糖尿病では末梢神経障害を起こしますが、恐らくこれは糖尿病特有のものではないと思っています。糖尿病なんてものは、ただ診断基準に当てはまるかどうかというものでしかありませんから。病名云々ではなく、糖質過剰摂取による高血糖が起きると、恐らく何らかの神経障害が起きても不思議ではないと思っています。
むずむず脚症候群はパーキンソン症候群との関係が言われていますが、メインは末梢神経障害ではないでしょうか?
⼩線維性神経障害というものがあります。⼩線維性神経障害は末梢神経のうち小径線維(Aδ線維と C 線維)が障害されるものです。むずむず脚症候群の本態はこれだと考えています。
感覚神経(求心性)には有髄の Aβ線維(大径線維)とAδ線維(小径線維)、無髄の C線維(小径線維)があります。また、内臓求心性線維(自律神経)のほとんどは Aδ線維と C 線維です。自律神経(遠心性)の節前線維は有髄の多くはB 線維であり、節後線維は C 線維です。
そうすると、⼩線維性神経障害でAδ線維とC線維が障害を受けると、様々な病態があらわれる可能性があることが推測されます。全身に現れれば、線維筋痛症や慢性疲労症候群などを呈し、腸に現れれば過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアになります。原因がよくわからない病態の多くは、この⼩線維性神経障害が影響している可能性が高いと思います。
そして、その一つがむずむず脚症候群だと考えられます。
ある研究(ここ参照)では、多発神経障害を有する97人の連続した患者で調査し、29人の患者でむずむず脚症候群が発見されました。むずむず脚症候群患者は女性に多く(29人中22人:76%)、主に小線維型の感覚神経障害でした(29人中15人 :51.7%)が、むずむず脚症候群のない人では小線維型は68人中16人、23.5%でした。感覚活動電位の変化は、むずむず脚症候群患者で有意に軽度でした。
では、⼩線維性神経障害はどのような病態に関連しているのでしょうか?この研究では、皮膚生検で正常な皮膚と⼩線維性神経障害の人を比較しています。(図は原文より)
上の図のように、メタボリックシンドロームの有病率は、正常生検群で2.3%、神経障害群27.8%とかなりの差がありました。他にも神経障害群では高血圧も39.7%(正常群7.0%)、耐糖能障害も34.4%(正常群11.6%)、脂質異常も52.3%(正常群23.3%)、肥満も40.4%(正常群14.0%)と正常皮膚群よりも高くなりました。
上の図は、⼩線維性神経障害の重症度による比較です。メタボリックシンドロームの有病率は、重度で38.1%、中等度で26.0%、軽度で14.7%と、症状が重くなるほどメタボ有病率は増加しました。それ以外の耐糖能障害や脂質異常、肥満も同様の傾向がありました。
上の図のように、⼩線維性神経障害の可能性は、年齢の増加で1.95倍、メタボリックシンドロームで3.20倍、高血圧で1.88倍、肥満で1.93倍でした
上の図は糖尿病の人を除外した、正常皮膚群と⼩線維性神経障害の比較です。非糖尿病の神経障害群のうち10人 (10.3%) はメタボリック シンドロームの基準を満たす他の3 の要素をすべて備えていましたが、正常群にはメタボリック シンドロームの患者はいませんでした。神経障害群は高血圧、脂質異常、肥満の有病率が高く、重症度では肥満は重症群 (51.4%) で軽症群 (28.0%) や中等症群 (24.3%) よりも多くみられました。非糖尿病において、高血圧で2.29倍、肥満で2.79倍、⼩線維性神経障害の可能性が高くなりました。
末梢神経障害の患者の1/3には原因が特定できないと言われており、その約40%には耐糖能障害が認められると言われています。耐糖能障害に関連する神経障害は、初期の糖尿病性神経障害と臨床的に類似しており、小神経線維が優先的に損傷され、痛みや自律神経機能障害を引き起こします。(ここ参照)
線維筋痛症と⼩線維性神経障害の関連性を分析したメタアナリシス(ここ参照)では、線維筋痛症における⼩線維性神経障害の有病率は49%でした。
そして、線維筋痛症患者におけるむずむず脚症候群の可能性は対照と比較して11.7倍でした。(ここ参照)
過敏性腸症候群はむずむず脚症候群のリスクが高くなります。(ここ参照)過敏性腸症候群患者は対照群と比較して、むずむず脚症候群の可能性が2.60倍でした。逆にむずむず脚症候群患者は、むずむず脚症候群のない対照群と比較して、過敏性腸症候群の可能性が3.87倍でした。
原因のはっきりしない疾患、なかなか説明がつかない疾患、様々な疾患がリンクしています。⼩線維性神経障害がこれらの疾患の原因であると考えるとシックリきます。そして、⼩線維性神経障害の根本原因は糖質過剰摂取であるとするとさらにシックリきます。
ただ、糖尿病性神経障害だけでなく⼩線維性神経障害がどのように起こるかのはっきりとしたメカニズムはわかっていません。しかし、糖尿病性神経障害では解糖系がどんどん回りますので、その側副経路である、ポリオール経路、ヘキソサミン経路、PKC経路、AGE経路などが活発になります。特にポリオール経路は神経障害の原因ではないかと言われています。ブドウ糖がソルビトールに変わり、ソルビトール濃度の上昇により、浸透圧ストレスがかかり、神経が障害されると考えられています。それ以外の経路も恐らく影響を与えるでしょう。(図はここより)
そして、高血糖そのものでも炎症や酸化ストレスを増加させたり、ポリオール経路などからも酸化ストレスが増加します。またAGEs(終末糖化産物)も増加し、神経障害を起こしうるでしょう。このことは糖尿病だけで起こることではなく、糖質過剰摂取による高血糖が起きれば起こりうることです。
その神経障害の程度、部位、神経の種類ににより、様々な症状を呈すと思われます。
つまり、むずむず脚症候群の根本原因は糖質過剰摂取による高血糖だということになります。たまたま糖質過剰摂取により障害を受けた神経が下肢の⼩線維の神経であっただけでしょう。
そうすると、むずむず脚症候群の人は、まず重要なのは糖質制限となります。そのうえで、⼩線維性神経障害を踏まえた治療をすると、改善する可能性があると思います。
むずむず脚症候群をパーキンソン病薬で治療をして、ドツボにはまらないように注意してください。(「むずむず脚症候群の薬にご注意を」参照)
「Metabolic syndrome in small fiber sensory neuropathy」
「小径線維性感覚神経障害におけるメタボリックシンドローム」(原文はここ)