今年も「脱水を起こさないように気を付けよう!」「熱中症対策にこまめに水分補給を!」、というマスコミが騒ぐ季節がやってきました。もちろん汗を掻きやすくなりますから、水分補給が必要になることもあるでしょう。しかし、水分補給をしたから熱中症が防げるわけではありません。(「熱中症予防に水分補給?」参照)
そして、この季節、スポーツドリンクを飲ませようと企業がアピールします。「汗を掻くと、水分だけでなく塩分も失われるから、塩分を含んだスポーツドリンクが最適!」、などと宣伝するため、それを信じてしまう人が非常に多くいるでしょう。
医師でさえ水分補給にスポーツドリンクを勧める人もいるのは非常に残念です。
ある企業は、子供は寝汗を掻くから、寝る前の健康習慣「おやすみ〇〇〇」というとんでもないキャンペーンで、売り上げを上げようとしましたが、すぐにこのキャンペーンは中止になりました。(ここ参照)
スポーツドリンクは子供でも、高齢者でも、どんな人にも日常生活のどんなタイミングでも必要なものではありません。ましてや健康的なドリンクではありません。赤ちゃんや小さな子供に飲ませてはとんでもないことになる可能性もあります。(「糖質過剰摂取で脚気になる!乳幼児で死亡例もある!スポーツドリンクなんていらない!」)
500mlのスポーツドリンクを飲んだらビックリするくらい血糖値が上昇します。
では、スポーツドリンクは水よりも水分補給に向いているのでしょうか?
今回の研究では、様々なドリンクを比較して、体の水分保持に対する効果を分析しています。beverage hydration index(BHI:飲料水和指数)というもので比較しています。BHIはただの水を摂取した後の尿量をそれぞれのドリンクを飲んだ後の尿量で割ることで求められます。それぞれのドリンクを飲んで尿量が少なければ、その分体に水分が保持されるという考えです。(図は原文より)
上の図はそれぞれのドリンク1リットルを飲んだ後の尿量によって求められたBHIの比較です。横軸のドリンク名は左から、ただの水、炭酸水(無糖)、コーラ、ダイエットコーラ、スポーツドリンク、経口補水液、オレンジジュース、ラガー(ビール)、コーヒー、紅茶、冷たい紅茶、全脂肪乳、スキムミルクです。ただの水を1として、BHIの数値が大きいほど水分保持が大きいことになります。
そうすると、水と比較して有意に大きくなったのは、経口補水液と全脂肪乳、スキムミルクだけでした。経口補水液はかなり多くのナトリウムなどの電解質が入っているからなのでしょうね。牛乳やスキムミルクはタンパク質や脂質が入っているために、吸収がゆっくりになって、その分尿が少なくなった可能性があるのかもしれませんが、4時間尿を採取しているので、これらもそこに含まれる電解質の量によるのかもしれません。
いずれにしても、スポーツドリンクが水に勝って水分保持ができるという結果はありませんでした。つまり、通常の生活の中では何を飲んでも大して水分補給の効果は変わらないことになります。あえて水分を保持したいのであれば、経口補水液か牛乳となるのかもしれません。しかし、通常の生活で経口補水液が必要である場面はほとんど、または全くありません。経口補水液には糖質も入っているので、日常では水やお茶で十分です。
汗で失われる塩分なんて、長時間の激しい運動以外では問題となりません。通常の食事で十分に補給できます。飲み物で補給する必要は全くありません。
企業の戦略に騙されて、脱水予防だと思い、糖質のたっぷり入ったスポーツドリンクを飲むことは明らかに健康に有害です。
「A Randomized Trial to Assess the Potential of Different Beverages to Affect Hydration Status: Development of a Beverage Hydration Index」
「異なる飲料が水和状態に影響を与える可能性を評価するランダム化試験:飲料水和指数の開発」(原文はここ)