経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の1時間値

糖尿病の診断は75gの経口ブドウ糖負荷試験の2時間値で行われます。(もちろん空腹時血糖やHbA1cも関係しますが)それ以外の時間帯つまり、30分値や1時間値は軽視される場合もあります。1時間値が高いと糖尿病型への進行率が高いと言われています。OGTT後1時間値が180以上の場合には境界型に準じた扱いとされていますが、それでも2時間値が問題ないと「糖尿病ではない」と言われて、それ以上の医師からの説明もなくそのままの方もいるようです。(「経口ブドウ糖負荷後2時間血糖値は役に立たない」参照)

何か言われたとしても、「今は糖尿病ではないけれど、将来糖尿病を発症する可能性が高いから、食事に気を付けてね」程度の話で終わることもあるかもしれません。

それにしても、「糖尿病」を「発症」するという表現には違和感があります。風邪などではウイルスなどに感染し、症状が出て発症するというのは理解できます。また、骨折などではレントゲンやCTで骨折線が認められれば「発症」(骨折を発症とは言いませんが)という境目がある程度はっきりしています。

しかし、糖尿病と正常の間にははっきりした境界線が存在し、そこを超えたら「発症」というのはおかしな話で、その境界線を決めたのは医師や学会です。それよりも早い段階で耐糖能障害が表れ始めた時点で、糖質制限を始めれば多くの人が耐糖能障害を逆転できるはずです。重要なのは糖尿病という病名を付けることではなく、患者さんをより健康な方向へ導くことだと思います。

せっかくOGTTをやるのであれば、1時間値をもっと重視すべきだと思います。1時間値が180以上の場合には境界型に準じた扱い、としていますが、様々な研究では1時間値155mg/dL以上で様々なリスクが増加し、2型糖尿病の「発症」も予測されるとしています。(表は原文より改変)

オッズ比(95%CI)
モデル1
 正常耐糖能、1時間血糖値<155mg/dl1
 正常耐糖能、1時間血糖値>155mg/dl、メタボリックシンドロームなし3.4(1.8–6.4)
 正常耐糖能、メタボリックシンドロームを伴う1時間血糖値>155mg/dl15.2(7.8–29.3)
 空腹時血糖異常(100-125mg/dl)、1時間血糖値<155mg/dl4.0(1.3–11.9)
 空腹時血糖異常、1時間血糖値>155mg/dl19.5(10.0–38.0)
 耐糖能障害(OGTT2時間値が140-199mg/dl)、1時間血糖値<155mg/dl7.1(3.0–16.5)
 耐糖能障害、1時間血糖値>155mg/dl18.1(10.8–30.1)
モデル2(A)
 メタボリックシンドロームなしの1時間血糖値<155mg/dl1
 メタボリックシンドロームを伴う1時間血糖値<155mg/dl2.4(1.2–4.8)
 1時間血糖値>155mg/dl、メタボリックシンドロームなし、空腹時血糖値<95mg/dl3.6(2.0–6.2)
 メタボリックシンドロームまたは空腹時血糖値>95mg/dlの1時間血糖値>155mg/dl30.0(19.4–46.3)
モデル2(B)
 1時間血糖値<155mg/dlおよび中性脂肪/HDLコレステロール比<3.51
 1時間血糖値<155mg/dlおよび中性脂肪/HDLコレステロール比>3.52.3(1.3–4.2)
 1時間血糖値>155mg/dlおよび中性脂肪/HDLコレステロール比<3.5および空腹時血糖値<95mg/dl4.3(2.4–7.9)
 1時間血糖値>155mg/dlおよび中性脂肪/HDLコレステロール比>3.9または空腹時血糖値>95mg/dl22.4(14.2–35.3)

上の表は様々なモデルの2型糖尿病を「発症」する可能性です。正常な耐糖能と判断されても、OGTT1時間値が155以上であれば、メタボが無くても3.4倍、メタボがあれば15倍以上にもなります。

空腹時血糖の境目をもっと低めにして、95mg/dLで分けたモデルでは、メタボが無く空腹時血糖値が95未満で、1時間値が155以上であれば、2型糖尿病になる可能性は3.6倍になり、メタボがあるかまたは空腹時血糖値が95以上で1時間が155以上になると、なんと30倍にもなってしまうのです。

つまり、1時間値が155以上になった場合には、多くの人ですでに異常が進行していて、糖質制限を始めなければその進行は止まらない可能性が高くなります。

なぜ、OGTT2時間値で糖尿病診断が成されるようになったかは知りません。1時間値だけで、もっと簡単にスクリーニングすれば良いと思います。そのような方法に関しては次回以降で書きたいと思います。

そしてそれに引っ掛かった場合は食事療法開始です。もちろん、OGTTなんてやらなくても糖質制限を始めてしまえば良いのですが。

糖質過剰症候群

「One-hour plasma glucose concentration and the metabolic syndrome identify subjects at high risk for future type 2 diabetes」

「1時間の血漿グルコース濃度とメタボリックシンドロームにより、将来の2型糖尿病のリスクが高い人が特定される」(原文はここ

4 thoughts on “経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の1時間値

  1. 清水先生、こんばんは。

    2017年1月に実施したOGTTは次のような結果でした。
    Pre 血糖100 mg/dL インスリン4.1μU/mL
    30 min 血糖104 インスリン14.4
    60 min 血糖107 インスリン11.3
    90 min 血糖103 インスリン17.7
    120 min. 血糖. 92 インスリン14.7

    今回の記事で空腹時血糖は95 mg/dLが取り上げられていましたが、私に場合、空腹時血糖が100と少し高めです。人間ドックで2018年から2020年までを見ても、93、95,108と比較的高いです。私は、記憶が曖昧ですが2014年頃から糖質制限をしているのですが、空腹時血糖がもう少し低くてもいいのではと思っています。これは糖質制限をしていることで、糖新生が活性化しているのかなとも思うのですが、いかがでしょうか?

    1. じょんさん、コメントありがとうございます。

      今回の記事の研究はあくまで糖質過剰摂取の状態でのものです。
      糖質制限を始めると糖新生が活発になるのか、コルチゾールがしっかりと朝に分泌されるのか、
      少し朝の空腹時血糖値が高くなる人もいるようですね。何か他のメカニズムがあるのかもしれません。

  2.  いつも内容の濃い記事をありがとうございます。自身も1hr値で気づき路線変更できた整形外科医です。
     若手糖尿病専門医達のコンセンサスも先生と同様の見解だと思うのですが、頑固な権威(?)達の裏にはやはり利権が絡んでいるのかと・・・思ってしまいます。

     兄弟と技師一人を糖質制限で劇的にメタボ解消させることができ、本人達と一緒に喜んでいます。
     今後の先生の発信も楽しみにしております。

    1. いちおう整形外科医さん、コメントありがとうございます。

      ご兄弟と技師一人を糖質制限で劇的にメタボ解消させることができたということで、素晴らしいですね。
      若い糖尿病専門医の1時間値のコンセンサスはあるということで、良かったですが、糖質制限に対する若い専門医の考え方はどうなのでしょうかね?

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