経口ブドウ糖負荷試験1時間値が異常であれば自律神経の障害を認める

自律神経は交感神経と副交感神経とがあり、自動的にコントロールされています。通常心臓は規則正しく拍動しています。健康な人では心拍にゆらぎがあり、それを心拍変動と言います。この心拍変動が小さくなると、自律神経の機能障害を意味します。

糖尿病ではよくこの自律神経の障害を認め、そのため様々な症状を呈すると考えられています。

今回の研究では、平均年齢55歳の92人の未治療の高血圧患者(女性56人、男性36人)を対象として、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)中に、心拍変動を評価するために心電図を記録しました。56人は正常の耐糖能(NGT)、20人が耐糖能異常(IGT)(空腹時血糖値が110~125mg/dl、もしくはOGTT2時間値が140~199mg/dl)、16人が2型糖尿病でした。56人の正常耐糖能はOGTT1時間値155以上および155未満の2つのグループに分けられました。(図は原文より)

上の図はそれぞれのグループの特徴です。当然耐糖能が悪くなるほど、空腹時血糖、OGTTの1時間値、2時間値、インスリン値などが悪くなっています。

上の図は、心拍変動の標準偏差(SDNN)を表しています。これについては私は詳しくありませんが、SDNN値が50ミリ秒(ms)未満は不健康に分類され、50〜100msは健康を損なっている状態、100msを超えると健康な状態を意味するそうです。(ここ参照)急性心筋梗塞後では100msを超えるグループよりも、50ms未満のグループの方が死亡の相対リスクは5.3倍高かったという研究もあります。(ここ参照)

そうすると、2型糖尿病ではOGTTにより1時間後に大きくSDNNが低下しています。2時間後でもベースラインに戻っていません。耐糖能異常では大きく低下していますが、2時間後には少し回復しています。正常でも1時間値が155以上のグループはやはり大きく低下していますが、2時間値はベースラインに戻っています。1時間値155未満のグループはSDNNがほとんど低下していません。

耐糖能が悪くなるほど、心拍変動が小さくなる、つまり自律神経が障害されていることを示していると考えられます。

上の図は、4つのグループのOGTT中のLF/HF比の変化をグラフで示しています。LF/HF比はLF(低周波)とHF(高周波)の比率で、交感神経と副交感神経の全体のバランスを表しています。 数値が高いと交感神経優位を、低い場合は副交感神経優位を示しています。耐糖能が悪いほどより交感神経優位になっていることがわかります。しかも、1時間値155以上の正常耐糖能のグループではOGTTの30~90分の間では2型糖尿病に匹敵するような値を示しています。

ということは正常な耐糖能と思われていても、1時間値が高い人では、すでに自律神経の機能障害が起こり始めているとも考えられるのです。そして、OGTTのような急激な血糖値やインスリンの上昇、血糖値スパイクは交感神経を増加させ、副交感神経を減少させるのです。

OGTTの1時間値は重要です。糖尿病の診断には2時間値が用いられるため、1時間値は軽視されるかもしれませんが、1時間値の上昇は様々なリスクと関連していると考えられています。(「経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の1時間値」「経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)1時間値と脂肪肝」など参照)

一方、医療の世界では、自律神経失調症という病名が都合よく使われていると思います。原因が良くわからないけれど、自律神経が異常をきたしているのではないかと思われる症状を呈する場合にこの病名が付けられます。精神的な症状として、イライラや不安感、情緒不安定、やる気の低下など、身体的な症状として、立ちくらみやめまい、動悸、倦怠感、便秘および下痢、睡眠の低下などです。

そして、これらは悪い生活習慣やストレスによって起きるとされています。もちろんこれらのことが要因の一部になっていることはあると思いますが、私はやはり糖質過剰摂取による頻繁な血糖値スパイクが原因だと思っています。自律神経失調症の薬はあるにはありますが、本当に効果があるのかどうかは私は疑問です。また、抗不安薬や眠剤なども多用されます。結局根本原因が改善しないので、患者さんはあまり良くならず、ベンゾジアゼピン系の薬の依存症のようになってしまうこともあります。

血糖値スパイクは糖質過剰摂取をしていれば頻繁に起こっているでしょう。自律神経失調症は糖質過剰症候群であると考えています。私は自律神経の異常があるのであれば、まずは食事を見直し、糖質制限をすべきだと考えます。

 

「Sympathovagal balance and 1-h postload plasma glucose in normoglucose tolerant hypertensive patients」

「正常耐糖能高血圧患者における交感神経バランスと1時間後の血糖値」(原文はここ

2 thoughts on “経口ブドウ糖負荷試験1時間値が異常であれば自律神経の障害を認める

  1. 清水先生、いつもありがとうございます。
    糖尿病人として時々思う事があります。
    糖尿病は多くの疾患にリスクがあると云う記事をよく目にします。
    それぞれの御専門の医師の方が、糖尿病の病態を考えた時、御専門の疾患の一つが糖質過剰摂取にあるのではと少しもお考えにならないのが不思議です。

    もう一つ思う事は、糖質過剰摂取、糖質過剰症候群がもっと広く認知されるようになったら、一般人よりも方向転換できない医師の方が困るのではと。

    余計な心配はしないで、ただ私は糖質摂取を限りなく少なくして生活して行くだけの事ではありますが。

    1. 太田さん、コメントありがとうございます。

      それぞれの病気にはそれぞれの原因があると考えているのでしょうね。
      でも根本原因は私は糖質過剰摂取だと思っています。
      しかし、もっと多くの人が糖質制限をしてしまうと医療業界は非常に困ってしまいます。
      糖質の依存性、中毒性を考えれば、医療業界が困るほど糖質制限は広まらないと思いますが。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です