妊娠中、特に妊娠後期の母親の貧血は、出生後の乳児の成長に影響を及ぼし、低出生体重および早産のリスクの増加と関連しています。このことは妊娠中の適切な鉄の状態の重要性を示しているとも考えられます。一方、非貧血で妊婦への定期的な鉄サプリは、高ヘモグロビン(Hb)を発症するリスクを高めてしまう可能性があります。
高Hbはどのような危険性があるのでしょうか?
1,911人の妊婦さんを分析した研究を見てみましょう。Hb値は、11g/dL未満、11〜11.9g/dL、12〜13g/dL、>13g/dLの4つのグループに分類されました。
妊娠中のHb値と、早産、低出生体重児、在胎不当過小児とのリスクとの関連を調べました。(表は原文より改変)
Hb(g/dL) | ||||
---|---|---|---|---|
<11 | 11〜11.9 | 12〜13 | > 13 | |
早産 | ||||
モデル2 | 1.05(0.62、1.77) | 1 | 0.95(0.59、1.54) | 1.25(0.61、2.58) |
低出生体重児 | ||||
モデル2 | 1.29(0.65、2.57) | 1 | 1.39(0.75、2.59) | 2.54(1.12、5.76) |
在胎不当過小児 | ||||
モデル2 | 1.37(0.78、2.39) | 1 | 1.08(0.63、3.40) | 1.45(0.62、3.40) |
Hbが11~11.9の場合と比較して、13以上だと低出生体重児の可能性が2.54倍ですね。
Hb(g/dL) | ||||
---|---|---|---|---|
<11 | 11〜11.9 | 12〜13 | > 13 | |
早産 | ||||
モデル2 | 1.51(0.91、2.51) | 1 | 0.79(0.47、1.34) | 1.64(0.89、3.01) |
低出生体重児 | ||||
モデル2 | 1.40(0.72、2.72) | 1 | 0.82(0.42、1.60) | 2.20(1.07、4.51) |
在胎不当過小児 | ||||
モデル2 | 1.11(0.60、2.03) | 1 | 0.94(0.53、1.65) | 2.00(1.05、3.80) |
妊娠後期では、11~11.9の場合と比較して、13以上だと低出生体重児の可能性が2.20倍、在胎不当過小児の可能性が2.00になっていました。
別の研究も見てみましょう。(この論文参照。図もこれより)妊娠20週で貧血ではない(Hbが11.5以上)健康な妊婦さんに毎日、または週に1回サプリを飲んでもらいました。サプリは鉄60mg、葉酸200μg、ビタミンB12 1μgで、毎日の群は毎日1タブレット、週1の群は週に2タブレットです。参加者は116人で平均年齢は24歳程度ですが、お国柄(メキシコ)なのか、参加者の年齢の幅は12歳から35歳です。16歳未満が17%もいます。
上の図は妊娠週数とHb値の範囲による割合です。毎日鉄サプリ群ではHb値が13.6以上の高い人の割合がかなり増加していきます。週1サプリ群では14.5以上の割合はあまり変化なく、13.6~14.5の割合は徐々に減少していっています。
上の図はフェリチンの平均値と低フェリチン血症(10μg/L未満)と高フェリチン血症(30μg/Lを超える)を示す割合です。毎日サプリ群ではフェリチン値は10前後といったところでしょうか?週1群では妊娠週数に伴い減少しているようです。低フェリチンを示す割合も週1群で徐々に増加しています。
毎日鉄サプリを飲んだからといって、全てでフェリチンが増えるようではないですね。Hbは増加する人の割合は多いのに、フェリチンは増えていません。レスポンダーがいるのでしょうか?
116人の女性のいずれも、どの評価時点でもHb値が10.3未満ではありませんでした。
低出生体重および早産の頻度は、グループ間で有意差はなく、妊娠中のどの時点でも貧血またはフェリチンレベルとは関連していませんでした。 しかし、妊娠28週でHb14.5以上の母親の方がHbが低い母親と比較して、低出生体重の相対リスクは6.23倍高く、早産は7.78倍高くなりました。
妊娠に伴い血液の量は40%、1500ml程度も増加します。それにより血液は希釈され、Hbは低下するのが通常です。
妊娠中の高Hbは、血液が十分に増加しなかったか、血液の増加分に見合う以上の赤血球が作られたかのどちらかでしょう。高Hbは母体の血液粘度を上昇させる可能性があります。血液粘度の上昇は、胎盤の血流に悪影響を及ぼし、母体と胎児の様々な物質の交換が不十分になります。栄養素の移動が減少すれば、胎児の成長障害を直接引き起こす可能性があります。
糖尿病でも血液粘度が高くなり、様々な悪影響をもたらすと考えられます。妊娠中の貧血、鉄欠乏は問題がありますが、逆に多すぎるのも問題です。妊娠の前から普段から貧血、鉄欠乏にならないような食事をすることが重要でしょう。ただ、妊娠前にどこまでフェリチンを上げたらいいのかは未知数です。恐らくは100を目指さない方が良いでしょう。妊娠して慌てて鉄サプリを飲むことは量にもよると思いますが、慎重になった方が良いかもしれません。妊娠中に貧血もないのに、予防的に盲目的に鉄サプリを飲むのも慎重になった方が良いでしょう。
妊娠中の鉄サプリ、高Hbの影響は他にもあります。それについては次回以降で。
「High hemoglobin level is a risk factor for maternal and fetal outcomes of pregnancy in Chinese women: A retrospective cohort study」
「高いヘモグロビン値は、中国人女性の妊娠の母体および胎児の転帰の危険因子である:後ろ向きコホート研究」(原文はここ)