「その1」では、尿酸酸性の増加について書きましたが、今回は尿酸排泄低下についてです。
通常では、尿酸は腎臓で濾過された後にほとんどが再吸収されます。つまり、体にとっては尿酸を捨てたいのではなく、残しておきたいのです。しかし、尿酸が多すぎれば体は当然、排泄量を多くすれば良いだけのはずです。人間の本来のメカニズムはそのようになっています。
ところが、現代では人間の食事が間違っているために、この本来のメカニズムが上手く働かなくなり、尿酸が増加してしまうのです。
尿酸の排泄低下に最も影響があるのは、インスリンでしょう。健康なボランティアにインスリン注入によって誘発される生理的正常血糖高インスリン血症は、尿中への尿酸排泄を急激に25~35%減少させます。(ここやここ参照)
糖尿病でインスリンで治療を開始すると血中の尿酸値が上昇します。(ここ参照)
インスリンがどのようにして尿酸排泄を低下させるかのメカニズムははっきりわかっていません。高インスリン血症でも腎臓のインスリン感受性が保たれていると考えられていて、インスリンにより腎臓のいくつもの尿酸のトランスポーターが活性化します。その中でも再吸収を主に担うGLUT9が強く活性化するためではないか?と考えられています。(ここ参照)
ちなみにカフェインはこのGLUT9を阻害すると考えられていて、尿酸値を低下させる作用があると考えられています。(ここ参照)
インスリン抵抗性の程度と血中の尿酸濃度は有意に関連し、インスリン抵抗性は尿中尿酸クリアランスとは逆相関し、さらに尿中尿酸クリアランスは血中の尿酸濃度と逆相関しています。(ここ参照)
メタボリックシンドロームでは血中の尿酸値が有意に高くなりますが、これは尿酸の過剰産生よりも、尿中への尿酸排泄の減少が主なメカニズムと考えられています。(ここ参照)
アルコールは⾎中の乳酸濃度を上昇させ、乳酸は尿酸の腎排泄を低下させ、さらに、尿酸の再吸収を促進すると考えられています。(ここ参照)当然、果糖も乳酸を増加させるので、同様に尿酸排泄を低下させるでしょう。
多くの専門家や栄養士たちは、尿酸値が高い場合に、プリン体の少ない食事をアドバイスするかもしれません。プリン体を多く含むものには内臓系のタンパク質、魚介類などが多いでしょう。しかし、それを避けたとして、糖質を過剰摂取については何ら言及しないかもしれません。
では、尿酸値の急性変動はどうなっているのでしょうか?(図はここより)
上の図は、プリン負荷食(白米200g、マグロ200g(プリンヌクレオチド800mg)、醤油5g)およびプリン飲料(5′-イノシン酸ナトリウム0.25gおよび5′-グアニル酸ナトリウム0.25gを含む市販調味料を150mLのミネラルウォーターに溶かしたもの)を摂取した後の尿酸値の変化です。このプリン負荷食やプリン飲料の合計で、どれくらいのプリン体になるのかはよくわかりません。
プリン体を負荷した後、120分値でピークになっています。1.7mg/dL程度の上昇ですね。ベースラインの尿酸値が5mg/dL程度であれば、これくらい食後に上がっても問題ないでしょう。ただし、6時間経ってもベースラインには戻っていません。根本的な改善ではありませんが、血液検査で尿酸を測定する前は、少しでも良い数値を出したいのであれば、絶食の方が良さそうですね。もちろん十分に水分摂取をしないと脱水で尿酸値が上昇します。コーヒーで尿酸排泄を増加させれば、もっといいかもしれません。
では、果糖を負荷するとどうなるでしょうか?いくつかの研究を見てみましょう。(下の図はここより)
上の図は、果糖 (F)、砂糖 (S)、イソマルツロース(パラチノース) (I) を含んだドリンクを飲んだ時の様々なパラメータです。すべてのドリンクには25gの果糖が含まれており、250mlで。S と I のドリンクには果糖以外(ブドウ糖)を含めて、それぞれ合計で50gの糖質が含まれていました。
AとBは血糖に関するもので、Aは血糖値の推移、Bは0~240分の曲線下面積です。S、つまり砂糖が圧倒的に血糖値の上昇、曲線下面積が大きいですね。果糖はほとんど変化していません。
CとDは血中の尿酸値についてです。どれも果糖を25gずつ含んでいますが、果糖だけのドリンク(F)が最も尿酸値の上昇が大きく、曲線下面積も大きいですね。つまり、純粋な果糖の方が尿酸値増加効果が高いことになります。240分でもまだベースラインに戻っていませんので、そこまでの上昇ではありませんが、非常に長い間尿酸上昇が続きます。
