必須脂肪酸の中のオメガ3脂肪酸は健康的だと思われています。もちろん私も健康的だとは思いますが、それを薬のEPA製剤やサプリで摂ることには懐疑的です。
ご存じの方も多いと思いますが、以前の記事「心血管リスクの高い人はオメガ3脂肪酸値を上げれば有害な心血管イベントを減少させられるか?」で書いたように、EPA製剤は心房細動のリスクを増加させます。その記事で取り上げた研究ではコーン油と比較して、心血管イベントの発生に違いがなかったばかりか、心房細動が1.69倍のリスクになっていました。
他の研究(ここ参照)でも、心房細動の発生率はEPA群5.3%の方がプラセボの3.9%よりも有意に高く、心房細動または心房粗動による入院もEPA群3.1%の方がプラセボ群の2.1%よりも有意に高くなりました。その他末梢浮腫の発生率もEPA群で6.5%、プラセボ群で5.0%と高くなっていました。
ただ、この2つの研究ではEPA製剤が1日4gと多いから、問題であった可能性がありました。しかし、日本人を対象とした研究(ここ参照)では、1.8g/日と少ないEPA製剤を使ったのに、新規発症心房細動率はEPA群で3.1%でプラセボ群1.6%より有意に高くなりました。
これを受けて、とうとう厚労省も2024年11月13日、イコサペント酸エチル(商品名:エパデール)ならびにオメガ-3脂肪酸エチル(商品名:ロトリガ)の添付文書の改訂指示を出し、重大な副作用の項に「心房細動、心房粗動」の追記がなされることになりました。(ここ参照)
では、どの程度のオメガ3製剤およびサプリだとリスクが増加するのでしょうか?
7つのランダム化比較試験のメタアナリシス(ここ参照)では、オメガ3脂肪酸に関連する心房細動のリスクは、1g/日を超えるオメガ3製剤およびサプリの使用でより高く、心房細動リスクはオメガ3脂肪酸の用量とともに増加し、1g/日以下の場合はリスクが1.12倍、1g/日を超える場合は1.49倍でした。1~4g/日の範囲でオメガ3の摂取量が1g増加するごとに心房細動リスク1.11倍になりました。オメガ3脂肪酸1gの場合、そこに含まれるEPAはその半分程度であるため、500mgのEPA製剤やサプリでさえ、心房細動のリスクを高めるのかもしれません。
しかし、体内のオメガ3が多くなると心房細動が本当に増加するのでしょうか?血中または脂肪組織のオメガ3脂肪酸レベルと心房細動の関連を分析した研究があります。(図は原文より)
上の図はオメガ3レベルと心房細動のリスクを示しています。血液および組織中のオメガ3値で5つのグループに分けたとき、最低人と比較すると、最高のオメガ3値の人は、心房細動を発症するリスクが6%~13%低くなりました。それはEPAよりDHAの方がリスク低下が大きくなりました。いずれにしても、どうやら、心血管疾患患者や心血管疾患リスクが高い人々におけるEPA製剤やサプリメントによる高用量のオメガ3脂肪酸摂取は、食事による習慣的な低用量のオメガ3脂肪酸摂取とは異なる可能性があります。つまり食事の中で魚等から得られるEPAを含むオメガ3は問題とはならず、EPA製剤やサプリで一度に大量のオメガ3を摂取することが心房細動の発症と関連している可能性があります。
さらに、以前の記事「オメガ3サプリメントの品質は怪しい」で書いたように、オメガ3サプリは品質の問題があります。多くの製品で実際の含有量はラベルに示されているオメガ3の量の67%未満しか入っていませんでした。ひどいものだと30%程度のものまであります。そして酸化しているものもかなり多いのです。
オメガ3脂肪酸と心房細動の関係のメカニズムが完全にわかっているわけではありません。EPAとDHAでは役割が異なる可能性もあります。心筋の細胞膜にオメガ3が組み込まれるので、EPAが何らかの影響を与えることは不思議ではありません。
普通の食事をしていればEPAだけが急激に体内濃度が上がることはあり得ません。EPA製剤やサプリではなく、水銀に注意しながら、食事でオメガ3を摂りましょう。
「Omega-3 Fatty Acid Biomarkers and Incident Atrial Fibrillation」
「オメガ3脂肪酸バイオマーカーと心房細動の発症」(原文はここ)
それこそ「cherry picking」のように
有効成分の良いところ取りを
してるのがsupplementなのだと
思いますが、
食品に含まれる場合と、サプリに
抽出された場合とでは、成分の
身体への働きも変わるのかも
しれませんね。
民話の「瘤取り爺さん」のように、
二番煎じは良くないのかも。