難治性精神疾患のためのケトン食の驚くべき効果

恐らく世界で億単位の人がうつ病など精神疾患になっています。様々な治療薬がありながら、治療抵抗性の人も珍しくないでしょう。

今回の研究では、従来の精神科医療に十分に反応せず、ケトン食を試す意欲のある大うつ病性障害(うつ病)、双極性障害、統合失調症の成人患者31人にケトン食療法を行いました。22人は監視された設定でケトン食を開始するために自発的に入院しました。残りの9人は当初、従来の治療のために入院しましたが、食事以外の介入が効果的でないことが判明したため、後にケトン食に同意しました。最終的には28人です。双極性障害12人、統合失調症10人、うつ病6人でした。患者は週6日入院しましたが、週末は最大36時間連続して自由に退院できました。28人の平均年齢50歳(範囲27〜73歳)、71%女性。平均入院期間は85.4日(範囲16〜270日)、ケトン食の平均期間は59.1日(範囲15〜248日)でした。

食事の介入は、炭水化物の摂取量は、野菜、ナッツ、レモンジュース、および少量のダークチョコレートのみから、1日あたり最大20g(1日のエネルギーの約5%)に制限されていました。タンパク質は1日のエネルギーの15〜20%を占め、肉、シーフード、鶏肉、乳製品、卵、ナッツから供給されていました。脂質は食事の75〜80%を占めていました。許可された追加の脂質は、オリーブオイル、ココナッツオイル、バター、マヨネーズ、サワークリームでした。食事は病院から提供されました。尿中のケトン体は少なくとも1回は測定されました。

食事療法を2週間以上続けた28人の患者のうち、尿中ケトン体測定値は28人中18人の患者(64%)で陽性でした。食事の順守(最大の炭水化物摂取量が20g以下)できたのは、11人の患者(39%)で週6日、12人の患者(43%)で少なくとも週5日、5人の患者(18%)で少なくとも週4日でした。(図は原文より)

上の図は様々なスコアの食事介入前後の変化です。詳細は省略しますが、多くのスコアで60~70%程度と大きく改善を示しています。

しかも、ケトン食を開始してから3週間以内に、28人の患者すべて、100%で気分と精神疾患の症状の顕著な改善が観察されました。

上の図はCGI-Sという病気の重症度のスコアです。28人の患者のうち27人で評価されました。ケトン食の介入後、27人全員が少なくとも2ポイント減少し、平均CGI-Sは4.9から2.0に改善しました。27人中12人(43%)の患者が臨床的寛解を達成しました。

上の図は、向精神薬の変化です。介入前は、患者1人あたりに服用した向精神薬の平均数は5.3で、28人中25人(89%)の患者が少なくとも1つの抗精神病薬を服用していました。介入の終わりまでに、向精神薬の数および/または投与量は、28人中18人(64%)の患者で減少しました。薬が増加したのはたった一人でした。

(上の図はここより)上の図はこの研究のまとめの図です。

症状以外の代謝の変化について、介入前の平均体重は90kg(範囲66–141kg)で、平均BMIは31.9(範囲23.0–51.2)でした。ベースラインのBMIは、 3人(10.7%)の患者では正常範囲、7人(25.0%)の患者では太りすぎの範囲、18人(64.3%)は肥満の範囲でしたが、介入の終わりでは、1人を除くすべての患者(28人中27人; 96.4%)が体重を減らしました。抗精神病薬を服用していた25人の患者のうち24人(96%)が体重を減らし、25人のうち12人(48%)が体重の5%以上の減少である、臨床的に有意な体重減少を達成しました。

ベースラインで高中性脂肪血症(中性脂肪値>150mg/dl)であった28人中14人(50%)の患者のうち、7人で100mg/dl以上の著しい減少が見られ、5人の患者が高中性脂肪血症の基準を満たさなくなりました。

