新型コロナウイルス感染者数を予測する数学的なモデルは役に立つの?

新型コロナウイルスはこれまでにないほどいろいろな問題を起こしています。人体はもちろん、社会や世界全体に様々な問題が起きています。

これまでも感染で嗅覚障害や味覚障害が起きることは決してまれなことではないと思いますが、通常は風邪症状を伴っています。しかし、この新型コロナは嗅覚障害や味覚障害だけが唯一の症状として起きることもあるようです。

さらに、ある記事では「焼けるような目の痛み」が症状として起きる可能性を指摘しています。(記事はここ)本当厄介なウイルスです。

未知のウイルスなので、何が起きるかはわかりません。

専門家もこれまでのウイルスで分かっていることをもとにして新型コロナウイルスについて意見を述べているので、正しいとも限りません。新型コロナウイルスの専門家は存在しないのです。

未来を確実に予期できる人はいませんが、新型コロナウイルスの感染状況の未来を予測しようとする専門家がいて、それをもとにそれぞれの国や自治体のお偉い方がどのように対策するかを考えています。

私自身は感染や公衆衛生の専門家ではありません。まして数理モデルと呼ばれる手法を用いて感染状況を推計する理論疫学の専門家でもありません。

日本では理論疫学の専門家のある教授が先頭にたって日本の状況を感染の予測していると思われます。そして、次のような図を示しています。(図はこの記事より)

この図を見たときに思わず、「ウソ!」と思ってしまいました。それは私が素人だからかもしれませんが、どの国の状況を見てもこのような直線的な感染者数の減少を示したことはないからです。この報告を受けて信じたのか、安倍首相は緊急事態宣言のときに8割接触を減らせば2週間で感染者が減少に転じる、という考えを示しました。確かに減少には転じる可能性はあると思いますが、その減少の仕方は非常に緩やかなはずです。

ヨーロッパでは多くの国でロックダウンを行っています。(図はこの記事より)

上の図は世界各国の行動制限、ロックダウンを行った表です。イタリアでは3月9日に封鎖を行ったはずです。つまり、もう1か月封鎖しています。

実際に封鎖された後の主要都市の移動量が激減しています。記事では、「移動アプリ「シティマッパー」によると、3月31日の時点でマドリード、パリ、ロンドン、ニューヨークでは、このアプリを使った市内の移動が従来の1割にも満たなかった。」と書かれています。実際の人間の移動がどこまで減ったかはわかりませんが、日本のようなゆる~い緊急事態宣言ではなく、都市封鎖なので、かなりの人の移動や接触が減ったはずです。

日本が目指す「人と人の接触を8割減」はこれくらいしないと達成できないのではないかと思います。しかし、それであってもイタリアはどうでしょうか?(図はここより)

上の図はイタリアの1日の新たな感染者数の推移です。ロックダウンした3月9日の新たな感染者数は1,797人でした。3月21日にピークを迎えます。12日後です。しかし、その後は一気に減少とはならず、少し減少してはまた増加し、また減っては、また増加するということを繰り返しています。1か月後の4月9日の感染者数は4,204人であり、まだまだ非常に多い状態です。スペインでも同様です。最初に示した日本の図はいかに机上の空論なのかがわかります。

人間が感染するかどうか、人間がどのような行動するのかなんて、数学で数式になんて当てはまるはずがないのです。

ロックダウンした国であっても封鎖から2週間後以降でも相当数の感染者がいます。つまり、人と人との接触をできる限り排除しても、生きていくための行動、そして家庭内、病院などだけで相当な感染拡大が起きているということです。1か月で封鎖を解除できた国はいまだ無いと思います。

日本全国で「3密」「3密」の大合唱ですが、3つの密を避けることは確かに感染リスクを下げる可能性はありますが、その他の感染、つまりモノをなどを通じての接触感染が非常に多く起きていると考えられます。

トランプ大統領は3月の終わりには、「アメリカの死者は10万人を超え、最大で24万人に達する可能性もあるとの見通し」を示していました。しかし、3月31日のアメリカの死者は4,000人程度でした。素人の私にはどう考えても10万人に達するようには見えませんでした。

そして、2020年4月10日のデータを見ても死者は16,697人です。全くの予測違いになりそうな状況です。どんなモデルで計算したのでしょうか?

