未来を予測することは楽しい?

小学生だった清水少年は占いが大好きでした。星占いから、血液型占い、手相占い、トランプ占い、はたまた占いと呼べるかどうかわからないあみだくじのようなもの。大好きな女の子との恋の行方、将来の職業、いくつまで生きるか、結婚運、金銭運などなど。非常に未来を予測することにワクワクしていました。図鑑などの本を読んだ時も、「未来は宇宙に旅行できるんだ」とか「未来は車が空を飛ぶんだ」とか色々夢が膨らんでいました。

未来の「予知」はタイムマシンがないとできません。未来は誰にもわかりません。わからないことを知りたくなるのは当然かもしれません。占いはほろ苦い結果になることはあっても、絶望することはありませんでした。どちらかというとそれなりに良い結果の方が多かったのです。

しかし、大人が行う未来の「予測」は、悲観的なものが非常に目立ちますし、話題にもなります。ノストラダムスの大予言などは、1999年に人類が滅びると言っていました。小さなころからこの予言を聞かされていた私は1999年に何が起きるのだろうとちょっとだけ思っていました。しかし、何もなく2020年まで来ました。話題になりましたが予言は大外しでした。南海トラフ地震についても同様です。いつまでたっても地震は起こらず、別の地域にばかり大きな地震が起きています。(「北海道に巨大地震の可能性? 占いレベルでしょ!」など参照)

そして今年、誰も予測しなかった(誰かは予測していたかもしれませんが)新型コロナウイルスが世界中に拡大しました。

ある先生が日本での42万人死亡仮説を数理モデルから導き、発表し、大きく予測を外しました。

専門的な知識というのは細かく、深くなればなるほど、一般の人にはわかりません。そして、複雑系になればなるほど予測は非常に難しいものになるでしょう。もともとのモデルが違えば結果は違いますし、偶発的なことや、想定外のことも非常に多くなり、ちょっとしたパラメーターの違いが結果を大きく変えるでしょう。

現実に起きることをできる限り予測するために様々なアルゴリズムを考え、様々なパラメーターを用いて、コンピュータで分析してシミュレーションするのでしょうが、もともとのアルゴリズムの精度やパラメータのちょっとした違いがあれば、現実はシミュレーションできません。このような現実にそぐわないものはただの「おもちゃ」でしかありません。

専門家の間では非常に面白い「おもちゃ」であっても、他の人にとっては「がらくた」でしょう。しかし、そのおもちゃに夢中になった専門家はそれが現実の世界と見分けがつかなくなるのかもしれません。「予知」できてしまうと思うのかもしれません。その楽しさを他の人にも教えたくなって、発表すると、そこに国の政策が絡み合ったり、企業の利権が絡みあったりしてお金が出てくることもあります。そうするとその「おもちゃ」をもっと楽しくできるようになります。どんどんそれが膨らんでさらに現実との境目がわからなくなるのでしょう。また実際には予測できないことも、まるで「予知」できるかのようにみせるために何らかの操作が行われる可能性もあります。

専門家同士の楽しい「おもちゃ」は、専門家同士で遊べば良いのですが、それを政策に持ち込むには非常にリスクがあります。未来は予知できませんから。予測は大きく外れる可能性がありますから。非常に慎重になるべきでしょう。下手をすると「おもちゃ」が「凶器」になるかもしれません。

それは地球温暖化についても言えるでしょう。地球が誕生して何十憶年も経ち、霊長類が誕生しても何千万年も経っています。ここ100年前後の地球温暖化のモデルは、本当にこれまでの地球が歩んできた気温変化などを説明できるのでしょうか?地球という規模、さらに宇宙からの影響などを考えるとものすごい数のパラメーターになると考えられます。そのいくつかがちょっと違えば、結果は大きく異なると思われます。計算はコンピュータが行ったとしても、どのパラメーターをどの程度、どのように数式に加えるかは人間です。ここ100年前後の気温変動にフィットするように考えられたモデルのシミュレーションは、それ以前のほとんどの時代にはフィットしないでしょう。そして未来にも。つまり、仮想地球という「おもちゃ」で最近の地球温暖化を示しても、それが未来の地球を予知できるわけではありません。

現在の地球温暖化モデルで、9000万年前に南極大陸が熱帯雨林だったことを説明できるのでしょうか?私はもちろん専門家ではないので地球環境のおもちゃを触ったこともありません。気候の変動というのは非常に複雑系で線形ではありません。そんなものを本当に予測できるのでしょうか?

