ビタミンは生物にとって必須のものではあります。しかし、どのように作用しているのかすべてがわかっているわけではありません。いつも書いているように、欠乏するのは問題があります。しかし、過剰になるのも問題があることも多いと思います。また、人生のある時期であれば必要で有用なものが、他のある時期では悪さをする可能性だってあります。
今回はその一つの例を挙げます。
以前の記事「マルチビタミンの使用は乳がんを増加させる可能性がある」で犯人の一つと考えられた「葉酸」です。
葉酸は妊娠時には絶対不足してはいけない栄養素でビタミンB群の一つです。葉酸は胎児の神経系の発達に欠かせません。しかも、一番重要な時期はまだ妊娠に気づいていない時期なので、妊娠する可能性がある段階で、妊娠する前から葉酸は十分摂取しなければなりません。
しかし、この葉酸はみんなに必要でしょうか?
人工の葉酸は、天然の葉酸よりも急速にしかも高い割合で吸収されるとされています。その人工の葉酸は体内で生じる天然の葉酸の代謝、細胞輸送および調節機能を妨害する可能性があります。実際に、人工の葉酸の方が天然の葉酸よりも葉酸の受容体にくっ付きやすく、細胞内に取り込まれる葉酸は人工のものの方が多くなってしまいます。脳であっても同じで、天然の葉酸が入り込むことを人工の葉酸は妨害します。人工の葉酸が細胞内でどのように作用するのかはまだわかっていません。
過剰の人工の葉酸があると、腸や腎臓の細胞の葉酸を輸送するトランスポーターというものが減少することも報告されています。
人工の葉酸を摂取すると確かに体の中の葉酸量は増加しますが、多くは未代謝の人工の葉酸が増えているのです。
人工の葉酸によって異常に葉酸濃度が高くなると問題が起こる可能性があります。例えば、葉酸濃度が高いとビタミンB12の欠乏を隠してしまう可能性があります。また、ビタミンB12だけが低くても認知障害のリスクは70%上がるとされていますが、ビタミンB12と葉酸が正常の人と比べて、ビタミンB12が低く葉酸が非常に高い人は認知障害と貧血のリスクが5倍以上になるという報告もあります。葉酸濃度の上昇に伴い神経障害の重篤度が増加することも報告されています。JAMA Neurologyの論文(原文はここ)によれば、葉酸の総摂取量の上位5位(中央値742μg/ 日)の人の認知低下率は、摂取量の最低5分の1(中央値186μg/ 日)の2倍以上でした。葉酸をたくさん摂れば摂るほど認知機能低下速度が速くなるということです。
葉酸濃度は免疫機能にも影響があります。葉酸濃度による免疫力は「U字曲線」を描き、血欠乏も過剰も免疫の非常に重要なナチュラルキラー細胞の機能を低下させると言われています。1日量として葉酸サプリメントで400μg以上になると有意にナチュラルキラー細胞の機能が低下するそうです。60歳以上の女性では未代謝の葉酸(つまり人工の葉酸)濃度が高くなるほどナチュラルキラー細胞の機能はどんどん低下します。つまり、サプリメントなどで過剰な葉酸を摂取すると、あなたの免疫機能は低下してしまうのです。
がんではどうでしょうか?
葉酸は細胞の分裂と増殖に非常に重要なものです。そうすると、葉酸の欠乏はDNAの修復を傷害したり、突然変異を増加させるといった悪いことがあります。これはがんの発生に関連します。しかし、葉酸が過剰の状態では細胞の分裂と増殖を促進させると考えると、がんがすでに発生してしまっている場合には、がん細胞を増殖させてしまうのです。つまり、2面性があります。血中の葉酸濃度の増加とがんのリスク増加の関連は大腸がんや閉経後の乳がん、卵巣がん、前立腺がんなどでも認められています。
また、葉酸は遺伝子のスイッチを切り替えることもします。高くても低くても遺伝子のスイッチが切り替わりますが、それが人間にとって好ましくない遺伝子であることもあります。複雑すぎてやはり私の手には負えません。
これら示した葉酸の有害な作用は厚労省の摂取上限量である1000μg/ 日以下で起こっています。通常の食事をしていれば200~300μg/ 日程度の葉酸は摂取できています。しかし、医師の中には2000μg/ 日という上限の2倍量の摂取を勧めている方もいらっしゃいます。根拠は示されていませんのでよくわかりませんが、このような推奨を信じたために何か悪いことが起きないか心配です。あなたが、子供を作る時期でないならば、食事から栄養は摂る方が安全だと私は考えます。
ビタミンだけでなく、様々な栄養素はいろいろな部分で絡み合って作用しています。難解なパズルのようです。単純に体に必要だからと大量に摂ればそれで健康になれるなんて簡単なものではありません。そのパズルを解く自信があり、それが有益ならばサプリメントを摂ることは良いと思います。しかし、人類の進化の中でサプリメントは一切存在していません。パズルを解くというより、サプリメントはパズルのひとつのピースにさえなっていないのかもしれません。