EとFはキサンチン/ヒポキサンチン(Xa/Hx)というプリン体の中間代謝物の濃度です。有意ではありませんが、これも果糖ドリンクが一番多いですね。
ちなみに尿中への尿酸の排泄に差はありませんでした。
他の研究で、果糖負荷の尿酸値の推移を見てみましょう。今回は慢性腎臓病(CKD)、2型糖尿病(T2D)、健康な人(HS)それぞれに、果糖ドリンク(点線:果糖35g入り)、コカコーラ(破線:果糖17.5g、ブドウ糖17.5g入り)、ブルーベリードリンク(実線:果糖18g、ブドウ糖14g、ショ糖2-3g入り)のそれぞれを飲んでもらったときの血中の尿酸値の変化率です。さらに、上記のドリンク+ピザを食べてもらったときの尿酸値の変化(d,e,f)も調べています。(下の図はここより)
どのグループも果糖ドリンクで尿酸値が大きく増加しています。コカコーラと比較しても、果糖の量はたった2倍なのに、圧倒的な差があります。興味深いことに、変化率だけを見ると健康グループの尿酸値増加が、CKDや2型糖尿病よりも多くなっています。ただ、ベースラインではCKDが最も尿酸値が高かったので、数値的にはCKDが最も高くなりました。今回もやはり、純粋な果糖ドリンクが最も尿酸値上昇が大きくなりました。
ただ、ピザを一緒に食べると、尿酸値の増加がやや低減しています。実際の食事を考えたら、もっと食事では変化が少ないかもしれませんね。
もう一つ、見てみましょう。近年異性化糖としてよく使われている高果糖コーンシロップと砂糖のドリンクの比較です。高果糖コーンシロップドリンクには39.2 gの果糖と28.8 gのブドウ糖が含まれていて、砂糖入りドリンクには、34.6 gの果糖と34.8 gのブドウ糖が含まれています。果糖の量はたった5gの違いで、高果糖コーンシロップドリンクが約13%多いだけです。(下の図はここより)
上の図はAが血中の尿酸値の推移、Bが尿酸の尿中排泄率です。青が高果糖コーンシロップ、赤が砂糖です。これも圧倒的に高果糖コーンシロップドリンクの方が尿酸値増加が大きいですね。たった5gの違いなのに、差は歴然としています。さすが猛毒果糖ですね。尿中排泄率も高果糖コーンシロップの方が高いですが、これでもまだ排泄が少ないのかもしれません。
さて、ここまでは果糖ドリンクの一気飲みの研究でした。次の研究はちょっと違います。等エネルギーの低果糖食(LFrD-Iso)、過剰エネルギーを果糖として34%摂取した高エネルギー食(HFrD-Hyper)、デンプン30%を果糖で代用した等エネルギー高果糖食(HFrD-Iso)、低果糖食で過剰エネルギー食(LFrD-Hyper)を4~6日食べて、0.2g/kg除脂肪体重の果糖を1時間ごとに9時間摂取するの試験中の血中尿酸濃度に及ぼす影響を調べています。9時間なので、トータルの果糖摂取量は1.8g/kg除脂肪体重です。除脂肪体重が50kgならば果糖90gを摂取します。(下の図はここより)
上の図のAは血中の尿酸値の推移です。どの食事でも1時間に10g程度の果糖摂取では尿酸値の変動はありませんでした。つまり、果糖も少しずつ摂れば、尿酸値の大きな増加はないということでしょう。ただ、過剰エネルギーを果糖として34%摂取した高エネルギー食(HFrD-Hyper)の場合、空腹時尿酸値が最も高くなっています。日々の食事の影響は空腹時に出るようです。
Bは尿中尿酸排泄率です。低果糖食と比較して高果糖食では差がありませんでしたが、Cに示すように、腎臓の尿酸クリアランス率は高果糖で有意に低下(9.8%)していました。Dは尿中尿酸排泄分画ですが、これも高果糖食で有意に低下(11.5%)していました。
この結果は、尿中尿酸排泄量の減少が果糖誘発性高尿酸血症に寄与している可能性を示唆しています。
糖質過剰摂取による高血糖やインスリン抵抗性で、尿酸の産生増加と排泄低下が起きてしまいます。尿酸排泄が問題なければ尿酸の産生が増加しても問題がないはずです。だから、最も気を付けるべきは、プリン体の摂取量ではなく、糖質やアルコールの摂取量だということになります。糖質過剰摂取をしたままでは、プリン体を減らしても、大して尿酸値は低下しないでしょう。
尿酸ビジネスに騙されないように。