LDLやHDLは免疫システムの一部である その1

人類は進化の過程で常に外敵と戦ってきました。それは眼に見える捕食者だったり、目に見えない感染との戦いです。現代において目に見える捕食者はある程度人間のコントロールが成されていますが、目に見えない感染はいまだにコントロールできません。これからもコントロールできないでしょう。

今日も世界中で新型コロナウイルスが拡大しています。

LDLやHDLなどのリポタンパク質はコレステロールや中性脂肪の運び屋と思われていますが、その役割はそれだけにとどまらず、免疫システムの一部を担っていると考えられています。

狩猟採集生活を行っていた時には、ほとんど糖質を摂取していませんでした。そして、体の中に炎症を起こすということは、多くの場合、感染が原因だったと考えられます。

現代においても感染とそれに伴う炎症がアテローム性動脈硬化のアテローム発生に関連しています。例えばクラミジア肺炎と冠動脈疾患の発生とは大きく関連しています。(その論文はここ)クラミジア肺炎のIgG抗体価が64倍以上となると冠動脈疾患になる可能性が7倍以上にもなるのです。

しかもこのような感染とアテローム発生は大人に限ったことではありません。

頚動脈の内膜中膜複合体厚(IMT)を急性感染症(体温38℃以上、CRP>0.15mg/dL、臨床的な診断)の診断基準を満たした28人の入院した小児(平均年齢:5±2歳)で測定してみると、感染群では感染から3か月でIMTの肥厚が生じたのです。(図は原文より)

上の図はIMTです。左から順にコントロール、急性感染のとき、感染後3か月後です。感染から回復して3か月後では有意にIMTが増加しています。

上の図は抗生物質の投与の有無での比較です。急性期に抗生物質を投与された人は、抗生物質で治療されなかった人よりもIMTの肥厚が少なかったのです。

さらに上の図を見るとLDLやHDLなどのリポタンパク質が感染で大きく変化していることがわかります。左の図はHDLコレステロール値、右は総コレステロール/HDLコレステロール値の比です。感染の急性期には大きくHDLコレステロールは低下し、総コレステロール/HDLコレステロール比は増加しています。

他の研究で、ウイルス感染症で死亡した0~15歳の小児の剖検例においても、感染との関連を認め、生まれたばかりの赤ちゃんでも感染症で亡くなった場合にはすでに冠動脈の内膜肥厚が認められていて、内膜と弾性繊維などで動脈の内腔の最大55%を占拠していたのです。左冠動脈においても感染の無い子供と比較して、ウイルス感染で死亡した子供では約2倍も冠動脈が狭くなっていました。(この論文参照)

一般的な感染症、特にウイルス感染症は、冠動脈がアテローム性動脈硬化症になりやすい内膜肥厚と関連しているようです。

そう考えると、現代のアテローム性動脈硬化症が人間本来のメカニズムが誤作動しているのではないかと考えられます。つまり、人類のこれまでの進化では炎症はイコール感染に近いものだったと考えられ、それに基づいて体のメカニズムが出来上がっています。感染が起こると免疫が活性化し、その免疫システムの一部としてLDLやHDLなどのリポタンパク質が活躍し、抗炎症作用やマクロファージなどの活性化を促進して、その役割を終えたリポタンパク質を一時的に収容する場所が血管内腔に非常に近い、血管の内膜下なのではないでしょうか?感染での炎症が強いほど収容されるリポタンパク質は多くなります。だから現代でもともと動脈硬化が進んでいる高齢者や基礎疾患を持っている人はさらに動脈硬化が進み、危機的な状況なる場合があるでしょう。

しかし、環境が整い、狩猟採集時代ほど感染が多くない現代において、別のことが炎症を起こすようになりました。それが糖質過剰摂取であり、食後の頻繁な高血糖なのです。進化の過程での人間のメカニズムでは、糖質過剰摂取はなく、高血糖も起きない状態でしたが、現代では頻繁にそれが起こることにより炎症を起こし、本来は感染での炎症で起こるメカニズムが誤作動(?)を起こして、感染が起きていない炎症に対して様々な免疫システムを働かせてしまっているのではないかと考えます。その一つがLDLやHDLなどのリポタンパク質の働きであり、炎症に対応したリポタンパク質が取り込まれ、一時的に血管の内膜下に収容されるのです。本来のメカニズムでは炎症は一時的なので、主要されたリポタンパク質は処理され、動脈の内膜肥厚はだんだんと元の状態に戻っていたでしょう。しかし、現代の食生活の誤りにより、毎日何度も高血糖を起こし、感染を起こしている状態よりは作用は弱くても、このメカニズムが何度も発動してしまうことにより、だんだんとアテロームは増加し、どんどん血管の狭窄が強くなっていくと考えられます。

他にもリポタンパク質が免疫システムの一部、と考えられることがいくつもあります。

続きは次回以降に。

糖質制限 糖質過剰症候群

「Acute infections in children are accompanied by oxidative modification of LDL and decrease of HDL cholesterol, and are followed by thickening of carotid intima–medi」

「小児の急性感染症は、LDLの酸化的修飾とHDLコレステロールの減少を伴い、その後に頸動脈内膜中膜の肥厚が続く」(原文はここ

コメント

  1. 鈴木武彦 より:

    感染症による炎症が(生活習慣によるものばかり、と私は認識していた)
    アテローム性動脈硬化の原因になるのですね。

    • Dr.Shimizu より:

      鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      人間の体は炎症に反応するだけで、それが感染症なのか糖質過剰なのかは区別していないのでしょう。
      もともと糖質過剰などということはあり得なかったので、それに基づいたメカニズムは特別用意してこなかったのだと思います。