新型コロナウイルスと血栓症 その2 人種は重症化の差を説明する?

新型コロナウイルス感染での死亡率はどう見ても国、人種による差があります。東アジア(日本、中国、韓国、台湾、モンゴルなど)と東南アジア(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムなど)、南アジア(アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、インド、モルディブ、ネパール、パキスタン、スリランカ)の100万人当たりの死者数の上位国は次のようです。

 

ヨーロッパではどうでしょうか?(小さな国は省略しています)

 

北米の主な国は?

 

アジアと欧米では死亡率に関して桁が2桁違っています。比較的死者数の少ないドイツでさえ、韓国の10倍以上です。これは明らかに人種差による違いが考えられます。

先日、41歳の俳優の方が新型コロナウイルスに感染し、右脚に血栓が詰まり、脚を切断するという報道がありました。(記事はここ

どうやら、今回のウイルスは、大きく分けて2つの影響があるようです。

・免疫低下を起こす

・血栓を作る

以前の記事「新型コロナウイルスと血栓症 その1」で書いたように今回のウイルスは血栓を作りやすいようです。血栓は肺の障害についても今回のウイルス感染の影響を説明します。

ある研究では新型コロナウイルスは「典型的な急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こさない」と言っています。(ここ参照)イタリアの報告にある新型コロナウイルスの肺ではARDSと異なり、肺のコンプライアンス、つまり肺の膨らみやすさが保たれているというのです。通常のARDSでは肺のコンプライアンスは低下します。膨らみやすさが保たれた肺で発生する重度の低酸素血症の考えられる説明は、肺の血流の低下と低酸素性血管収縮です。

他の報告でも、重症の新型コロナに血液を固まりにくくするヘパリンという薬を使うと死亡率の低下が認められました。(ここ参照)

先日発表された症例報告(プレプリント)では、ヘパリンを使うと低酸素血症が改善するという報告をしています。(図は原文より)

上の図の左(A)は全ての患者、右(B)はより重症な患者です。それぞれの横軸は左からヘパリン使用前、48時間後、72時間後です。詳しい説明は省略しますが、縦軸はPaO2 / FiO2比(P/F比)で肺の酸素化を表しています。P/F比は高いほど良く、200以下をARDS、300以下をALI(急性肺障害)区別している定義や、200~300を軽症のARDS、100~200を中等症、100以下を重症とする定義もあります。P/F比を300以上にすることが一つの目標になります。そうすると、図のAではP/F比が250程度だったのが、72時間後に300以上に改善しています。図のBでも200以下だったのが72時間後には250以上に改善しています。

今時折話題に上るECMO(人工肺)を使用するときにも血液を固まりにくくする薬を使用します。もしかしたら、この薬が奏功している可能性もあります。

さらに、ある記事でも血栓が新型コロナウイルスでの死亡に大きく関係しているのではないかと書いています。(その記事はここ)この記事の中で、「腎不全のために透析を必要とする新型コロナウイルス患者では、透析のカテーテルはすぐに凝固する」と書かれています。

またある報告では、新型コロナ感染症のICU患者における血栓性合併症の発生率は31%と非常に高いと報告しています。そしてその大部分(81%)は肺塞栓でした。(ここ参照)肺塞栓は突然死もあり得ます。急激に悪化するケースは急激に血栓が増加しているのかもしれません。

アメリカでは現在、黒人の死者が突出しているそうです。ある記事では「人口10万人ごとの関連死者数がニューヨーク州やニュージャージー州よりも多いルイジアナ州では、黒人人口が30%ほどなのに、コロナ関連死者は全体の70%となっている。イリノイ州では黒人人口は15%なのに死者の42.9%が黒人。ミシガン州でも黒人人口は14%、死者の40%が黒人というデータが明らかになっている。」と書かれていて、その理由の一つとして、「アフリカ系アメリカ人は、これらの持病を持っている人や肥満の人が多いとされている。」としています。アメリカでもっとも貧困率の高いのは黒人と言われています。(この記事参照)

私は貧困率だけでなく、人種による血栓症のできやすさに関連があるのではと思います。

では、人種とこの血栓の関係はどの程度あるのでしょか?(図は原文より)

上の図は深部静脈血栓症(DVT)と肺塞栓症(PE)からなる静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクとその要因を示しています。左からアフリカ人、ヨーロッパ人、ヒスパニック人、アジア人です。アフリカ人(黒人)は突出して静脈血栓塞栓症が起きやすいのです。肥満が多いだけでなく、遺伝的要素もいろいろとあるのです。白人も第V因子ライデンという変異を持っていて、血栓と関連していて、ヨーロッパの最大10%とも言われています。アジア人は皆無です。

つまり、もともとアジア人は血栓症ができにくい人種であり、白人や黒人と大きな差があるのです。そして、血液の凝固に影響を与える肥満、高インスリン血症はアジアでは少なく、欧米では非常に多いのです。

今回の新型コロナウイルスでは、たまたまアジア人に有利に働く要素が多く、このような国による大きな差ができているのではないかと思います。欧米の感染爆発国ではBCG接種をしておらず、アジアではほとんどがBCG接種をしています。この新型のウイルスが免疫低下作用を示していても、アジア人は免疫がBCGでブーストされていて、その免疫低下作用に打ち勝つ可能性が高いのかもしれません。また重症化、致死に関連する血栓症に関しても、もともとの素因で人種差が大きく、アジア人では血栓ができにくく、欧米人、特に黒人では血栓ができやすく致死率が高くなっているではないでしょうか?

我々アジア人は、それに加えて糖質制限をすれば、免疫力を保ち、血栓もさらにできにくい状態を保てると思います。

 

 

「Heparin therapy improving hypoxia in COVID-19 patients – a case series」

「COVID-19患者の低酸素を改善するヘパリン療法-ケースシリーズ」(原文はここ

「Racial differences in venous thromboembolism」

「静脈血栓塞栓症の人種差」(原文はここ

6 thoughts on “新型コロナウイルスと血栓症 その2 人種は重症化の差を説明する?

  1. アメリカにおける黒人と白人の重症化率の違いは遺伝子の違いである可能性が高いですが、アジア人と欧米人の違いは遺伝子だけでなく、食習慣の違いも影響してくるのではないでしょうか?

    1. 通りすがりさん、コメントありがとうございます。

      当然、肥満、高インスリン血症は欧米人の方が多く、そのことは記事の中でも「その1」でも触れているつもりですが。
      その他の食習慣の何が影響するのか、何か情報はお持ちでしょうか?

      1. 肥満と被ると思いますが、致死率の高い国イタリア、フランス、アメリカなどはチーズやバターなど乳製品の摂取量が多い国であるように感じています。定量的なデータを探しきれていませんが、フランスはバターの一人当たりの摂取量が日本の10倍だったかと…なので、高脂血症の人が多く、血栓が生じた場合に詰まりやすいというのはありそうな話しかなと思いました。

        1. 通りすがりさん

          脂肪=悪玉 説でしょうか?中性脂肪が高いことは問題ですが、コレステロールは関係ないと思います。
          乳製品、バターの摂取量が多くてもそれのみでは肥満にはなりません。糖質過剰摂取で高インスリン血症で肥満になります。

    1. まーさん、コメントありがとうございます。

      鎌状赤血球症では白人とアジア人の差が説明できません。

Dr.Shimizu へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です