のコントロール次第かもしれません。
      ニューヨークの死者の糖尿病を持っている割合は34%程度です。有病率は10%程度なので、大きく有病率を超えていますね。
      糖尿病、心血管疾患、多くの腎疾患も血管疾患ですので、今回のウイルスでのリスクは高いと思います。
      ワーファリンはもしかしたら良い方向に働いている可能性はあります。

  2. NANA より:

    >ニューヨークのデータで、新型コロナウイルスで入院する可能性(オッズ比:OR)はタバコの以前の喫煙者と現在の喫煙者を合わせてもので、OR=0.71であり、有意に入院の可能性を低下させています。重篤化に関しても喫煙者で有意差が出ていません。

    タバコのニコチンが新型コロナウイルスの侵入を阻害する要因になっているのではないかという研究報告も発表されているようです。
    新型コロナウイルスの病理・病態はまだまだよく分かってないということですかね…

    https://www.theguardian.com/world/2020/apr/22/french-study-suggests-smokers-at-lower-risk-of-getting-coronavirus?CMP=share_btn_tw

    • Dr.Shimizu より:

      NANAさん、コメントありがとうございます。

      そんなんですよね?中国の最初の頃の報告ではタバコが有害視されていましたが、最近の報告は実に喫煙者の感染者が少ないんです。
      タバコは保護的に働いている可能性もありまよね。でも、今から慌てて吸いませんが。その他の有害性が大きいですから。
      ウイルス性肺炎がメインであれば、もっと呼吸器疾患の方がリスクが高くなりそうなものですが、そのようになっていないので
      私はメインは血栓症だと思っています。

      • NANA より:

        「メインは血栓症」が真実だとすれば、肺炎に対する治療アプローチ(人工呼吸器、人工心肺)の考え方や評価も変わってくるのではないでしょうか。

        ところで、日本禁煙学会や日本呼吸器学会は、喫煙がCOVID-19の重症化の大きなリスクファクターであるとかなり前から断定し警笛を鳴らしていました。
        なので、タバコに関する新しい知見は大きな議論を呼ぶかも知れませんね。

        https://dm-net.co.jp/calendar/2020/030009.php

        https://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/koronatotabako.pdf

        この記事(↓)の救急医は、COVID-19では「息苦しい、胸が痛く苦しい」など肺炎による定型的な症状を殆んど訴えない一見軽症にみえる患者であっても、深刻な低酸素症に至っているケースが多いことを指摘しています。そして「パルスオキシメータ」による低酸素状態の早期検知と適切な早期対応の重要性を訴えていました。

        https://toyokeizai.net/articles/amp/346423#click=https://t.co/banrs2T3uD

        日本の臨床現場ではCOVID-19の病理・病態についてどのような捉え方がなされ治療が行われているのか、そこに問題点はないのか、そこが気になるところ、知りたいところであります。

        • Dr.Shimizu より:

          NANAさん、コメントありがとうございます。

          メインは血栓症は、コンセンサスのない私の意見です。もしそうであれば、人工心肺は有効ですが、人工呼吸はそれだけでは救命できません。

          日本禁煙学会や日本呼吸器学会は初期の武漢の論文やWHOの声明からリスクがあると警笛を鳴らしていると思います。
          しかし、最近の報告は喫煙との関連を示していませんね。

          東洋経済の記事は新型コロナウイルス感染=肺炎という先入観があると思います。CT画像で肺炎の所見があっても、症状がそれと一致しない場合、
          他の原因を疑ってみるべきでしょう。確かに凄い肺炎像でも、臨床症状が異なるのであれば、低酸素の原因は別にあるのではないでしょうか?
          画像所見はあくまで画像にうつるものであり、そこに見えないものが原因である可能性は十分にあるのですから。
          画像でものすごい肺炎像なのに、呼吸が比較的楽にできるのであれば、やはり肺塞栓なのかもしれません。

          いくら肺炎症状が強くても、路上で死んでしまうことはないでしょう。肺塞栓であれば、急に失神したり、心停止することもありますから。
          新型コロナウイルス感染症はときに数時間のうちにどんどん進行すると言われていますが、これも肺塞栓であれば十分に説明できます。

          今回のウイルス感染のメインが血栓症であるとすると、軽症者の自宅療養は非常に危険である可能性もあります。自宅でじっとしていると下肢に血栓ができ、
          起き上がったときにその血栓が肺に詰まり、急激な低酸素を呈する肺塞栓を起こす可能性があるからです。
          無症状や軽症でもD-ダイマーを測定し、D-ダイマーが正常ではない人はやはり入院、抗凝固が望ましいと私は思います。