ある報告(ここ参照)によれば、地球気候モデル (GCM:Global Climate Model)は補正、つまり恣意的な調整や「チューニング」が必要で、モデルの絶え間ない恣意的な調整は、根底にあるモデル構造の⽋陥がごまかされてしまいます。20世紀のデータを使って補正すれば、モデルの出す結果がその同じデータと⼀致するのは当たり前なのです。そんなモデルが未来の気候変動を正確に予測できるかどうかは非常に怪しいでしょう。この報告に中に次のようなことが書かれています。

統計学者ジョージ・ボックスの有名な⾔葉がある。「あらゆるモデルはまちがっているが、
中には役に⽴つものもある」

その程度なんだと思います。非常に精度の高い「おもちゃ」のほんの一部がリアルワールドで役に立つのでしょう。

ネイチャーの論文によると、次のようなことが書かれているそうです。(ここ参照)

・「チューニング」という慣行が気候モデル業界に存在する。
・モデル研究者はチューニングをできるだけ少数のパラメーターの調節に制限しようと努力するが、思うように減らすことはまず出来ない。
・チューニングは科学でもあるが、職人技(art)でもある。「それは、音の悪い楽器を調整するようなものだ」とMPIMのBjorn Stevensが述べている。
・GFDLのIsaac Heldは、「すべてのモデルがチューニングされている」と述べている。研究者が認めるか否かにかかわらず、ほぼすべてのモデルは20世紀の温暖化を再現するようにチューニングされている。さもなければ、計算結果はゴミ箱行きになった。

今回の新型コロナの42万人死亡予測は現在の状態にもフィットしていないので、全くの大外しになってしまいましたが、新型コロナウイルスの死者数の未来予測も、将来の地震発生の予測も、地球温暖化による未来の地球に対する予測も根底はすべて同じだと思います。医学の病気のリスク評価も注意が必要かもしれません。

一般的な人が理解しにくいことほど、専門家の意見を聞く傾向にありますが、専門家は自分の「おもちゃ」を使って答えを出しているかもしれません。しかし、一般の人にはどんな「おもちゃ」を使っているかさえよくわからないのです。現実を見て、いろいろな情報を参考にしつつ、自分で判断するしかありません。

未来を予測できないかと多くの人が思っているかもしれません。そこにつけ込むのは占い師だけではありません。特にお金が絡むような未来予測には注意が必要でしょうね。

みなさんは未来をあらかじめ知りたいですか?未来がわかってしまったら明日が楽しみではなくなるかもしれません。嫌なことは先に分かった方が良いか?…それも嫌だな。明日は明日です。

明日の「おうし座」は何位かな?楽しい未来が待っていると良いな。

 

「Temperate rainforests near the South Pole during peak Cretaceous warmth」

「白亜紀のピーク時の南極近くの熱帯雨林」(原文はここ

「Climate scientists open up their black boxes to scrutiny」

「気候学者たちは精査するためにブラックボックスを開く」(原文はここ

8 thoughts on “未来を予測することは楽しい?

