以前の記事「相撲は世界一不健康なスポーツかもしれない その1」では、蜂窩織炎の話題を書きました。では、力士は本当に糖尿病になることが多いのでしょうか?また寿命はどうでしょうか?
ある記事によると、元横綱の北の富士さんは変なことを言っていました。
北の富士氏、糖尿病で休場の照ノ富士に「一寸先は闇だね」/初場所
大相撲初場所3日目(16日、東京・両国国技館)元大関で東前頭10枚目の照ノ富士が日本相撲協会に「2型糖尿病、約1週間程度の療養を要す」との診断書を提出して休場した。今場所から平幕に転落したが、古傷の左膝痛などの影響で初日から2連敗と不振だった。休場は4場所連続5度目で対戦相手の大翔丸は不戦勝となった。
照ノ富士は14場所在位した大関から昨年11月の九州場所で関脇に落ち、5敗10休と1場所での復帰を逃した。今場所でこのまま再出場しなければ来場所の十両転落は確実で、その場合は元大関として昭和以降で大受、雅山、把瑠都に次いで4人目となる。
NHKでラジオ解説を務めた北の富士勝昭氏(75)=元横綱=は照ノ富士について、「体が大きいですから、稽古ができないで食事を取っていると糖尿病になる。気をつけないといけない。休む勇気も必要。上がってきて大関になったときにはすごいのが出てきたと思ったけど、一寸先は闇だね」と残念がっていた。
最後の言葉は、「稽古ができないで食事を摂っているから糖尿病になる」、つまり「稽古をしていれば糖尿病にはならない」、と言っているとも取れます。「一寸先は闇」という言葉は、自分たちの食事がいかに体に大きな負担をかけているかを理解していない証拠です。
力士の糖尿病や死亡率に関する研究は最近のものは見当たりませんでした。かなり古いものですが取り上げてみたいと思います。
まずは1987年の「力士の糖尿病の実態と治療の特殊性」という題のものです。結構ヘビーな内容です。(原文はここ)
(1) 力士の糖尿病の実態
昭和38年頃から始められた力士の糖尿病検診によれば、現役力士700名の7.2%に糖尿を見出す。現役力士を退いた年寄(役員)についてみると糖尿を30%に認める。現役力士で25歳以上 になると16.3%となり社会人の同年齢層における糖尿率4.5%に比べてはるかに高い。
GTTにより糖尿病と診断されたものは現役力士の7%(40人)であるが、大部分は軽症糖尿病で あり、食餌の注意と稽古量の増加により軽快し、インスリンや特殊の経口糖尿病薬を必要としない。
(2) 力士の糖尿病治療の特殊性
糖尿病が進行し、空腹時血糖が200mg/dlをこえ、体重が減少してくると、筋力が衰へ、相撲の成績が落ちてくる。この力士の糖尿病による体力・筋力の衰退に対しては、1日の摂取カロリー量の増加とインスリン注射を必要とする。
実例をあげて説明すると、47代横綱柏戸関は1日インスリン80単位(レンテとセミレンテ)を朝夕に分けて注射し、血糖値をコントロールし、体力・筋力を保持増強した。
59代横綱隆の里関は、稽古のある日は、格闘技に必要な4860kcalと日常生活に要求されるカロリー4800kcalを加えた9660kcalをとり、空腹時の血糖値を150mg/dlに維持するようにインスリンを使用した。このようにして、体重を145~150kgを維持し筋力を増し横綱の地位を保った。
十両筆頭の大錦関は長く糖尿病にかかっているが、1日のカロリーとして3500~4000kcalを とり、速効性のあるインスリン(例えばラピタード・インスリン)を1日2回に分けて使用してい る。空腹時血糖のコントロールの目標を150~170mg/dlに置いて加療すると、力が出て体調がよく,血糖値110~120mg/dlでは筋力が出ず、成績が悪くなる。大錦関が熱心に稽古するのは角力技の練磨と、糖尿病治療のためである。
昨年、パリー巡業を断念し,国内にあって療養につとめたのは糖尿病改善のためであった.
〈むすび 〉
力士は訓練や体重増量のために1日2回食事などの特殊な環境にあるが、力士の糖尿病の治療には摂取カロリーの増加とインスリン使用および稽古最の増大を必要とする。
まるでホラー小説です。私には恐ろしくてなりません。無知を良いことに好き放題やっている感じです。「糖尿病による体力・筋力の衰退に対しては、1日の摂取カロリー量の増加とインスリン注射を必要とする」なんて医師の指示であれば犯罪行為ではないでしょうか?
