エビデンスの難しさ その2 肉はあなたにがんをもたらすか?(2018.5.1追記)

医療の中でエビデンスの重要性は大きいものですが、数字が並ぶことにより、逆にその裏の本質を覆い隠してしまう可能性があります。統計という数学的に正しいことと、人間を扱う医学として正しいことは違います。

エビデンスが好きな方の中には、統計的な有意差が出ることが正しさだと思われている方がいらっしゃいます。メタアナリシスという統計分析は非常にエビデンスレベルが高いのですが、実際の生データを使用しない分析は注意が必要です。

様々な過去の論文をまとめて出来上がった分析は、生データがわからない場合は、例えるとお惣菜やレトルト食品を合わせて作った料理です。そのできた料理が「おいしい」と思っても、栄養的にどうなのか?元の材料がわからないので本当のところは評価できません。

スーパーのお惣菜のハンバーグを買ってきて、レトルトのデミグラスソースで仕上げた料理はそれなりにおいしいかもしれませんが、ハンバーグの肉はどこ産の肉かわかりません。どの動物の肉かもわかりません。売れ残りの肉かもしれませんし、中国の工場で、一度床に落としたものをそのまま加工したかもわかりません。生の素材が目の前にない場合、松坂牛のハンバーグなのか、牛に似た犬の肉のハンバーグなのか、調理された後では判断が難しいです。(犬の味は知りませんが)添加物もわかりません。レトルトは一応裏の表示を見ればわかることもありますが、細かなことはわかりません。どこの野菜で作られているかもわかりません。

他の料理で例えると、3つの違うカレー屋さんのカレーを混ぜて作ったカレーみたいなものです。(例えが下手!)

それぞれの店でスパイスの分量が違ったり、材料が違ったり、隠し味が違ったりしていて、それを合わせたカレーが不味かった場合、「カレー=不味い」という評価ではおかしくなります。

まして、人間の食べ物が疾患と関連があるかを調べる研究は非常に難しいものがあります。もちろん、このことは糖質制限が疾患と関連しているかどうかの研究にも当てはまります。食事の研究のほとんどは何を食べたかを質問して調べます。何年もの間、食事を調整して提供することは不可能なので、質問という形を取ることになりますが、どうしてもその答えは不確実なものになってしまいます。体に悪いと言われているものは過少申告したり、体に良いと言われているものは過剰申告することもあるでしょう。本当の食事と違うことを答える人もいるかもしれません。

そして疾患に関連するものは一つではないことは非常に多いのですが、それを調整して分析するのも限度がかなりあります。性別や年齢は簡単にわかりますが、例えば糖尿病の有無を考えても、そのコントロールの程度はまちまちです。アルコールやタバコの量も自己申告です。また、糖質制限をしている人と糖質過剰摂取の人では、インスリンの量が大幅に違い、代謝的な大きな違いを認めます。炎症状態も異なります。脂質の利用性も全く違います。ホルモンや様々な物質の活性化も全く異なるでしょう。

また、生活習慣と食習慣は関連することが多いと思います。いわゆる「健康的だ」と思われている食材を多く摂る人は、他の「健康的だ」と思われている食材に関しても多く摂る傾向があったり、「不健康だ」と思われている食材は避けたりしていたり、タバコを吸わないようにしていたり、大量のお酒を飲むことを避けたり、運動習慣を持っていたり、などあまりにも多くの要素が関連してきます。(図は原文より)

上の図を見ると赤い肉の消費量が最も多い人は、最も少ない人と比べて、運動する時間が少なく、肥満で、タバコやアルコールの量が多く、糖尿病になる割合が高く、1日のエネルギー摂取量が多く、フルーツや野菜が少なめで、魚の消費量も少なく、ビタミン剤の使用が少ないのです。もちろんこれらの項目すべてが本当に「健康的」かどうかは別として、肉をたくさん食べる人ほど「不健康だ」と思われている食習慣や生活習慣があるのは明らかなのです。

さらに公表バイアスというものがあります。これはデータを分析して有意差が認められた場合はその研究は公表されやすいのですが、有意差が出ないと公表しないことが多い傾向になります。論文を出すことはそれなりに世界に対してアピールすることになりますから、何の有意差も出ない研究を出しても、何の手柄にもならないということはわかるでしょう。そうすると自ずと疾患と食材の関連を調べた研究で、ましてがんという死に結びつく疾患の場合、有意差が出た研究が多くなるのは否めません。そのような研究を集めて分析したところで、有意差が出るのはある意味自然だと思います。

そうすると、いくら分析した人の人数が増えたとして、そこで有意差のあるデータが出たとしても、それが医学的に正しいかどうかは非常に疑問があるのです。統計的な分析では、数学的には正しいです。

以前の記事「エビデンスの難しさ」で書いたように、生理学的事実に照らし合わせて、エビデンスを考える必要があります。そうしないと、そのエビデンスを出した人の思惑にはまってしまう可能性すらあります。

糖質制限をしている人が赤い肉を食べることと、糖質過剰摂取の状態で赤い肉を食べることは全く意味が違うと思います。もちろん赤い肉の過剰摂取は問題かもしれませんが。

屁理屈だと思うか真実だと思うか、あなたの自由です。エビデンスは難しいです。

(追記:題名に対する結論を書くのを忘れていました。)赤い肉の100gの増加が大腸がんの17%の増加というのは、様々な他の要因、特に糖質過剰摂取を考えれば、無視できる範囲です。WHOの報告については機会があれば記事にします。赤い肉の量のどれぐらいが過剰摂取かはわかりませんが、赤い肉だけを毎日300gも400gも食べていないのであれば、問題にならないと思います。エビデンスはありませんが。

私の結論は「赤い肉は糖質制限をしているのであれば、大腸にがんをもたらすリスクは非常に低い」です。

「Red meat consumption and mortality: results from 2 prospective cohort studies」

「赤肉の消費と死亡率:2つの前向きコホート研究の結果」(原文はここ

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コメント

  1. 吉川恭彦 より:

    今までマラソン大会前日、当日と炭水化物を多量に取ってました。カーボローディングは必要ないようですね。今年の北海道マラソンが楽しみです。先生と勝負!
    まずは函館マラソン頑張ってみます。

  2. 吉川恭彦 より:

    今までマラソン大会前日、当日と炭水化物を多量に取ってましたが間違ってたようですね。先生の食事を参考にします。まずは7月の函館マラソン頑張ってみます。8月北海道マラソンで先生と勝負お願いします!

    • Dr.Shimizu より:

      吉川恭彦さん、コメントありがとうございます。
      カーボローディングをしてももちろん走れます。しかし、その場合
      常に糖質補給を考えていかなければならなくなりなりますし、
      そもそもカーボローディングが人間の体にとって危険です。
      函館マラソンの検討をお祈りいたします。
      ちなみに、私は人と競ってマラソンはしていませんので、勝負はできません。(笑)