糖質と鉄のただならぬ関係 その2

前回の記事「糖質と鉄のただならぬ関係 その1」では、すい臓のβ細胞がインスリンだけではなく、鉄を制御しているホルモンも同時に分泌していることを書きました。今回はその続きです。

すい臓という臓器の構造やメカニズム、代謝などは非常に多くの部分で哺乳類の中で共通していると考えられます。人間ではわからないことが動物で確かめられたりします。

その動物実験上では、すい臓のβ細胞は、DMT-1(細胞内へ2価鉄を輸送する非ヘム鉄輸送体)が多く、そのために鉄に対して特に敏感である可能性があります。

人間では、ヘモクロマトーシスという鉄過剰の病気の場合、糖尿病が非常に高率に起こります。ヘモクロマトーシスに合併する糖尿病においては、β細胞へ「選択的」に鉄が蓄積します。そして、糖尿病を発症した人のβ細胞は非常に減少していることもわかりました。このことはすい臓がDMT-1を非常に多く発現させ、鉄の取込みが非常に多いことを裏付けています。

さらにすい臓のβ細胞には非常に多くのフェリチンが認められます。そのフェリチンの量は血糖値が高い方が多くなるようです。

そこで私の仮説は次のようです。

鉄を摂取すると必要な分はそれぞれの組織に分配されます。しかし、余った鉄はフェリチンに蓄えられるのですが、すい臓のβ細胞はDMT-1が多いため、特に余った鉄を取り込みやすくなります。ヘモクロマトーシスなどの極端な鉄過剰の状態ではなくても、鉄は排除機能が存在しないために、少しずつ蓄積していきます。フェリチンはβ細胞に大量に存在するために、鉄の蓄積がより多くなります。しかし、細胞は自然に入れ替わるので、その度に細胞死したβ細胞にあった鉄はばらまかれ、酸化ストレスを起こし、周りの他のβ細胞を傷つけていきます。特にβ細胞は抗酸化作用を示すSOD(スーパーオキシドジムスターゼ)が少ないとされており、酸化ストレスに弱いのです。さらに鉄の摂取が多ければその分、亜鉛や銅やマンガンが減り、さらにSODの威力が低下します。それが積もり積もれば糖尿病を発症するのです。

進化の過程では一気に大量の鉄を摂取することはありませんでした。しかも、鉄を単独で摂取することもあり得ません。何らかの栄養素と同時摂取です。多くは肉なので、タンパク質と同時摂取になります。たまに糖質とも同時摂取もあると思いますが、いずれの場合もインスリンが分泌されると同時にヘプシジンも分泌されて、鉄の吸収を抑制します。鉄の吸収は少しずつが基本だと考えられるのです。以前の記事「ビタミンDは良い効果をもたらすか? その3 大量投与がもたらす害」でも書きましたが、様々な健康に有益な効果をもたらすと考えられているビタミンDでさえ、一気に大量投与すると有害性を認める可能性があります。どんなものでも一気に血中濃度が上がるスパイクは有害なのかもしれません。進化の過程ではあり得なかったことですから、適応していないと考えた方が良いでしょう。

鉄をサプリで摂ってしまうと、食事の鉄と比較して、鉄は一気に大量に吸収されます。鉄サプリだけではインスリン分泌がされない、そしてヘプシジンはすぐには分泌されないと考えられるからです。特に貧血がある場合には吸収も増加しているでしょう。

一気に血中に増加した鉄はスパイクを起こします。その度にすい臓のβ細胞には鉄が少しずつ蓄積して、β細胞に負荷がかかっていきます。

糖質も鉄も過剰摂取ではβ細胞に有害である可能性があるのです。そうでなければこれほど多くの鉄と糖尿病の関連を報告する論文が存在するでしょうか?

糖質制限を行っている人は血糖値のスパイクがなぜ良くないのかをある程度わかっていると思います。一つは酸化ストレスを招くからです。酸化ストレスは様々な細胞や臓器などを攻撃し、傷つけます。同様に一気に体に入った鉄も酸化ストレスの元凶に成り得ます。フェリチン500以上になる鉄過剰症という病的な状態が怖いのではありません。日々摂取する鉄のサプリでスパイクが起こり、それによる酸化ストレスが問題なのです。アミノ酸キレート鉄などの吸収の良い鉄サプリは医療用のフェロミアなどと比較してどれほど吸収が良いのかは実際のデータを持っていないのでわかりませんが、例えば3倍吸収が良ければ3倍血中の鉄のスパイクが増加する可能性があります。

ボクシングに例えるのであれば、糖質はストレートなどの強いパンチ、鉄は細かく繰り出す弱いジャブです。ストレートをまともに何度も食らえばダウンします。しかし、そこにジャブが加わるとダメージが少しずつ蓄積して、ストレートでマットに沈む時間が短くなる可能性があります。

糖質制限をしていれば、ストレートは食らいませんので、ジャブだけでは最終ラウンドまでダウンすることは恐らくないでしょう。しかし、糖質制限をしていない、糖質過剰摂取では鉄のジャブが少しずつβ細胞にダメージを与えます。そう考えると鉄の摂取で糖尿病のリスクが高くなるのは理解できるのではないでしょうか?糖質過剰摂取で貧血のある場合、貧血を改善しようと毎日せっせと鉄剤やサプリを摂取していれば、鉄のスパイクが起き、β細胞は糖質と鉄のダブルパンチを食らっている状態です。

そうすると2つの疑問が湧きます。鉄は必要な分吸収し、必要ではない鉄は吸収されず便と共に排出されるのではないか?また、鉄は人間の体の中では、そのままでは危険なので、トランスフェリンやフェリチンに捕まえられて自由には振舞えないので、危険はないのではないか?という疑問です。

この安全神話は、理論的にはそうですし、理想はそうであって欲しいです。しかし、本当でしょうか?それは次回の記事で…

「The haemochromatotic human pancreas: a quantitative immunohistochemical and ultrastructural study」

「ヘモクロマトーシスのヒトの膵臓:定量的免疫組織化学的および超微細構造的研究」(原文はここ

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