2017/18のインフルエンザシーズンにインフルエンザによって命を落としたアメリカ国民は8万人と推定され、過去40年で最も死者数の多いシーズンとなったと言われています。(ここ参照)患者数が多い時期は4~5か月でしょう。そしてピークを2か月と考えて、そこで死者の7~8割が亡くなったと考えると、1か月で3万に程度インフルエンザで死亡したことになります。しかし、都市の封鎖などはなく、いつも通り平常運転だったはずです。インフルエンザの推定が間違っているのでしょうか?

新型コロナウイルスでアメリカの3月の死者数は2万人にも達していません。今の状況よりもインフルエンザで最も死者数が出たシーズンの方がひどかったはずです。(ただここ数日は毎日2,000人程度の死者数ですが)何が違うのでしょう?

恐らくアメリカでは、インフルエンザはいつもの感染症であり、インフルエンザでも通常病院に行きません。しかし、新型コロナウイルスは未知の感染症であり、感染したと思ったら怖くて病院にどんどん受診して病院が溢れてしまうのかもしれません。

こんなにインフルエンザで死亡しているのに、医療材料が足りないとか、人工呼吸器が足りないなどと話題になったことはありません。インフルエンザで死ぬことと新型コロナウイルスで死ぬことに違いがあるのでしょうか?

インフルエンザの死は通常の感染、風邪の悪化、肺炎による死と受け止められますが、新型コロナウイルスの死は戦って、勝たなければならない、救わなければならない、という思い込みが強い中での死なのかもしれません。日常では「高齢者の肺炎=死」は受け入れられているはずです。これまでそれぞれの国で自然に行われてきた医療の中のトリアージがうまく働いていない可能性があります。

数学的な理論を用いた何とかモデルといい、様々なデータといい、本当なの?と首をかしげたくなります。

現在日本は死者数が100人程度です。(とうとう1日10人を超えましたが)冬の期間では肺炎で毎年1か月に1万人程度が亡くなっています。何が正しいのか、終息後しっかりと検証しないと何も得られずに、ただ「今年は大変だったね?」で終わってしまいます。

どんな理論を用いても構いませんが、政府が示した数値に国民は振り回されます。数値を示したのならそれを実行できるように対策することが国の仕事です。経済的な支えをせずに自粛要請だけで8割接触減が可能かどうか、小学生でも想像できます。専門家会議の専門家はこんな方法で8割減が可能だと思っているのでしょうか?私ならバカバカしくて専門家会議を辞めます。(その前に私にお声がかかるはずがありませんが…)

とりあえず2020年の3月の自殺者数は1,701人で、2015年以降最低であることが救いかもしれません。(データはここ)数値に現れてきてないだけかもしれません。そして、これからなのかもしれません。経済的な死者が出ないように、今すぐに日本の政府に何とかしてほしいものです。

11 thoughts on “新型コロナウイルス感染者数を予測する数学的なモデルは役に立つの?

  1. Dr.Shimizuさん

    記事で仰りたいことの趣旨はよく理解できます。

    インフルエンザによる死亡数については、ご存じのように日本でも米国でも「超過死亡」という概念で捉えられているかと思います。
    それは確率モデルを使った推計値ですが、かなり曖昧な部分も含んでいるかと思います。

    つまり「超過死亡」は、インフルエンザが直接的な原因(近因)となった高齢者の肺炎による死亡だけではなく、 循環器疾患、 脳血管疾患、 腎疾患などを基礎疾患にもつ患者(それはもちろん相対的に高齢者に多いでしょう)においては、 インフルエンザの感染による原疾患の悪化(遠因)で死亡することも推定数値に含まれています。

    COVID-19による死亡は、現在のところ、その殆んどが重症化した肺炎による直接的な死亡としてカウントされているかと思います。COVID-29による死亡数とは異なる広い死亡原因を捉えたインフルエンザの「超過死亡」の両者を単純に比較することに、私は以前から多少の疑問を感じていましたが、この点についてどのようにお考えでしょうか。

    1. NANAさん、コメントありがとうございます。

      新型コロナの死者数とは本来は比較すべきではないと思います。インフルエンザによる死亡数については超過死亡だというのはよくわかっています。
      だからこそ実際のインフルエンザの死亡者数は怪しい。実態とそぐわないです。意図的な数値を作り上げている可能性があります。
      恐怖によるワクチン接種増加を狙っているのかもしれません。
      逆に今回の新型コロナウイルスのアメリカの実数は過少申告です。だから数字以上に大パニックになっているのでしょう。
      数字は様々な思惑で意図的に操作されている可能性が高いと思います。そのような意味で、データ、数値は非常に注意しなければなりませんね。

