糖質制限と食後の眠気

糖質制限をすると食後の眠気が非常に少なくなることが多いです。なぜ、食後に眠くなるのか、というのは実際にははっきりした理由は解明されていません。ある仮説は、食後高血糖になり、その後急速に血糖値が下がり低血糖になるので、眠気はその低血糖症状だと言います。しかし、意識が低下するほどの低血糖は非常に危険であることと、その前に冷や汗が出たり、心臓がドキドキしたりして、体内の警報装置が鳴りまくり、眠気までたどり着きません。そして、食後に低血糖になる時間は3時間後程度になるので、実際に食後眠くなる時間とはタイムラグがあるでしょう。

また、ある仮説では食べ物を消化するために胃や腸に血液がたくさん流れて、その分脳の血流が低下するためと言っています。しかし、もっとも重要な臓器である脳の血流が食事で低下するとは思えません。これも間違った仮説でしょう。

私が考えるのは拙著「運動するときスポーツドリンクを飲んではいけない」でも書いたように、オレキシンが大きく関係していると思います。オレキシンは摂食中枢とされる視床下部外側野に散在する神経細胞から分泌されています。摂食行動の制御因子の一つではあるのですが、同時にオレキシンが睡眠、覚醒調節に大きな役割を担っていることがわかっています。そして、オレキシン神経の変性や脱落がナルコレプシーの原因とされています。

ナルコレプシーは、耐えがたい眠気に伴って通常ではありえない状況、例えば会話中であったり、歩行や食事中でも突然に眠り込んでしまいます。また情動脱力発作といって、笑ったり驚いたり、気持ちが高ぶったりする感情の変化により、全身の脱力で倒れてしまったり、膝が崩れるというような症状を認めます。

オレキシンはレプチンによって抑制され、血糖値が高くなったときにも抑制されます。つまり、糖質過剰摂取で血糖値が上昇すると、オレキシンは急激に抑制されると考えられます。オレキシン低下は覚醒状態が低下し、活動性も低下します。そして、ナルコレプシーのように突然に眠気が襲うのです。

糖質制限をすると、血糖値の変動が少なくなるので、オレキシンの分泌も比較的安定して、食後の眠気が少なくなると考えられます。

糖質制限をすると、「頭のモヤが取れたように、頭の中がはっきりする」という方もいます。恐らく、糖質過剰摂取ではいつもオレキシンが抑制され、覚醒度が低下して頭の中がはっきりしないのだと思います。

しかし、中には糖質制限をしても、食後の眠気が襲ってくる方もいると思います。それはやはりレプチンによるオレキシン抑制が起きるのだと思います。レプチンも食欲を調整する脂肪細胞から分泌されるホルモンです。食事によりお腹が満たされるとレプチンが分泌され、満腹感を感じます。そのレプチンの作用でオレキシンが低下するのです。

人により、高血糖でオレキシン抑制が強く出る人と、レプチンで強く出る人がいるのかもしれません。レプチンに対する反応が弱ければ、糖質制限で食後の眠気は非常に少なくなりますが、レプチンに対する反応が非常に良ければ、糖質制限をしてもやはり食後の眠気が来てしまうのでしょう。

オレキシンの濃度はインスリン抵抗性と負の相関があります。(図は原文より)

上の図は左からHOMA-IR、HOMA-β、OGTT(経口ブドウ糖負荷試験)によるインスリン感受性とオレキシン濃度との関係です。横軸がオレキシン濃度です。 HOMA-IRはインスリン抵抗性、HOMA-βはインスリン分泌能を表しています。そうするとインスリン抵抗性とは負の相関を示しており、インスリン分泌能とインスリン感受性とは正の相関を示しています。つまり、インスリン抵抗性が高いと、オレキシンが低下し、覚醒度が低下するのです。肥満や糖尿病の脳はいつも霧がかかっているのかもしれません。

オレキシンは他にも痛みに関連しています。スポーツの試合中などで非常に興奮した状態でケガをしてもあまり痛みを感じないのに、試合が終わって急に痛みを強く感じる、ということを聞いたことがあるかもしれません。必死になっている状態ではオレキシンが活性化され、覚醒度が高く、痛みをあまり感じませんが、休息状態ではオレキシンが低下し、痛みを感じやすくのです。糖質過剰摂取の人が痛みを訴えることが多い印象がありますが、高血糖による炎症の他に、高血糖によるオレキシンの低下が起きているのかもしれません。

そういえば、ナルコレプシーについて、インフルエンザワクチンと関連があることはご存知でしょうか?新型インフルエンザが流行したときのH1N1のワクチンを接種した人に有意にナルコレプシーになる人が多かったのです。ワクチンが脳に作用している証拠でしょう。ワクチンでオレキシン神経がやられてしまったと考えられます。非常にリスクとしては低いですが、非常に重大な副作用です。

イギリスの調査ではH1N1のワクチン接種後6カ月以内のナルコレプシー発症率が16倍に、フィンランドの調査では13倍でした。もちろんまれな副作用ではあります。イギリスでは 5万7,500接種から5万2,000接種に1人と推定されました。フィンランドでは16,000接種に1人と推定されました。非常にまれですが、起きたら取り返しのつかない副作用です。

さあ、今日も糖質制限でオレキシンをいっぱい出して、頭をスッキリさせましょう。

「Inverse Association of Peripheral Orexin-A with Insulin Resistance in Type 2 Diabetes Mellitus: A Randomized Clinical Trial」

「2型糖尿病における末梢オレキシンAとインスリン抵抗性の逆相関:無作為化臨床試験」(原文はここ

「Risk of narcolepsy in children and young people receiving AS03 adjuvanted pandemic A/H1N1 2009 influenza vaccine: retrospective analysis」

「AS03アジュバント添加パンデミックA / H1N1 2009インフルエンザワクチンを接種された小児および若年者におけるナルコレプシーのリスク:後ろ向き分析」(原文はここ

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コメント

  1. シーラオキ より:

    私は、2型糖尿でスーパー糖質制限暦は5年になりますが、自宅での夕食後には眠くなり、しばしばソファでゴロンと居眠りしてしまいます。
    外食やおよばれではありません。
    いままで、糖質制限すると眠くならないと言うお話ばかり聞くので不安になってましたが、今回、人によって違うと説明してくださり、ほっとしました。
    いつも詳しいご説明やご推察ありがとうございます。

    • Dr.Shimizu より:

      シーラオキさん、コメントありがとうございます。

      狩猟採集生活では推測ですが、恐らく、日中狩猟採集をして、夜に1日に一度の食事をして、
      そこでお腹が満たされ、オレキシンが低下して自然に眠るについていたのではないかと想像します。

      私も糖質制限をしていますが、ときどき夕食後に眠くなるときはあります。
      以前の糖質過剰摂取時代のような強烈な眠気ではないですが。