  1. 大賛成です。マスコミ・学者も大きな問題だと思います。
    地球温暖化するシュミレーションは、恐怖を煽るものしか伝えていない。
    私は、逆に寒冷化する方向にあると考えていますし、食料のことを考えると、温暖化した方がよい。しかし、寒冷化する方向で考えると、食料対策が必要と考えます。ポリ袋の有料化なんてやっている場合ではないと考えています。
     また、コロナの治療創薬で、スパコンのシュミレーションが期待されていますが、そんな薬はできないと思うし、使いたくもありません。
     スパコンとかシュミレーションするとなんでも問題解決できると、みんなが思っている?マスコミが煽って、みんな信用しているのが、私は怖い。

    1. ジンさん、コメントありがとうございます。

      恐らくは現在の気温変化と相関しているのは二酸化炭素だけでなく、太陽の影響や宇宙線なども相関するのではないでしょうか?よくわかりませんが。
      確かにコンピュータのシミュレーションが正しいと思わせる情報が多すぎるかもしれませんね。

  2. >みなさんは未来をあらかじめ知りたいですか?

    私の実家は、海岸線からほんの200m程度のところにあります。
    南海トラフ地震が発生すれば、津波が数分で到達すると言われています。
    その様な状況で、毎年、元々田舎で安い地価はさらにさがり、それでも売れ残る不動産もあります。

    高さ15mほどの津波避難タワーなるものが、被害が予想される区域の海岸線に建設されていますが、私の実家からは数分で津波が来る海岸方向に向かって避難することになり、精神的にどうかと思います。高さも十分かどうかわかりません。実家から一番近い避難場所は50mほどのところに30m弱の小山がありますが、地質的にもろく、地震で崩れることが予想されています。海岸線から反対に500mほどのところには高速道路の高架橋があり、ここに避難できれば津波からは逃れられそうですが、少し遠いです。
    どこに避難するか、一長一短あり、究極の選択です。津波が数分で到達すると言われており、迷っている暇はありません。

    あまり未来を知りたいとは思いません(特に死期)が、これだけは知りたいと思います。
    いつ来るかも、規模もはっきりしないものに本気で対策するのは負担が大きすぎます。がんばっても津波でリセットされると思うと前向きに活動する気になりません。

    1. 西村 典彦さん、コメントありがとうございます。

      どんなに頑張ってもいつどこにどの規模の地震が来るかなんてわからないと思います。
      新型コロナウイルスと同様に不安ばかり煽るのは問題でしょう。

  3.  予言は宗教だと、50数年の人生の実感です。
    (1,999年ノストラダムスの大予言空振り経験もあり)
     客観的データによる「予測」(例えば「明日の天気予報」)は有用性があるでしょうが、そこに少しでも個人の「期待」や「思い込み」が混じるともう、科学とは無縁な、
    「信じるものは救われる?」領域になってしまう、自分は振り回されないように気をつけよう、と感じています。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      天気予報程度ではお金が絡まないでしょうが、地球温暖化には膨大で様々なお金が絡むでしょう。
      複雑すぎて一般の人にはわからないことをいいことに、不安によって煽り、考えることをフリーズさせているように思えます。
      新型コロナウイルスと同じ図式だと思っています。

  4. 清水先生、こんばんは。
    未来を予測する場合、どんなモデルであっても、これまでや現在の状況から、何らかの仮定や条件を設定する必要があるのだと思います。しかしながら、まだわかっていない要素があると思います。例えば、ある事象と別の事象が相関があるように見えても、実はまったく関係がない、別のまだ知られていない要素、すなわち交絡因子が存在していることもあると思います。医学の世界では、交絡の影響をなくすために無作為化して比較するのだということを読んだことがあります。
    未来を知りたい気持ちはありますが、予測できないことがあることで世界が面白く感じることがあるのも確かです。でも、災害の予測は正確にできるようになればと思います。

    1. じょんさん、コメントありがとうございます。

      どんなモデルも、計算はコンピュータがしたとしても、モデルを決めるのは人間ですし、
      様々な条件を決めるのも人間です。その結果を正しいと判断する根拠は実際には非常に危うい場合が多いと思います。
      ちょっとした違いが大きな違いを生むことも多いと思います。
      だから、いわゆる専門家のシミュレーションを鵜呑みにすることは非常に危険だと思います。

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