      1. > 数字は様々な思惑で意図的に操作されている可能性が高いと思います。

        仰るとおりだと思います。
        とりあえずワクチンや抗インフルエンザ薬が用意されているインフルエンザについては、それらの拡販戦略としてインフルエンザの流行や疾病負担が誇張され、ワクチンや有効な治療方法がなく経済的、社会的、人的負担が大きいCOVID-19のようなパンデミックについては、様々な思惑も重なってその流行や疾病負担が過小評価されているのだろうと思います。

  2. 専門家会議に参加している理論疫学の西浦教授が導き出した「8割減」という数字に対する曖昧さ感や適当感については、DrShimizuさんが指摘されていることに同意です。

    「8割」という具体的な数値を引き出すためには高度な複雑系である人間行動や社会行動を的確かつ複合的に分析し数量化する必要がありますが、そもそも新型コロナウイルス感染症の病理や病態、感染の仕方などは不明なところが多い段階なのに、現在得られている知見だけで具体的な数値予測をはじき出すことは、どう考えても困難な作業だと思います。
    加えて、BuzzFeedのインタビューに答えている西浦教授の個々の回答がおしなべて断定口調になっていることもそれに輪をかけています。

    https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-nishiura?utm_source=dynamic&utm_campaign=bfsharetwitter

    https://twitter.com/nana7770214/status/1248909215600541696?s=20

    1. NANAさん、コメントありがとうございます。

      計算なんて、所詮計算なのに、仰るように本当に断定的な表現をされていますね。
      人間の行動を数式で表せると思い込んでいないとできない分野ですね。
      矛盾のある行動を平気でするのが人間だと思いますが。少なくとも私は・・・

  3. 「COVID-19による死亡は、現在のところ、その殆んどが重症化した肺炎による直接的な死亡としてカウントされているかと思います。」とのご意見ご尤もですがやはり、
    重症化したコロナウィルス肺炎で亡くなる方々の殆どは、御高齢かつ基礎疾患保有者の割合が多い可能性も大きいと感じます。

    清水先生の今回の記事のように、コロナウィルス問題の本質はもしかしたら疾患それ自体の脅威よりは医療への過剰なアクセスの問題が大きいのかもしれません。

    安倍首相もそういうことを踏まえていまいち緊張感に欠けた対応にとどまっているのではと考えるのは穿ち過ぎでしょうか?

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      安倍首相はそこまで考えることができるでしょうか?マスクに400億円以上をかける首相です。
      私には政府が何をしたいのか全く分かりません。

  4. 震災の時もそうだったけど、政府はほとんどあてにならんし期待もしていません。
    起こっている状況に自分のできる範囲でただ適応していくのみです。
    感染しないように、そして自分がキャリアだと仮想して人に感染させないように注意するだけです。その両方が出来んことには今後も波を打ちながらだらだらと感染は拡大していくでしょうね。そこらへんが普通のインフルエンザと新型コロナの違いでしょうか。
    8割減なんて言うより、誰にも分かるように自衛隊並みのもっと詳細で具体的な行動指針を示して欲しいものです。
    感染しても無症状の人がいることや潜伏期間や治癒までの期間が長く、ひとたび流行すると急激に重症者が増えて医療機関を麻痺させてしまう爆発力には、死亡率や死亡者数だけでは語れない怖さがあるのではないでしょうか?
    武漢やイタリア、そしてニューヨークの惨状を見ているとそう感じずにはいられません。経済を優先させて何も対策を打たなくても通常のインフル並みで収まるとは考えにくいです。

    1. まーさん、コメントありがとうございます。

      何も対策を打たなくても通常のインフル並みで収まるとは思えません。しかし、このウイルスは感染拡大がどうしても収まりません。
      経済を優先させろとは今の時点では言えませんが、補償はちゃんとしないと国民は生きていけません。
      経済に対する対策は中途半端、行動制限も中途半端、何をやるのか、何をやらないのか、何がしたいのか全く理解できません。

  5. Dr.Shimizu先生

    新型コロナウイルスの感染動向に関する興味深い「数値分析」が記事で紹介されています。中野貴志・大阪大学教授(核物理研究センター)と池田陽一・九州大学准教授(理学研究院物理学部門)が投稿中の論文を解説した、 安田洋祐氏(経済学者・大阪大学准教授)の記事です。

    https://note.com/yagena/n/n22215ecd9175
    https://note.com/yagena/n/nec5546ce7199
    https://note.com/yagena/n/n52b77242e633

    新たな指標「K値」は感染の推移を予測するのに有用そうです。ご参考まで。
    この記事は「新しい創傷治療」サイトで紹介されていました。

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