人工甘味料は女性と肥満の人の食欲を増大させてしまうかもしれない

甘いものは食べたいけれど、糖質は太る、でも食べたい。人工甘味料は糖質を減らして甘い糖質たっぷりのものへの欲求を減らしてくれるものだと考えられています。糖質制限では利用している人も多いかもしれません。

今回の研究では平均年齢23.4歳の74人の成人(女性43人(58%)、BMI範囲19.18-40.27)を対象に行われました。12時間の絶食後、ショ糖(75g)、スクラロース(人工甘味料)、または水を含む飲料300mlを飲みました。その後食べ物と食べ物以外の画像を見て、脳の反応を測定します。また125分後には自由なビュッフェスタイルの食事をします。(図は原文より)

 

内側前頭前野(MFC)、眼窩前頭皮質(OFC)は食欲をつかさどる脳の領域です。図のCとDはBMIによる食べ物以外とおいしそうな食べ物に対しての脳の反応の違い、E~Hは男女の差で、Eは低カロリー食品と高カロリー食品に対しての違い、Fは食べ物以外と食べ物に対しての違い、GとHは食べ物以外と甘いものに対しての違いを示しています。

そうするろ、特に女性と肥満の人が人工甘味料入り飲料を飲むと、ショ糖入り飲料を飲んだ場合に比べてMFCまたはOFCの領域の働きが活発になりました。一方、男性や健康的な体重の人は、どの飲料を飲んでも脳の活動に有意な変化は認められませんでした。

上の図は血糖値や様々なホルモンのそれぞれの飲料による違いです。左から人工甘味料、ショ糖、水です。PYYとレプチンは飲料による有意な違いはありませんでした。血糖値やインスリン、GLP-1はショ糖では大きく増加しましたが、人工甘味料では水と同様でした。しかし、アシルグレリン (活性化グレリン:食欲を増進させる働きを持つホルモン)はショ糖では抑制されましたが、人工甘味料では抑制は認められませんでした。

さらに、ビュッフェスタイルで食事をしてもらった結果、男性の参加者は飲んだ飲料の種類と食べた量の間に関係がありませんでしたが、女性では人工甘味料入り飲料を飲んだ場合、ショ糖入り飲料を飲んだ場合より食べた量(摂取エネルギー)が多くなりました。ここで何を食べるかが重要でしょう。この摂取エネルギーの増加が糖質によるものであれば人工甘味料分は相殺されてしまいます。

つまり、通常のショ糖、糖質と比較して人工甘味料は甘みを感じているにも関わらず、満腹感を感じず、空腹を紛らわすどころか食欲を増進させ、結局は食べる量が増加してしまう可能性があります。しかもそれは女性や肥満の人で顕著である可能性があります。

人工甘味料は通常の食べ物と違い、実際の体の生理学的な変化とは違う反応を起こしてしまうかもしれません。甘いのにエネルギーにならないものは人類は摂取してきたことがないからです。そのような代謝の混乱が何らかの問題を起こしても不思議ではありません。

糖質だけでなく、甘いもの全般に対する制限が必要かもしれません。多くの肥満の人が糖質たっぷりの飲料の代わりにダイエット飲料を飲んでも痩せないのは、このようなことが起きているからかもしれません。人口甘味料を使用しているのに痩せないのは、どこかで糖質をその分摂っていると思います。

糖質の代わりに人工甘味料を摂っていれば、甘いものに対する欲求はずっと続いたままです。甘いもの自体をやめるように心掛けた方が良いかもしれません。

 

「Obesity and Sex-Related Associations With Differential Effects of Sucralose vs Sucrose on Appetite and Reward Processing: A Randomized Crossover Trial」

「食欲および報酬処理に対するスクラロース対スクロースの異なる効果を伴う肥満および性差の関連:無作為化クロスオーバー試験」(原文はここ

4 thoughts on “人工甘味料は女性と肥満の人の食欲を増大させてしまうかもしれない

  1. 清水先生、はじめまして。
    科学的なエビデンスに基づく痛快な分析をいつも楽しく拝読させて頂いております。
    新刊ももうすぐ読めると楽しみにしております。

    人工甘味料の人体への影響について、先生のお考えをお聞かせいただければありがたいです。
    私はスーパー糖質制限を8ヶ月続けています。
    砂糖の代替品はエリスリトールとステビアを使用しており、日常的に口にする人工甘味料はアセスルファムKくらいです。
    先日、スクラロース入りの豆乳を摂取してみたところ、翌朝、便の量が少なくなりました(下の話で申し訳ありません)。普段、イヌリンを10〜20g/日摂取しており、さらに10g増やしてみたのですが、それでも便の量はだんだん減っていきます。数日、その状態が続いた後には空腹時に胃痛がでるようになりました。糖質過剰摂取していたころはしょっちゅう胃痛になっていたので、まるで糖質制限をする前の状態に戻ってしまったような感覚になりました。
    しかし、スクラロース入りの豆乳を止めたら、翌朝には普通の便に戻りました。
    その経験からスクラロースは胃腸の粘膜を薄くするのではないか?と疑問を持っております。

    質問①です。
    スクラロースは腸の粘膜透過性を高くするものでしょうか?

    質問②です。
    人工甘味料でもアセスルファムKは体には影響を感じません。個人差かもしれませんが、人工甘味料の種類による人体への影響の違いについて、なにか知見をお持ちでないでしょうか?

    先生のお考えをお聞かせ頂けたら幸いです。
    何卒よろしくお願いいたします。

    1. ムッチンムシニフィラさん、コメントありがとうございます。

      貴重な経験談ありがとうございます。詳しいことは私にはわかりません。
      質問1ですが、腸内細菌叢が腸の透過性にかかわっていることを考えると、人工甘味料等で変化が起きても不思議ではありません。
      質問2ですが、スクラロースはショ糖のヒドロキシ基の3つを塩素で置換することによってできるものなので、非常に構造式はショ糖と似ています。
      その他の人工甘味料、アセスルファムKなどはショ糖とは全く構造式が違います。それが影響しているかもしれません。
      私にできる答えはこれくらいです。

      1. 清水先生

        早速のご返信ありがとうございます。
        構造式がショ糖に近い方が人体への影響が小さいとは言えないんですね。
        作用機序がよくわからない状態ではありますが、自分の体にとって良くないものを検知できるようになったのは糖質制限のおかげだと思います。
        ご回答ありがとうございました。

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