空腹時血糖が200mg/dlをこえ、体重が減少して、筋力が衰えてくるなんて、もうβ細胞もインスリンを出せない状況です。そこに食事をもっと増やし、インスリンを大量に注射するのです。現在では、そのようなことが行われていないことを願います。
ちなみに、47代横綱柏戸関はWikipediaによると、晩年は深刻な腎臓病で週3回、1回につき5時間の人工透析を受け続けたそうです。そして肝不全で58歳で亡くなっています。
59代横綱隆の里関はWikipediaによると、20歳ごろには糖尿病になり、入院直後の空腹時血糖値は400を超えていたそうです。晩年は現役時代の150㎏前後より体重が30kg以上も増えていたそうです。インスリンのなせる業ですね。2000年ごろから心臓疾患があり、睡眠時無呼吸症候群も併発、喘息に苦しんでおり、両脚に蜂窩織炎もあり、40度の高熱を出すこともあったそうです。まさに糖質過剰症候群のオンパレードです。そして、体調不良で緊急入院し、そのまま亡くなってしまったようです。59歳でした。
むすびのところで書いてあるように、1日2回の食事は糖尿病になりやすい、または太りやすい食事だと考えているように思えます。もちろん実際には違います。1日2回が悪いのではなく、食べるものが悪いだけです。
力士の1日のスケジュールは関取の場合次のようだそうです。(ここ参照)
起床時間
関取:7:00~ 7:30
稽古
関取:8:00~ 10:30
風呂・食事
関取:11:30~ 1:00
昼寝
自由時間
夕食
5時半~ 6時半ごろ
夕食後
自由時間
就寝
つまり朝稽古して、昼食そして夕食を摂りますが、食後は運動しません。運動により血糖値スパイクは多少少なくなるでしょうが、その利益を上回るほどの食事を摂るのでしょう。
他の論文では、昼食後2~3時間の血糖値を測定したものがあります。(その論文はここ)昼食の内容はよくわかりません。血糖値が140以上の現役力士(30歳代以下)、年寄(40~50代)はそれぞれ13.2%、66.6%でした。血糖値160以上は現役力士0.06%、年寄61%でした。61%!!年寄で血糖値140以上の人は全員糖尿病の治療を受けたことがあるか現在も受けているそうです。平成28年の男性での「糖尿病が強く疑われる者」(糖尿病有病者)、「糖尿病の可能性を否定できない者」(糖尿病予備軍)の割合はそれぞれ、16.3%と12.2%です。合わせても30%にもなりません。論文の年代は1963年ですから、現在よりもかなり糖尿病の重病率は低いので、通常の人と比較して、数倍以上の割合で力士は糖尿病になると推測できます。もちろん、昔は今と診断基準も違って、統計の取り方も異なると思いますので、単純な比較はできませんが、1970年代までの40歳以上の糖尿病有病率は2~6%程度とされていました。一方高い値としては1988年に久山町で40歳以上の男性で糖負荷試験を行った調査における13.1%という数字が報告されているそうです。
40代と50代で考えると、平成28年では40代男性の糖尿病が強く疑われる者3.8%、糖尿病の可能性を否定できない者4.7%、50代男性の糖尿病が強く疑われる者12.6%、糖尿病の可能性を否定できない者11.1%なのです。
現在の力士の有病率はわかりませんが、昔とそれほど大きな変化はないのではないでしょうか?
次回以降は力士の死亡についてです。
柏戸、隆の里、大錦の実例は「不健康まっしぐら」路線ですね!!!
「炭水化物大食いして、目標血糖値に下げるまで、即効性インスリン注射」は
1.肥満ホルモンインスリンで太るが
2.食後高血糖 + 血糖値乱下降 で血管ボロボロ & 内臓ボロボロ
これは無惨><
らこさん、コメントありがとうございます。
力士たちに糖尿病に対する知識があるかどうかが問題です。知ってしまったら力士になる人が激減するかもしれないですね。
相撲診療所の所長をしていた林盈六という方が長年にわたって、力士たち相撲関係者の健康状態を見てきました。大鵬・柏戸の時代から所長をしていたのではないでしょうか。この方の著書によると、医学のスタンスは、糖尿病学会のガイドラインから一歩もでていないようです。腹八分目、和食を中心として、動物の肉は控えめに、という食生活のススメですね
ところで、力士はなぜ肥満するのでしょうか。答えは簡単、相撲が強くなるためには太ることが一番手っ取り早いからです。あたりまえのようですが、力士は相撲が強いです。オリンピック級の柔道の猛者や一流のプロレスラーでも相撲では幕下力士にも勝てません。とりわけ肥満した力士の立ち合いのぶちかましの威力はすさまじいものがあります。
ですから、命を削ることがわかっていても、これからも太り続けていくと思います。相撲協会も耳を貸さないでしょう。悲しいことですが、これが現実ですね。
やまもとさん、コメントありがとうございます。
やはり階級制でしょうかね?