以前の記事「PPI(プロトンポンプ阻害薬)はピロリ菌根絶後の胃がんのリスクを高める」で書いたように、PPIの使用は胃がんと関連しているようです。
PPIはピロリ菌と相互作用があるようです。通常、ピロリ菌は胃の幽門洞(十二指腸に近いところ)にコロニーを形成し、ほとんどの感染者に幽門洞優位の胃炎を引き起こします。PPIを使用すると、胃炎のパターンは胃体部(胃の真ん中あたり)優位の胃炎に移行し、結果として胃の壁細胞機能が損なわれます。さらにピロリ菌感染している人にPPIを使うと、胃酸の分泌抑制が強まります。胃体部の萎縮は長期間PPIを使ってピロリ菌陰性の人と比較すると、PPIを使っているピロリ菌陽性の人の方が非常に起こりやすくなります(オッズ比11.45)。
PPIの胃酸抑制は、慢性炎症を悪化させる可能性のある胃の内腔および粘膜の両方のピロリ菌ではない細菌の異常増殖を引き起こす可能性があります。ピロリ菌ではない細菌の過剰増殖は、萎縮性胃炎の危険因子であることが示されています。幽門洞でのリスクはピロリ菌で10.1倍、ピロリ菌ではない細菌で5.07倍、胃の体部でのリスクはピロリ菌で11.74倍、ピロリ菌ではない細菌で6.38倍です。ピロリ菌とピロリ菌ではない細菌の同時感染は、より高いレベルの炎症に関わる血清サイトカイン(IL-1βおよびIL-8)を誘導し、萎縮性胃炎のリスクを高める相乗効果を持っています。同時感染は幽門洞でのリスクはなんと20.25倍、胃体部では20.38倍にもなるのです。
つまり、PPIなどで胃酸の分泌を抑えてしまうと、ピロリ菌に感染していなくても、別の細菌がはびこりやすくなり、ピロリ菌に感染していればさらに別の細菌との同時感染の危険性が高まります。そして、それは萎縮性胃炎を大幅に起こしやすくするのです。
PPIによる別の菌の感染が、「PPI(プロトンポンプ阻害薬)はピロリ菌根絶後の胃がんのリスクを高める」で書いたように、ピロリ菌を除菌しても胃がんのリスクを高めてしまう一つの要因なのではないかと考えられます。
日本の研究でもPPIの使用は胃がんのリスクを3.61倍高めているという結果でした。(その論文はここ)実際には胃の萎縮や腸上皮化生(胃の上皮の変性、胃がんの前がん病変と考えられている)が認められる人のリスクを増加させているようです。
他にもいくつもPPIが胃がんのリスクを増加させるという研究はあります。PPIによる胃がんリスクが白人よりもアジア人の間でより顕著だという結果も出ています。
さらに興味深いことに、若い人の胃がんに対するリスクを非常に大きく増加させるということです。PPIを使っていない人と比較した場合、40歳未満のPPI使用者で最も高いリスクが観察されました。その発生率はなんと22.76倍!70歳以上では2.76倍でした。もしかしたら、このことが近年の若い世代の胃がんの増加に結びついているのかもしれません。(それについてはいつか記事にします)
ピロリ菌陽性+糖質過剰摂取+PPI使用者は十分に注意が必要です。長期にPPI使用は避けるべきでしょう。糖質制限で早くPPIをやめるようにしましょう。
「Long-term use of proton-pump inhibitors and risk of gastric cancer: a review of the current evidence」
「プロトンポンプ阻害薬の長期使用と胃癌のリスク:現在のエビデンスのレビュー」(原文はここ)
糖質過剰症候群
必ず副作用を伴う服薬という行為の意味を、連日介護施設でお年寄りに(半ば無理矢理)
処方薬を飲ませている立場としては、考えてしまいます。(プロ意識=思考停止に徹するべきなのでしょうかね)
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
もちろん医療側も思考停止していますが、患者本人や家族も思考停止いている方もいます。
血圧が低くても毎日降圧薬を一生懸命飲んでいる高齢者もいっぱいいます。
一概に言えないのと、年齢では決められませんが、おおむね80歳以上は最高で3種類程度までの薬にすべきだと思います。