空腹時血糖、HbA1c、収縮期および拡張期血圧、γGT(GGT)、AST、ALT、総コレステロールも低下しました。

いずれにしても食事の変更でこれほど顕著な改善が認められます。

私は様々な精神疾患も糖質過剰症候群だと考えています。食事を改善せずに薬だけで治療しようとしても限界があると思います。

先日、同期の友人たちと話す機会がありました。全員バラバラの診療科です。そして、最も代謝的に問題がありそう、つまり太っていたのは糖尿病専門の医師でした。私は「その体で、どうやって患者さんに痩せなさいと説明するの?」と聞きました。すると彼は「できる範囲で良いから痩せてくださいね」と言うそうです。自分ができないことは患者さんにも勧められないのでしょう。残念で仕方がありません。インスリン抵抗性を改善する気がないのでしょうね。しかし、同期の5人の中でも私は当然、少数派です。一人は緩い糖質制限をしていますが、その他はしていません。そして、当然病気は薬投与が第一で、食事なんて治療と思っていないようでした。糖質制限をしている医師は恐らく1割もいるかどうかでしょうから、同期の中でも浮いてしまうのは当然ですが、でも同期の友達なので、本音も言えるので、楽しく話ができました。しかし、同時に先は長い、闇は深いとも思いました。

100%薬の治療を否定するつもりはありません。しかし、やはり食事を改善せずに薬だけの治療には否定的です。それは食事の誤りが多くの病気をもたらしていると確信しているからです。

ただ、多くの人は現状を変えたくないので足し算の方が楽で、それが正しい治療とさえ思っています。しかし、黒い絵具にどんなきれいな色を足しても、鮮やかな色にはなりません。まずは黒い絵具を取り除くことが重要だと思います。我々の体を黒くしているのは糖質です。まずはそれを取り除く引き算が必要だと私は思っています。

 

「The Ketogenic Diet for Refractory Mental Illness: A Retrospective Analysis of 31 Inpatients」

「難治性精神疾患のためのケトン食療法:31人の入院患者の後ろ向き分析」(原文はここ

8 thoughts on “難治性精神疾患のためのケトン食の驚くべき効果

  1. 先生のブログをいつも興味深く読ませて頂いています。
    私の家内は長年統合失調症を患っていてメンタルクリニックに通っています。
    当初は強い薬を服用していましたが、パーキンソン症状が出てきたので副作用
    の少ない薬にしもらっています。
    一方私が糖質制限を続けて体調がよいので、家内にも糖質制限をさせ、最近は
    ケトン食に近い食事にさせています。すると症状が改善してきているよに思います。
    医者は、食事のことは何も言わず、ただ薬を出すだけです。
    呆れたことに、クリニックのレジ横には飴(毒)が置いてあります。 

    1. Juni Fukuzawaさん、コメントありがとうございます。

      糖質制限で症状改善良かったですね。
      ほとんどの医師は薬を出すことが治療、仕事だと思い込んでいるので、
      食事の話なんてしないでしょう。
      私の外来は食事の話が非常に多いですが…

  2. 様々理由はあるでしょうが、人生で最も大切とも言える自身の健康に対して、
    こんなに簡単で有効な「健康法」が、スタンダードにならないのが不思議です。

  3. 必ず記事には目を通すようにしております。大変な知識の宝庫を公開していただきありがとうございます。患者さんの食事遍歴を聴取すると、清水先生の言われる通りだと毎日知らされます。私の診察は、多くが食事の話しになりました。以前にはなかったことです。
    これからも希望の持てる情報を楽しみにしております。

    1. 吉田良昌さん、コメントありがとうございます。

      非常にうれしいです。文章の内容からすると、同業の方ですね。
      初診の患者さんに食事について何も聞かない内科医は果たして医師なんだろうか?薬のセールスマンでは?とも私は思います。
      しかし、薬を出さないと医療業界が成り立たないので、非常に難しい問題ですね。

      1.  ニュージーランド在住の糖質制限歴14年目ですが、去年からようやくGPがダイエットについて質問してくれるようになり、それまではコレステロールだけが問題視されてたのが、LDL-C高値だけを問題にしない、全体で判断してとても良好なので、このまま継続してくださいと言われるようになりました。
         去年のベストGPにローカーボ指導しているGPが何人か選ばれたらしく、ようやくローカーボが認められる時代になったようです。
         それまでは我が家のコレステロール高はローカーボにしてからです、と何度言っても、あなたとダイエットについて話し合うつもりはない、検査項目の異常があると監督責任を問われて自分が困るんだと言ったGPもいて、殉教者のような気持ちになったこともありました。

        1. NZさん、コメントありがとうございます。

          どの国も似たようなものですね。でも、糖質制限を認めてくれたので良かったですね。
          LDLコレステロールの闇は深いので、なかなか洗脳が解けません。

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