糖質と鉄のただならぬ関係 その1

以前の記事「フェリチンと糖尿病」を書きましたが、一部の方はフェリチンが高いのは糖尿病の炎症のせいで、原因と結果が逆だろうと思われたと思います。鉄は非常に生物にとって重要なものであり、糖尿病と関連しているなんて、ドクターシミズは血迷ったのか?と思われた方もいるかもしれません。これでは「ドクターシミズのたわごと」になってしまいそうです。

まずはじめに確認しておきたいのは、鉄は必須の物質であり、生物の代謝等にはなくてはならないものです。ミトコンドリアでATPというエネルギーを作り出すにも必要です。だから、欠乏し体調を悪くしたり、何らかの病気になってしまう状態では鉄の摂取をしっかりしなくてはなりません。このことについては私も同じです。恐らくフェリチンが一桁は少なすぎるでしょう。日本の閉経前の女性の約30%は一桁ですから、このような方は鉄が必要でしょう。しかし、どこまでの値が健康的なのかはわかりません。

私が言っているのは、そのような代謝などに必要な鉄が十分供給された状態で、それ以上に貯蔵しておく鉄についての話です。余剰の鉄はすぐに使えるようにある程度の余裕は必要かもしれません。しかし、それが多すぎると「過剰」な鉄となり、逆に人体に不利益を与えると考えるのです。

鉄と糖尿病の話は、何もなく適当に話し始めた話ではありません。

さて、それではここで問題です。

  「すい臓のβ細胞から分泌されているのは…?」

       ピンポーン! 「インスリン!」

   ……ブー!

   「問題は最後まで聞いてください。すい臓のβ細胞から分泌されているの

     は、インスリンともう一つは何でしょう?」

      「…?」

   ……ブー!

    「時間切れです。答えは「ヘプシジン」です。」

ヘプシジンは鉄代謝制御の中心的役割を担っているペプチドホルモンです。ヘプシジンが増加すると鉄の吸収は抑制されます。このヘプシジンは主に肝臓で産生されていると考えられています。しかし、肝臓ほどではないにしても人間のすい臓でも産生されています。しかもそれはインスリンと同じβ細胞で行われているのです。(図はこの論文より)

それはラットでも同じなので、哺乳類には恐らく共通したものだと考えられます。 上の表はヘプシジンの発現量を表しています。難しい部分は省略して、左から人間の肝臓、次が人間のすい臓です。その隣がラットの肝臓で、その隣がラットのすい臓です。

同じβ細胞内にあるということは、恐らくインスリンが分泌されるとヘプシジンも同時に分泌されると考えられます。このことから糖質と鉄はただならぬ関係にあるのでは、と思ったのです。

そして、狩猟採集生活に戻って考えてみると、生物にとって非常に重要な鉄は排出機能を備えていません。反応性の高い鉄を排出する機能を持っていないということは、進化の過程で排出するほどの鉄を獲得できて来なかったのでは?と考えられます。セーフティーネットを持っていないからです。もちろん、その分吸収の場面と保管の場面では安全性を保つようにはしてきたのだと思われますが、そのことについては後で触れることとして、多すぎたら体から捨て去るという機能は持たずに進化してきました。ということは、昔の人類も大して鉄は摂取していなかったとも考えられます。

そして、すい臓のβ細胞にインスリンとヘプシジンが両方存在するという事実は、何か理由があるのであろうと思われます。一つ考えられるのは人体を酸化ストレスから守るためなのかもしれません。ご存知のように糖質摂取で血糖値が上昇すると酸化ストレスが増加します。また、鉄も酸化ストレスをもたらします。食事をした際に糖質も鉄もどちらも体内に急に入ってきたら、非常に強い酸化ストレスになるので、糖質を摂取した場合にはインスリンと同時にヘプシジンを分泌し、鉄の吸収を抑制して酸化ストレスにさらされるのを抑えていたのではないかと考えるのです。

鉄を摂取する場面は昔であれば、肉を食べた場合です。もちろん肉にはヘム鉄が豊富なので吸収は良好ですが、鉄の増加にヘプシジンの発現は増加するので、肉を食べたときに鉄を吸収しすぎないようにしていた可能性も考えられます。肉のタンパク質もインスリン分泌を促しますので、肉を食べてヘプシジンを増加させて鉄をあまり吸収しないようにするのは、本当に積極的に鉄を獲得しようとするのであれば合理的ではない気がしますが、それほど鉄の吸収にはシビアになっており、少しずつ吸収するのが安全上必要なのかもしれません。

いずれにしても、すい臓のβ細胞は血糖値の調節にとどまらず、鉄調節機能を備えていると考えられます。鉄と血糖値や糖質は非常にリンクしているのです。炎症が起きるかどうかの前に、進化の中でこの強い関係性を備えてしまったために、鉄の過剰が糖尿病と結びついているのでは?と考えるのは当然であると思います。

少しは鉄に対する見方が変わりましたか?この続きは次回以降です。

「Human hephaestin expression is not limited to enterocytes of the gastrointestinal tract but is also found in the antrum, the enteric nervous system, and pancreatic β-cells」

「ヒトヘファエスチン発現は胃腸管の腸細胞に限定されず、前庭部、腸神経系、およびすい臓β細胞にも見られる」(原文はここ

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